★★★★☆

【2021秋の再掲載シリーズ02】ザ・スタンド(1) (スティーヴン・キング/文春文庫)

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  • 強力なインフルエンザの蔓延を描くパンデミック系
  • 様々な登場人物が入り乱れる群像劇
  • 全五巻中の一巻。導入は入り込み辛いが、この先は面白い
  • おススメ度:★★★★☆

強力なインフルエンザ・ウイルス<スーパーフルー>が実験施設から漏洩したことで、アメリカに住む人々が凄まじい勢いで死んでいく。いわゆるパンデミック系の物語が展開する。登場人物は妊娠した女子学生や、突然売れたロックシンガー、貧乏で寡黙な男など、何もなければ彼らなりの人生を送っていたと思われる平凡な人々が多い。原初の発行が1978年なので、近年流行していたアウトブレイク(そしてゾンビ化)する作品の原型のような作品だ。ただしゾンビ化はしないので、その手のゾンビ小説ではない。キング作品でも初期に当たる作品で、今でも人気の高く、前書きで「他の作品を書いても、かならずこの作品のことを聞かれる」というぼやき(?)がある。

正直に言って、それほどキング作品に詳しいわけではないが、素晴らしい出来の小説だと思う。ホラーとしての怖さも十分だ。非常に長い作品で、文庫版だとたっぷり5冊分の分量がある。傑作であること、一冊ごとに大きく展開が変わることを考えて、巻数を追って順番に紹介してみたい。

一巻のあらすじは、作者による作品解説から始める。この作品が追補版であることが記されている。その後、実にじっくりとインフルエンザが人々を蝕んでいく様子が、キング独特の文体で詳細に描写される。「嫌な予感」が確実に現実になる恐怖。家族が、友達が、近所の住人がもし、不治のインフルエンザに感染したらどうなるかが、手抜きなしにたっぷり描かれる。所々にある暴力描写も生々しい。
序盤は主役となる登場人物たちの紹介も兼ねて、物語の視点が次々入れ替わるので非常に読みにくく感じるし、感情移入も難しく思うかも知れない。丁寧にそれぞれの場所で起こっている、それぞれの人生の断片に避けがたい破滅が侵入してくる様子、それを止めようとする人々の葛藤が描ける。のちの「大ボス」も少しだけ出てくる。

一巻だけをとれば、まさに全体のプロローグでこれだけでは全体の評価はできないし、展開は決して早くないので、もどかしく感じるかもしれない。ただ、この先には、この作品でしか味わえないであろう恐怖と悲劇、そししてあえて言えば「感動」が詰まっているので、ぜひ、ゆっくりと読んで欲しい作品だ。一巻では特にシンガーのラリーがお気に入り。逆に妊娠した女学生のフラニーはイマイチ好きになれなかった。

ただのパンデミック物にはない、不気味な「世界の終わり」にぜひ、あなたも浸ってみてほしい。

(きうら/2017/5/13)

このご時世、あえて取り上げてみた一冊。話半分だが、場所を某国某所の研究所に置き換えれば<スーパーフルー>の出だしはコロナウイルスのそれ。今日(2021/9/27)時点でコロナウイルスによって世界で約455万人が死亡とあるので、致死率でいえば本書の方が圧倒的に高い。ちなみに感染者数は2.19億人となっているので、感染者数も<スーパーフルー>の方が圧倒的に凶悪だ。しかし、現実問題として死亡率が上がれば感染拡大率は低下すると思うので、その辺のウイルス生存戦略としてはコロナウイルスの方がより性質が悪いと言える。実際に<スーパーフルー>があったとしても、人命を奪う速度が速すぎるのでこのような終末世界は来ないだろう。と、思いつつワクワクして読んでいたのが2017年。それから2年後に、社会に大ダメージを与える疫病が世界を席巻するとは正直思っていなかった。

コロナウイルスは直接的な致死率より、社会や文化、そして経済に与えたダメージが大きい。あんなに大好きだった居酒屋にも1年近く行ってない。というより去年の秋以前はまだその程度の認識でよかった。そもそも2020年は7/22~12/28までかの悪名高き「Go To トラベル」をやっていたのである。感染者数も「全国で」500-600人程度だった。「このままコロナが流行ったら怖いね」「忘年会はやめて昼食会にしよう」などと呑気に言っていたのを覚えている。で、案の定GoTo緊急事態宣言が年明けに発令。そのまま1月をピークにいったん収まったのに4月から増え始めて5月にまた宣言発出。それで何とか7月初旬ごろまではギリギリ耐えていたが、世紀の大イベントオリンピック様あたりを境に大爆発。そして今日は2634人。これがどんな数字かと言えば東京都に緊急事態宣言が出た7/12の1500人より多いのである。このパターンでいえば、インターバルはおそらく2か月ほど、再び12月あたりから増加し去年と同じく年明けに緊急事態宣言ということもあるだろう。波が来るたびに大きくなっているのも特徴的。ワクチンの接種率が上がっていてこれである。正直、人でいっぱいの居酒屋でガヤガヤ飲み食いする日が戻ってくるのか、かなり疑問に思っている。

実はリバウンドというか気のゆるみはもう来ていて、最近、早朝や夜分にマスク無しで散歩している人が多い。自転車に乗っている人は高確率でマスクをしていない。私のような完全インドア型人間でもストレスを感じているので、アウトドア派の趣味を持っている人には耐えられない苦しさがあるだろう。それは十分よく分かる。私も居酒屋で友達と乾杯してカラオケであの曲を熱唱したい。銭湯や温泉にも行きたい。

ただ、今回の宣言解除はたとえは悪いが飢えた野獣を野に放つようなものだと思う。これが何らかのコロナとの共存戦略と一緒に行われるのならいい。ただ、ここまで暗い圧力で押さえつけられていた人々はまさに「解放」と思うだろう。ここからが真の戦いである。他国の例を見てもワクチンは過信できない、治療法は確立していない、病床が増えたわけでもない。「頼り」の政府は派閥闘争に明け暮れている。そういえば都知事は本当にヤバイ時には何も言わなかったな。利口だ。

「ザ・スタンド」では、生き残った人々が善と悪に分かれて戦うことになる。結局、世界がどうなろうとやっぱり争っているわけだが、私もそんな人間像を縮小した人格なので何も言えない。

上をみるか、下をみるか、前を見るか、後ろをみるか、それはまだ自由である。私は今日ぼんやりとホームの黄色いブロックを眺めていた。なんだか少し、疲れたな。

(きうら/2021/9/27)


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