怖い本まとめ2017(下)

おかげさまで、このサイトも本日をもって一周年を迎えることができました。これも日頃からこのサイトを訪れて頂いている皆様のおかげです。ほんとうにありがとうございます。更新ペースは落ちましたが、気長に続けていければと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

と、いうわけで、半年ぶりにこの間の作品を振り返る怖い本のまとめ企画を行ってみたいと思います。

<恐怖の大王大賞 2017下半期・ノミネート作品>

前回、5/13日以降から本日までで、★5つは7作品しかありません。

「あしたのジョー()()」
ドラゴンランス戦記
まっぷたつの子爵
ベルセルク
新版 指輪物語<1>
続巷説百物語(後編)
高熱隧道

というタイトルです。このうち、純粋とは言えませんが、ホラーと言えるのは、「まっぷたつの子爵」「続巷説物語」「高熱隧道」の3タイトルだけで、残る4つの内3つはファンタジー、残る一つはボクシング漫画という内容で、管理人の趣味が如実に反映された内容になっています。

これを★4つまでに広げると、大きく広がりますので、そのうちホラー(要素のある小説と漫画)のみをピックアップして列挙すると「怖くて眠れなくなる感染症」「江戸の刑罰」「伊藤潤二自選傑作集」「洞爺丸はなぜ沈んだか」「マークスの山」「妖怪ハンター1 地の巻」「パンドラの少女(上)(下)」「〈グレン・キャリグ号〉のボート」「山の霊異記 赤いヤッケの男」「飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選」「ファントム」「倉橋由美子の怪奇掌篇」「夏の花」「廃市」「巷説百物語(前編)」「ねじの回転」「月岡芳年 妖怪百物語」「異次元を覗く家」「地獄変」「絡新婦の理」「たたり」「文字禍」「雨月物語」「2084世界の終わり」「死の舞踏」「クトゥルー(1)」「抗生物質と人間」「鍵-自選短編集」「アーカム計画」「人間椅子」「羆嵐」と、新旧洋邦ジャンルを問わず33作品になりました。

と、いうわけで、対象はこの36作品の中から選びたいと思います。

<恐怖の大王大賞>

【大賞】まっぷたつの子爵(カルヴィーノ/岩波文庫)成城比丘太郎・評

成城比丘太郎氏が評した一冊ですが、そのタイトルのインパクトと言い、内容の芸術性と言い、深みのある恐怖と言い、含蓄のあるストーリーなど、多々ある優れた点を評価したことが受賞の理由です。短絡的な恐怖を追うのではなく、根源的な人間の業とそれによって齎される災禍は普遍性のあるものです。オリジナリティあふれる点と普遍性の両立、この難題を成し遂げた本作は素晴らしい作品と言えるでしょう。

【特賞】高熱隧道(吉村昭/新潮文庫)きうら・評

過酷な労働の恐怖を描くプロレタリアホラーがあるとすれば、この一作は外せない悪夢のような作品。トンネル工事という、言ってしまえばただの「仕事」で、労働者の命が紙よりも軽く消費されていく恐怖は、自分たちの生活に置き換えてみてもジワジワと迫りくる本質的な「何か」を訴えてきます。加えて、過酷な労働現場の恐怖感とそれを克服していく娯楽性も高く、目の離せない展開で単純に面白いというのも理由です。同じく吉村昭による「羆嵐」もノミネートしていますが、こちらを特賞としました。今更ですが、作品から圧倒的筆力を感じます。共同運営者の成城比丘太郎氏からも、以下の推薦文を貰いましたので掲載します。

文学的な価値もさることながら、おそろしい記録の数々に戦慄する。読んでいないのに、これだけの恐怖を味わうのは、登場人物たちのおかれた過酷な現場が私たち一般人と決して無関係ではないからだろう。現代人の生活はこうした偉業と犠牲の上に成りたっているという、平凡で厳粛な事実だ。きうら氏の筆致も淡々とした熱さを感じる。これは工事従事者たちの感じた温度をほんの少しだけでも伝えてくれる熱さだ(成城比丘太郎)。

【佳作】異次元を覗く家(ウィリアム・ホープ・ホジスン[著]・荒俣宏[訳]/ナイトランド叢書)成城比丘太郎・評

その得体のしれなさ・不気味かつ独特な内容で、その不条理性も含め、じっとりとした恐怖を感じられる一作。評者の成城氏も「とらえどころのないスケールのでかさ」と評しているように、ただのホラーに飽き足りない読者に最適な一冊。ウィリアム・ホープ・ホジスンは「ねじの回転」「〈グレン・キャリグ号〉のボート」もノミネートしていますが、いずれ劣らぬ佳作揃い(★4)ですので、合う合わないはあるかもしれませんが、読んで損はしないでしょう。

【佳作】「山の霊異記 赤いヤッケの男」きうら・評

こちらは上記のホジスンとは違い、正統派の日本の「怖い話」です。一見平凡にも思えますが、山にまつわる怪談が、抑制された文章と丁寧な語り口で物語られており、このサイトの趣旨に合った「怖い話」を堪能頂けるのではないでしょうか? よく似た「百物語」「耳袋」系の類書に比べても、一段上の恐怖が味わえる一作です。飛び道具が多い本サイトで、バランスも取れ、最も趣旨に沿った一冊だったような気もします。

【特別賞】愛 (ウラジーミル・ソローキン (著), 亀山 郁夫 (翻訳)/文学の冒険シリーズ)きうら・評

本編の評論でも散々なことを書いていますが、まともな読者を奈落の底に突き落とす、衝撃のロシア文学……文学と言っていいのか非常に迷いますが、まあ、そういう風に分類しないとただの「狂人の殴り書き」になってしまうような作品です。インパクトだけなら今期でずば抜けていますので、機会が有れば表題作だけでも読まれてみるといいでしょう。ただし、読んだ人の約10割は後悔すると思います。後悔しつつもう一度読みたくなる、そんな「怖い」本ですので、皆さんにお勧め……はできません。

【特別賞】ドラゴンランス戦記 (1) (マーガレット・ワイス(著)、トレイシー・ヒックマン(著)、安田均(翻訳)/富士見文庫)きうら・評

こちらは、成城比丘太郎氏より推薦文を頂いたので、ホラーではないですが、特別賞としました。

私の基礎となったファンタジーのひとつ。バタくさい面もあるが、今の若者にも読んでもらいたい。当時(30年近く前)、私は、ある雑誌にて(確か)翻訳者が「実費で原書をアメリカから取り寄せます」と募集していて、原文で読みたいな~取り寄せようかな~、と迷ったほど(成城比丘太郎)。

実際、本当にバタ臭いですが、面白い本だと今でも思っていますので、古本屋でも見かけたらぜひ、一度ご覧ください。

 


<買った自分がむしろ怖い大賞 2017下半期ノミネート作>

実は、このカテゴリーにノミネートしている★1つの作品は「人魚伝説」だけで、これはもうぶっちぎりの高(低)評価です。なお、★2つは「メルキオールの惨劇」「結ぶ」「「ペスト」「ケモノの城」「慈恩保の怪談話」「私は人を殺したことがある」「私が彼を殺した」「急いで喉を裂け」「魔の聖域」の11作品。さあ、大賞と特賞以外を順に貶しましょう。「メルキオールの惨劇」はやりたいことは分かるけど、ケレンが強すぎて入り込めない。「結ぶ」「家」はプロ作家の飛ばし作品という感じで、まあ、いいでしょう、軽く流しましょう。「慈恩保の怪談話」「私は人を殺したことがある」は素人が書いた「怖い話」だと思えばまだ許せます。「急いで喉を裂け」はただのいまいちな漫画で、「魔の聖域」は最近読みましたが、すでに内容を忘れました。

<買った自分がむしろ怖い大賞>

【大賞】人魚伝説 (山村正夫/角川ホラー文庫)

支離滅裂という単語がこれほど似合う小説はありません。人魚とはほとんど関係のない、中途半端にキモチノワルイお話が書かれていますが、正直どうでもいいです。何となく凌辱シーンを入れてみたり、意味不明なオチを付けたり、いったい何を書きたかったのか未だに分かりません。古い本なので今読んでもまったくネタにもならないというのもポイントが高いです。本になっただけ凄いですが、駄作というならこれ以外ないという作品。反面教師という意味で、一度読まれることを……お勧めしません。

【特賞】ケモノの城 (誉田哲也/双葉文庫)

ホラー小説を読んでおいて、胸糞悪いというのも矛盾してますが、とにかく実在の事件を題材に取っているにも拘らず、実在の事件より怖くない、というか、不謹慎な改悪がなされている作品。というより、この事件を扱うならもう少し覚悟がいると思うのですが、そういったものがまるでなく、何となく話題になるだろう的な下心がチラついているのが余計に作品の評価を下げています。本編にも書きましたが、余程のサディスト以外は無用の長物。間違って買ってしまわないようにしましょう。

【佳作】ペスト(カミュ[著]・宮崎嶺雄[訳]/新潮文庫)成城比丘太郎・評

翻訳がとにかく読みにくくて、中身がよく理解できないという、ホラー以前の問題で失敗している作品。テーマはそれなりに興味深いのですが、評者の成城氏が「何を書いてあるのか良く分からない」という程なのでよっぽど読みにくいのでしょう。それとも原文からそうなっているのでしょうか? とにかくペストについてはもっと他に的確な説明があると思うので、積極的におススメできる理由がない一冊ということで佳作となりました。

 

<総評>
今回のまとめはどうでしたでしょうか? けっこうな数のホラーを読んでますが、傑作となると中々選ぶのが難しいです。ちなみに京極作品とベルセルクはシリーズもののため省きましたがどちらも面白いですよ。また、キングやクーンツの海外巨匠ホラー勢もおススメです。昨今も物騒な事件が頻発していますが、怖い出来事は本の中だけで、自分の生活は平穏無事に送りたいものです。と、いう風なことを書いている今、自分で「死亡フラグ」を立てた気分になりました。それでは、少し早いですが、良いお年を!

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