- 漂流した先に待つ魔の海域。
- 漂着した島での魔物どもとの戦い。
- 詳細な「海事用語」は難しいが、その分臨場感が増している。
- おススメ度:★★★★☆
(簡単なあらすじ)<グレン・キャリグ号>の乗客である「わたし」の目線から物語られる海洋冒険譚。「南方の未知なる海域」に水没した船からボートに乗り込んだ船員たちが、怪奇な島々に漂着するのですが、ある島は奇怪な植物が繁茂していたり、ある島では謎の魔人に襲われたりします。彼らは、魔人や巨大生物との戦いを経て、無事に故郷へたどり着けるのでしょうか。
彼らが出くわす怪異は、同じくホジスン『夜の声 (Anazon)』(創元推理文庫-短編集)で出てきたものにも似ています。映画『マタンゴ』の原案になったという「夜の声」を思わせる、巨大キノコも本書に出てきます。奇妙な叫び声や、廃船の様子や、遭遇する大嵐などは、実際に船員経験のあるホジスンも経験したことでしょうか。
本書の大半は、「海藻大陸」または「海藻の島」と呼ぶ、周りを大量の海藻にとりまかれた島でのサバイバルです。ここで、魔物どもとの生死をかけた戦いが繰りひろげられます。また、新たな人々との出会いもあるのですが、彼らとの連絡方法が何とも奇抜というか大胆というか、本当にそんなことできるのかと思わせるもので、でもなぜか納得させられるものもあります。これは、登場人物(特に「わたし」)の精力のようなものがそう感じさせるのでしょうか。
一行がいったい何人グループなのか書かれていないのですが、その一行の中で、一番目立つのは何といっても「水夫長」でしょう。常に冷静なのですが、仲間の危機には人一番熱さをみせ、なおかつ勇敢で頭の回転が速く、おそろしいほどの「慧眼の持ち主」で、おそらく彼みたいなマルチなリーダーがいなければ、一行はすぐに全滅していたかもしれません。
本書は結構シンプルな怪奇冒険で、ちょっとしたワクワク感を味わうのには丁度よいかと思います。
(成城比丘太郎)