★★★★☆

うなぎ鬼(高田侑/角川ホラー文庫)

投稿日:2018年6月9日 更新日:

  • 裏社会系正統派(?)エログロホラー
  • 本当にあった「ヤバい話」風でもあり、都市伝説風でもあり
  • 最後、微妙に狙いがズレた気がするが……
  • おススメ度:★★★★☆

過激なものから、純文学まで振れ幅が激しくなっている当サイトであるが、本来の主旨から言えばこのような作品を紹介するのが本道だろう。まるで「週刊実話」にでも書かれているかのような文章で、都市伝説的な社会の闇が描かれる本作は、間違いなく面白い。特に中盤にかけての裏社会にフェイクを混ぜた展開は先が読めないのがいいところだ。

(あらすじ)借金で首が回らなくなった伸長190センチを超える倉見勝は、ヤクザ紛いの千脇という「社長」に身受けされ、借金の取り立てとデリヘルの運転手という仕事に就く。その倉見と同僚の富田というチャラい男にある晩、明らかに「ヤバい仕事」が命じられるが……。体はでかいが気の小さい倉見が、裏社会の中で右往左往しながら、ある架空の黒い町に取り込まれ、思いもよらぬ方向へ足を踏み外していく。タイトルに恥じない薄気味の悪い雰囲気に満ちたホラー・サスペンス。

例えるなら、実話系雑誌のルポルタージュのような文体と言ったら分かるだろうか。分かりやすくて読みやすく、人の興味を引く文体だが、どことなく、上滑りしていくような軽薄さも含んでいる。これは狙ってやっているのかどうかは不明だが、間違いなくこの作品のテーマに合致した文体で、物語によく合っている。全体的に湿ってうつむき加減、しかし、妙にエネルギッシュという俗悪を絵にかいたような話と文章である。

何しろ、借金の取り立て、デリヘル、鰻の養殖、はぐれ者が集まる澱んだ町、借金に追われた若者、キャバクラの店長崩れのスケコマシ、ヤクザの見本のような社長……ここまで道具立てが完璧なら、この手の話が好きなら面白くないわけがない。主人公の倉見が、見掛け倒しの小心者という設定もうまい。浮世離れした設定を読者目線で追いかけられるようになっている。そして、優しい主人公が少しずつ闇に飲まれていくという趣向なのだ。

前述のようにタイトル、導入、中盤までの展開は(怖い本としては)ほぼ文句なしの出来栄え。ついでに言えば、表紙のインパクトも「なまづま」以来の厭さ加減だ。借金の取り立てなども、多少ディティールは甘い気がするが興味深いし、デリヘルの送り迎えというのも、身近(?)でありながら知らない世界で読ませる内容だ。本当にポンチ雑誌の潜入記事などを読んでいる気分で楽しめる。逆に言えば、そういう露悪的なものに嫌悪感を持っている方には絶対に薦められない。文章とはかくも低俗を表現し得るのである。

ネタバレはしないでおこうと思うが、残り1/4の展開は個人的にはあまり好きになれない。抽象的に言えば、中途半端にヒューマニズムが導入されるので、少々梯子を外された気分になるかも知れない。ラストはちゃんとホラーの文脈的によくできているし、ゾッともするのだが、倉見のある登場人物に対する感情の変化は少々解せない。愛する妻がいるだけに余計に齟齬を感じる。しかし、その愛する妻はオチには不可欠なのだ……。

というわけで、中盤からは徐々に失速するが、それでも最後までハラハラするホラー・サスペンスであることには間違いない。ほとんど一日で最後まで読んだので、面白かったとは思う。ただ、手放しでおススメできるものでもないので、人を選ぶ作品なのも間違いない。まあ、このタイトルと表紙を見て「引かない方」なら、読んでみてはいいのではないか。

しかし、他人事のように書いてきたが、私の人生も似たり寄ったりで、人間こんなものかもしれない。仕事で多くの人に出会うが、善人1、凡人8.5、悪人0.5と言った割合じゃないだろうか。そして大多数の凡人は、この作品の倉見と同じように、些細なことで悩み苦しんで生きているのだろう。そういう意味で、読み終えてから妙に冷めた気分になるのも事実。これを面白いと思うかどうかは、読み手次第だろう。

ちなみに、3行に書いた通り、エロ・グロ描写はほどほどにあるので、その手の表現に弱い方は注意を。出版社曰く「暗黒ミステリー」。ミステリーではないと思うが、十分暗黒小説であるとは思う。

(きうら)


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