★★★☆☆

イルカと墜落( 沢木耕太郎/文春文庫)~紹介と感想

投稿日:2017年8月27日 更新日:

  • 著者が実際に乗った「飛行機の墜落事故」のレポート
  • 前半はブラジルでの少数民族に関するドキュメント
  • 冷静な文章で読みやすい。むしろユーモアも。
  • おススメ度:★★★☆☆

前回紹介した「クライマーズ・ハイ」は過去の凄惨な飛行機事故を題材に取った小説だったが、こちらは「深夜特急(新潮文庫)」などで著名な沢木耕太郎自身が実際に遭遇した飛行機事故のドキュメント。

2001年、ブラジル郊外での小型セスナ飛行機の事故の様子が語られるが、もちろん、最初はこういう本を出すことは考えていなかっただろう。本の紹介を引用すると、

著者を含む取材スタッフは、現代文明に一度も接したことのないアマゾン奥地のインディオについてのテレビ番組を企画していた。免疫のない彼らは現代人(文明)と接することで、病気や悪弊などをうつされて死亡したり、その共同体が崩壊したりしていた。ブラジル政府職員のポスエロ氏は、そんな彼らを救おうとしている人物で、スタッフはまず彼に会うことにした。

と、書かれている通り、本来は民俗学的見地からのNHKのドキュメンタリーの取材だった。実際に2003年にNHKスペシャルとして「沢木耕太郎アマゾン思索紀行/隔絶された人々イゾラド」という題名で放送されている。ところが、実際に飛行機は墜落してしまうのである。

その顛末についてはリンク先のAmazonの本の紹介に書かれているが、もし、興味を持たれたら、敢えて何も読まずに、この本を読まれた方が面白いだろう。本人が書いているので、もちろん死亡事故ではないのだが、NHKのスタッフや現地の政府職人も魅力的に描かれているので、その人たちがどうなるか、結末を知らないと結構ドキドキするだろう。

それに何より、作風が妙に冷めているというか、むしろ明るいのである。日航機関連の小説の後に紹介すると少々不謹慎かなと思えるほど、後半はユーモアに溢れている。特にセスナのパイロットとのやり取りは非常に面白い。

自分が乗った飛行機が墜落して、さらにその時の感想を書ける人間がどれだけいるかと思うと非常に貴重なドキュメントだとも思う。これは著者の魅力もあると思うが、墜落時に考えることが妙にリアリティがある。著者が飛行機が落ちる瞬間に頭に浮かんだセリフは何ともシュールであるが、妙に納得してしまった。

ご存知の方も多いと思うが、上記の「深夜特急」の第1巻が発行されたのは1986年で、2017年から遡るともう30年以上も前だ。深夜特急そのものは今読んでも非常に面白い本だが、この本を面白く読むためには、少し著者の別の本を読んでからの方がいいかもしれない。ちなみに、過去に紹介した「」は山岳ドキュメントとして他に例を見ないほど面白い本なので、未読の方には改めておススメしておく。

(きうら)


-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

尾生の信(芥川龍之介/青空文庫) ~感想とネタバレ、着想を得た「創作小説」

中国故事からとった、美しくかなしい掌編。 何かを待つということは、つらい。 青空文庫の中でも、とても簡単に読める作品。 おススメ度:★★★☆☆ タイトルの「尾生の信」とは、「ばか正直に約束を守るだけで …

婚礼、葬礼、その他(津村記久子/文藝春秋) ~あらすじ、感想と、ドラマの感想。

披露宴と通夜とのブッキング。 面倒なことをどう乗り切るか。 簡単に読める。 おススメ度:★★★☆☆ 本書の紹介に入る前に、4/22で紹介した『この世にたやすい仕事はない』がテレビドラマ化されていたので …

オオカミは大神(青柳健二/天夢人〔発行〕・山と渓谷社〔発売〕)~読書メモ(47)

読書メモ(047) 「狼像をめぐる旅」 日本各地に残る狼信仰 おススメ度:★★★☆☆ 本書は、日本各地に残る狼信仰をもとめて、主に東日本の社などを著者が巡ったことを、写真付きで記したもの。「お犬さま像 …

ドラゴンヘッド(1)-(10) 【完結】(望月峯太郎/ヤングマガジンコミックス)

世紀末漫画の傑作 最初の方はよく出来ている 収拾が付かなくなったのが残念 おススメ度:★★★☆☆ 1995年にコミックスの初版を出版しているリアルなディストピアものの漫画。当時は、けっこうブームになっ …

チューイングボーン (大山尚利/角川ホラー文庫)

自殺に絡むスリリングなサスペンス 素直に面白い、だが このテーマでこの作風は珍しい オススメ度:★★★☆☆ 【はじめに】 もし、何もこの本について予備知識がないなら、この先の紹介文章も含めて何の情報も …

アーカイブ