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「雨月物語」(『日本文学全集11』)(上田秋成・円城塔[訳]/河出書房新社)~紹介と感想、中程度のネタばれあり

投稿日:2017年9月19日 更新日:

  • ヴァラエティーに富んだ9編。
  • 観光文学としても読めます。
  • サラサラと流れるように読める翻訳。
  • おススメ度:★★★★☆

『雨月物語』は近世の作品でありながら、(この翻訳によって)まるで現代の幻想怪奇小説の類として読むことができます。他の出版社からも出ていますが、今回取り上げるのは、作家の円城塔が翻訳したものです。広く知られた作品でもあるので、簡単に内容の紹介をしたいと思います。

「白峰」……讃岐に詣でた西行法師が、(怨霊となった)崇徳院と対面し、激論を交わして諭すかと思いきや、西行は魔道に堕ちた院にどうしようもなく、涙を流しながら歌を奉るのですが……。この一編は、もし現代人が現代ものとして読むと、院の境涯に同情した西行が、院の無念さに感応して夢のようなものを見たと(無理矢理)捉えることができるでしょうか。しかし、実際の西行は「諦めてください、仕方ないじゃあないですか」というような内容の歌を詠んだのですが。

「菊花の約」と「浅茅が宿」とは、前者が義兄弟、後者が一組の夫婦の話で、(片方が死してもなお)約束を果たそうとする内容です。私にとって、「菊花の約」に尼子経久の(月山)富田城が出てくることが、どうしても気になるところです。「菊花の約」の最後はちょっと良い話に落としすぎですかね。経久が二人の信義に感じいった、なんてのは出来すぎか?

「夢応の鯉魚」……これには典拠があるようです。三井寺の僧である興義は、絵の名人として知られていました。ある日彼は死んでしまうのですが、その後の顛末は実際に読んでみてください。夢のようなことが語られるので、解説しても味わいは伝わりません。説教臭いところはあまりなく、ファンタジックな一編です。

「仏法僧」……伊勢の相可に住む親子が、旅行のついでに高野山へ参詣し、夜の奥の院にて怪異に出会う単純な話です。実話ということで、ホラーとしては余計な(?)一文が最後にあります。ところで、私が10年以上前にはじめて高野山に訪れた時は、完全に観光地になっている高野山に軽いショックを受けました。昔からそうだったのか、どうなのか。

「吉備津の釜」……吉備の国に住む井沢正太郎が妻を捨て、他の女(遊女)と駆け落ちしますが、駆け落ち相手は、鬼と化した妻の呪いで死に、正太郎自身もその鬼に襲われ、彼は陰陽師に助けを求めます。彼は陰陽師に、四十二日間戸締りして物忌みしろと言われるのですが……。これを学生時代にはじめて読んだとき、ラストの光景に衝撃を覚え、思わずそれを絵に描いたほどです。今読んでも物語中一番怖いラストシーンですね。

「蛇性の婬」……漁師(網元)の次男である豊雄は、学問などをして気ままに生活していました。彼はある雨の日に美しい女性に会います。その後夢の中で、真女児という名であるその女性の家に訪れます。それから現実の世界でも彼女の家を訪問するのですが……。この真女児は今でいうところの「ヤンデレ」に近いものがあるかもしれません。人間ではないので、病んでいるのとは違いますが、彼に会うために他の女性に取り憑いて、正体を現すシーンには、まるで「ヤンデレ」女性の不気味な笑みが見えるかのようです。そして、紀の国から長谷寺、さらに吉野へと遊山するところなどは、この『雨月物語』が観光文学でもあることを示しています。他の作品もそうですが、特にこの「蛇性の婬」はそうだなぁと感じます。

残りの二編は、快庵禅師という大徳の聖が出会った、妄執にとらわれたある僧をめぐる「青頭巾」。岡左内(意味深な名前だ)という武士の前に現れた黄金の精霊との金銭論議をつづった「貧富論」。

簡単に読める作品ばかりなので、気楽に読めるかと思います。まだ読んだことのない人には是非とも読んでいただきたいですね。

(成城比丘太郎)



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