★★★★☆

【再読】自分の中に毒を持て(岡本太郎・青春文庫)

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  • ある種の人間にはまるでバイブル
  • 実際に道を踏み外し(踏み出し)た人も
  • 全ての満足できない「今」を持つ人に
  • おススメ度:★★★★☆

このサイトでわざわざ再読と記して同じ本を紹介するのは初めてだ。それにはきっかけがある。

先日、私の親友と1年ぶり位に会って酒を酌み交わした。
「僕、仕事辞めたんですよ」
私は大笑いした。なぜなら、彼が務めている会社というのは、誰もが羨むような一部上場の一流企業なのだ。そして、その業界では超ホワイト企業として名が通っている。有給は全部消化できるし、給料ももちろん高い。彼は年に一回、つれあいと海外旅行を楽しんでいたし、家にワインセラーまである。そんな企業を「辞めた」のである。年齢は私の少し下だが、仕事にとりかかる年齢としては正にこれからだ。そんな彼が語ったのが
「実は、岡本太郎の自分の中に毒を持てって本を読みましてね」
と、語り始めた。私が同じ本を読んだことを告げると、今度は彼が笑った。
「あれは仕事を辞めたくなりますよね」
う、うん。他の原因がいくつもあったとはいえ、(当時の)仕事が辞めた理由の一つにこの本があったことは間違いない。
私は前回「それでもこれは怖い本だと思う。『この本に影響されると、人生を踏み外す危険がある』というのが理由だ。」と、書いたのだが、正に被害者がここに一人出たという訳だ。

なにしろ、冒頭からこれだ。

 人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。僕は逆に、積み減らすべきだと思う。財産も知識も、蓄えれば蓄えられるほど、かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると、いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。

私は社会批判をするつもりはないが、今月起こった事件の大半が、その蓄えた財産や知識、さらに言えば技術や権力などに自縄自縛されたうえ、その中で立ち腐って、あるいは暴発して起こった事件のように思う。我々は自分自身を「いやらしく」愛しすぎているのかも知れない。

人生は選択の連続だ、と岡本太郎は言う。そして、常に危険な道と安全な道を比べ、知らず知らずに安全な道を取っていると書いてある。それでは本当の人生を生きていないと何度も述べられる。そしてその道とは「常識とは外れた」道である場合が多い。著者自身も

端的に言えば、それでは収入は得られない。食えない。つまり生活できないということである。好かれる必要はない。売れないという前提で絵を描き、あらゆる面で権威主義にたてつき、いわば常識を超えて、人の言わないことをあえて言い、挑んだ。

と、書かれている。今でこそ日本で最も著名な芸術家の一人である故・岡本太郎氏だが、当時は画壇からも相手にされず、相当に生きにくい人生だっただろう。ただ、彼はそれを貫いた。そして、それを支えた思想をこの本は存分に語っている。

私は最近、仕事に関して、これは「成功か、失敗か」と、うじうじと悩んでいた。しかし、こんな一文があった。

 それに、人間にとって成功とは何だろう。結局のところ、自分の夢に向かって自分がどれだけ挑んだか、努力したかどうか、ではないだろうか。
夢がたとえ成就しなかったとしても、精いっぱい挑戦した、それで爽やかだ。

ああそうか、と思った。ここなのだ。地位や名声、金や生活の維持に縛られた結果、自分自身を見失ってしまっていたのだ。前の時もそうだった。本当は間違っていると思っていたが、「仕事だから、商売だから」の一言で、システマティックに、論理的だけど非人間的に働いていた。それで、私のような内面の弱い人間が人格を維持できるわけはない。

そして私は壊れ、1年で3回も職を変わり、今に至っている。傍から見れば大失敗だ。家族から見ても迷惑極まりない。金もない。実は魂を込めて書いた小説も完全に否定された。ボロボロだ。しかし、今は気は楽だ。自分なりに手を抜かず魂を込めて仕事をした。だから、本当に失敗しても爽やかだ。それに、まだこれで終わりという気もしない。

 人間本来の生き方は無目的、無条件であるべきだ。それが誇りだ。
死ぬのもよし。ただし、その瞬間にベストをつくすことだ。現在に強烈にひらくべきだ。未練がましくある必要はないのだ。(中略)それでよいのだ。無目的にふくらみ、輝いて、最後に爆発する。

そう思えば、収入に老後の蓄え、容姿やスタイル、ノルマや売り上げ、お客様満足度、アクセス数やフォロワー数……そんな指標で右往左往する必要がどこにある。前には、「岡本太郎という天才の生き方」と書いたが、そうではないという気がする。死んでもいいという程真剣な覚悟で今を精一杯生きることこそ、今、求められていることで、その厳しさこそが「成功」を超えて、自分を充足させてくれるのではないかと思う。同じようなことはスティーブ・ジョブスもV.E.フランクルもそれぞれの言葉で言っている。彼らは有名だから重い言葉に聞こえるが、何のことはない、誰でも挑戦できることだ。そしてそれは、いわゆる成功とは関係ない。

冒頭の友人は東京に行った。「まあ、何とかなるでしょう」とのことで、仕事はまだ見つかってないっぽい。貯金もないらしい。でも彼は満ち足りていた。自分で選択し、自分で戦おうと決めたからだ。岡本太郎は幸福も否定している。それは甘えだと。

でも、私ももちろん「成功」したくないわけじゃない。ただ、自分のやり方を貫いて成功しないとだめだ。どうなるか分からない。でもそれでいいじゃないか。過去も未来も余計なものだ。ただ、今日、今から何をするかだ。

今日も一つ、昨日の自分を超えて、危険で苦しいが、楽しんで生きてやろうと思っている。

(きうら)


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