★★★☆☆

ウォッチャーズ〈上〉〈下〉(ディーン・R. クーンツ/文春文庫) ~ほぼネタバレ?注意

投稿日:2018年6月1日 更新日:

  • 1993年に文庫化された正統派モダンホラー
  • 直球モンスター系ホラー
  • 犬と女性に感情移入できるかどうか?
  • おススメ度:★★★☆☆

前にも、一度紹介したクーンツだが、本国ではスティーブン・キングとモダン・ホラー作家の代表として並び称されているが日本での知名度はずっと低い。本棚を探してみても、キングの本を探し出すのは苦労しないが、クーンツはなかなか難しい。まだ2冊しか読んでいないが、独特の癖があるキングと比べると、ずっとストレートで分かりやすい作風だと感じた。

ご存知の方も多いと思いが、モダンホラーとは、現代社会の闇や他者の不条理に由来する恐怖を描いたものを指すとある。本作も社会の闇という意味では、全くその通りだが、心理的なホラーではなく、視覚的なホラーになっている。

(あらすじというより上巻の内容のほぼ全て)不動産業から足を洗ったトラヴィスは個人的な不幸から目標を失って、意味もなく森に出かける。そこで出会った犬は恐ろしく頭のいい犬だった。そして彼らはそこで、正体不明の存在に追いかけられるが危機一髪で攻撃をかわす。孤独な中年男のトラヴィスは犬に「アインシュタイン」という名を与える。彼はひょんなことから、超が付くほど内気な女性ノーラと知り合い、彼女と二人でアインシュタインとの対話を試みるようになる。一方で、アウトサイダーと呼ばれる謎の生物は、各地で凄惨な殺戮を繰り返すのであった。

あらすじと書いたが、ほとんど上巻の内容そのまんまで、つまりそれぐらいストレートな小説だ。おそらく原著が書かれた当時、遺伝子組み換えは今よりももっと不気味で非現実的な出来事だったのだろう。当時としては最新の知識を導入して描かれていると思われるが、逆に現代の人間からはシンプルに見えるという逆転現象が起こっている。

そこで、この小説のポイントとしては、

  1. アウトサイダーの憎悪と殺戮
  2. それと対局の存在のアインシュタインの存在
  3. ノーラとトラヴィス、アインシュタインの絆

が、挙げられる。1.については要所要所で挿入され、結構手に汗握るアクション劇になっているので、この点は満足だ。

アインシュタインはゴールデンレトリバーとして描かれるが、非常に愛くるしいという描写になっている。私は特別そうではないのだが、犬好きの型なら感情移入できるキャラクターではないだろうか。

問題は3.に出てくるノーラで、孤独な紳士としてのトラヴィスはまあいいとして、厳格な叔母にほとんど虐待に近い状態で育てられたノーラは、外界のことをほとんど知らない状態で登場する。そこで、いきなり運悪くストーカー男に付きまとわれるのだが、その顛末はご想像の通り。

このノーラとトラヴィスの恋愛シーンとも呼べるシークエンスがあるのだが、これが結構恥ずかしい。ホラーを読んでいて、恋愛小説(それもかなり純愛もの)を読むとは思っていなかったので、そこには違和感がある。アインシュタインの存在がそれを緩和してくれるが、個人的にはここに一番引っ掛かりを覚えてしまった。前に読んだ「ファントム(上)(下)」にはない要素で、これはいらないんじゃないかと思わないでもないが、後半への伏線だろう。

総括としては、上巻では、何かが起こりそうで起こらない壮大なネタ振りになっているので、評価には悩むところだが、とりあえず、ラストがどうなるのかが気になることは確か。私としてはいっそ、モンスターモノと割り切って派手な活劇シーンを期待したい。

因みに残酷度もそこそこあるので、苦手な方はご注意を。また、絶版で新刊としては手に入らないのでその点もご理解を。電子書籍などで復活してくれると嬉しいのだが。また、後半を読んで感想をちゃんと書いてみたい。

と、書いたところで下巻の最後まで読み終わったので、感想を継ぎ足したい。ネタばれと書いているが、それほど物語に仕掛けがあるわけではないので、大筋を知っていても支障がない。というか、読者があらすじを見透かすことを承知で書かれている節がある。

下巻での感想は、上官とほぼそのままで、後半についても同じトーンで物語が進行する。「おおよそ予想通り」である。上巻でも登場するのだが、上記のキャラクター以外では、犬の秘密を知っている凄腕の殺し屋ヴィンスが、物語のアクセントとして登場する。こんなことを書くと何だが、どうしてもハートウォーミング系の話の流れになるアインシュタインと二人の主人公カップルの話に、本来のホラー作家としての冴えが見えるのは、こういう殺しのシーン。明らかにこちらのシーンの方が描きなれている感じがするのが、おかしいというか、ホラーファンとしてはほっこりする(こんな時に使う表現として適切かは不明)。

全編を通して見ると、まるで「アルジャーノンに花束を」を翻案したかのようなメインのストーリーに、ホラー・アクションを混ぜたような作品で、決して退屈ではないのだが、やや凡庸な印象の残る作品であった。どうせ読むなら、前述の「ファントム」の方が数倍ホラーらしいホラーと言えるだろう。

とはいえ、ラスト付近の20Pほどは、色々な要素を詰め込んでいて、不覚にも感動するシーンもあった。ペーパーバックの王道を行くようないつもの展開でありながら、苦労して人間性を問うテーマをクーンツが織り込んだ、そんなように感じた。

最後にもう一言書くとすれば、愛犬家の方ならさらに評価の上がる珍しい「ホラー」小説である。個人的には弁護士の老人の活躍シーンが気に入った。

(きうら)



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