- 読書メモ(044)
- 「承認欲求」のネガティブ面を捉える
- 何でもかんでも「承認欲求」から読み解く
- おススメ度:★★★☆☆
【本書について】
最近よく聞く「承認欲求」というワード。これはたとえば、「あいつは承認欲求の塊だ」とか「承認欲求オバケ」とか、相手をディスるときとかに使われると思う。まあ、「あいつイタイやつだな」とかいうニュアンスなのだろう。しかし著者によると、「承認欲求は本来、人間の正常な欲求の一つである」ということ。
誰しも周囲の人間から認められたいと思ってるだろうし(おそらく)、それが何かのモチベーションにつながることはある。「承認欲求」とは、人間の成長に欠かせないものではあるし、また、他人との共同作業においても「承認欲求」というものが重要になってくるよう。まあ健全な意味においては、「承認欲求」とは大事であって、マイナス面だけではないということのよう。
しかし本書では、ポジティブな面だけでなくて、ネガティブな面を強調しようとしている。それは、他人から「おまえは承認欲求オバケだな」とバカにされることの弊害?ではなくて、「周囲の他人から認められたい」という欲求が、かえってその人を縛り付けてしまい、行動面などに悪影響を与えてしまうことをいう。子どもから大人まで(あるいはスポーツ選手とかも)、周囲からの期待が大きくなるほどに、その重圧に耐えられなくなってしまうことがある。もちろん「承認欲求」が十分に満たされずに、「自尊感情」や「自己効力感」といった自己肯定に関する感情がうまく育たないという側面もある。
いろんな局面を含めて、著者は現代日本に潜んでいる問題を「承認欲求の呪縛」から解こうとしている。それはそれで納得できる部分はある。とくに、一見「承認欲求の呪縛」と何の関係もなさそうな事象にそれが深くかかわってくるのではないかとしているのは、なるほどとは思う。そういう意味でいうと、「承認欲求の呪縛」の危険性はよくわかる。なのですが、どうも大雑把に「呪縛」の例を取り上げてるんじゃないのか、と思うこともある。さらに、時に単純化しすぎではないかと思わないこともない。それらに加えて、「承認欲求の呪縛を解くカギ」の章では解決策を提示するけれども、ちょっと難しいのではないの?と思わないでもない。なぜかというと、それがすぐにできたら今の日本はこうなっていないからと思うからだけど。
まあなんにせよ、「承認欲求」という概念から、悪い意味での「承認欲求」という呪縛を解放する時がきてるのでしょうね(したり顔)。
【余談】
さて、てなことを書いている私自身も、反省的に考えてみると、「承認欲求」にそれなりに捉われてるなと分かった。たとえばこのブログなんかでいうと、本来ならプライベートなノートに読書感想を書くだけであったものを、こうして全世界に晒している時点で何らかの「承認欲求」を満たそうという思いがあるのかもしれない。しかし、私の周囲からは今のところほとんど褒められもしない(し、けなされもしない)ので、公開してからは何も変わらない。私自身は、幼少期から(身内や友人知人といった周囲の人間から)褒められるよりもけなされるほうが多かったので、今では自己肯定感は低く、しかも猜疑心が強いので、何を言われても不当とも正当ともとらないだけかもしれないけど。
著者が書くように、学校や職場といった「準拠集団」以外の、何らかの場所で、自己を表現する手段を見つけたら、健全な「承認欲求」が育つかもしれない。というわけで、このようなブログを(法に触れない範囲で)おこなうというのもひとつの手かもしれない。てなことを思った。
【さらなる余談】
現在放送中のとあるアニメでは、800歳の仙狐さんが、冴えない(ように見える)サラリーマンのもとに現れて、なにかと世話を焼いてくれる。まあ癒し系というか癒され系というか、そんな感じの《のんびりアニメ》。ここでは、その主人公リーマンが、仕事をなかば無理やり押し付けられサービス残業は当たり前で、彼もそれに仕方なくこたえようとしている。これは本書でいう「承認欲求の呪縛」といえるだろう。そして、その疲れた主人公を癒すために仙狐さんは、「おかえりなのじゃ」と帰宅を出迎え、食事を作り、といたかんじなのだが、この両者ともに段々と、物語が進むうちにお互いがいい意味で共依存の関係になっていく(仙狐さんがモフモフさせるのも、その現れか)。これもまた「承認欲求」といえるものだろう。お互いがお互いに認められようと無意識的に思っていると思える。それは、隣に住む漫画家さんにも言えることだと思う。このアニメでは、「承認欲求」が、いい意味でも使われているような気がする。
まあなんというか、アニメに限ってみても、けっこう「承認欲求の呪縛」に捉われた登場人物はいるんじゃなかろか。それが高じると、例えば「闇堕ち」したりなんかするんだろうなぁ。いわゆる「ダークサイド」に堕ちるということを含めてだが。
「こんなに頑張ってるのにアンタに褒めてほしいのに、なんであの子のことしか褒めないのよ」ってな感じで、「承認欲求」を他人に求めてくるキャラは何人も頭に思いうかぶ。
(成城比丘太郎)