★★★☆☆

オペラ座の怪人(ガストン・ルルー、平岡敦〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

投稿日:2018年6月23日 更新日:

  • リのオペラ座を舞台にした憎しみと愛の劇
  • 怪人の境遇に同情できるか
  • 恐怖譚の中にひそむ滑稽さ
  • おススメ度:★★★☆☆

【簡単なあらすじ】
オペラ座に怪人(ファントム)が出没するという目撃情報が流れだした。そいつの風貌は「黒い服に骸骨の顔」という仮面をかぶった、今でいうならワンピースのブルックを思わせるもの(というかブルックも歌を唄うなぁ)。そう思うと滑稽さが出るかもしれませんが、あくまでも恐怖を振りまく存在。とくにヒロインのクリスティーヌに対しては。オペラ座に住まう怪人は人々をおそろしい目に合わせる一方、そのクリスティーヌに愛情を持って歌のレッスンをするのです。彼女を怪人の手から取り戻そうとするのは、これまた彼女を思うラウール。ラウールとペルシャ人の二人は怪人を追ってオペラ座の地下へと潜るのですが。

【ネタバレ気味の感想】
本作品は、ミュージカル化され、また映画化もされている有名作品です。私はその両方ともに観たことがない(映画の一場面はおそらく観たことありますが)。はじめて「オペラ座の怪人」というものを意識したのは、レーモン・ルフェーブル・オーケストラの曲でしょう。これを書く前に久々に聴いてみたら、オペラ座にいる怪人のおどろおどろしさ(と憎しみの強さ)を感じられる力強い編曲でした。

怪人は、その名称(ファントム)からして幽霊的な存在を思わせますが、しかし、エリックという名前をもつこの怪人は生きている人間なのです。醜い容貌を持ったため不幸な人生をおくったとされ、そのせいで人間への憎しみにとらわれたのです。これはよくあるモチーフなのでしょう。醜い人間が怪物とみなされて忌み嫌われるというものとして。本作がよくある怪物もの(?)と違うのは、単なる外形的な化け物の怖さではなくて、怪人が胸中にはぐくんだ憎悪といえる感情が、人間のなかに潜む闇の感情を照らし出すからです。このことをもって、訳者解説では「サイコサスペンス」の類に通じるといいます。さらに、怪人の憎しみよりも彼の不幸ゆえのかなしみとクリスティーヌへの(ゆがんだ)愛がなぜか読む者へ「哀れみ」を抱かせるようです。そして、怪人たるエリックの容貌が詳しく描かれないところが、かえって読者に彼自身への想像力と同情のようなものをかきたてるような気もします。

本作品は、本来ならおそろしいホラーとして分類されるものかもしれません。まあそうなのでしょう。物語のはじめにみられる怪人の神出鬼没さは、これから何かホラー的な幕開けを思わせます。しかし、読んでいくとなぜだか滑稽な感じの場面にもでくわすのです。例えば、カルロッタという歌姫の声からヒキガエルのように「クアッ」という声を洩らさせるという怪人の仕業や、怪人の存在をなかなか認めようとしない新支配人二人のドタバタや、怪人の用立てをたすけるジリーおばさんの帽子がアニメチックな動きを見せるところなどです。さらに、読んでいく途中から肝心の怪人自体の風貌になぜだかアニメSAO2のデスガンさんが重なってきて、そうなるともうそれだけしか思い浮かばず、読んでいてどこか滑稽さが否めなくなりました。

物語の舞台は、ほとんどがオペラ座にてすすみます。劇場という人々の様々な感情が渦巻く場において繰り広げられるひとつの舞台劇として読むとおもしろいです。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
-, , , ,

執筆者:

関連記事

悪の教典(貴志祐介/文藝春秋)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

人気者教師のとんでもない素顔を描く学園ホラー・ミステリ 残酷描写はかなり多め。 終盤はあの小説にそっくり。 おススメ度:★★★☆☆ このブログでも何度も取り上げている貴志祐介氏の作品。発表当年は「この …

本の雑誌血風録 (椎名誠/朝日文庫)

椎名誠たちの黎明期を描く 馬鹿げに満ちた壮大なプロローグ 著者が好きな方には勧めたい おススメ度:★★★☆☆ 本書は、小説家・エッセイスト・映画監督・タレント・編集者と、様々な顔を持って活躍していた3 …

現代百物語 因果 (岩井志麻子/角川ホラー文庫)

2ページ完結の短編ホラー99話 密度の濃い一味違う短編ホラー 恐怖よりも悪意を感じる作風 おススメ度:★★★☆☆ このブログでも良く取り上げている「本当にあった怖い話」系の本だが、今回は、あの「ぼっけ …

連続殺人鬼カエル男 ※完全ネタバレ(中山七里/宝島社文庫)

読みやすいホラー風味のサスペンス・ミステリ どんでん返しは納得の範囲ギリギリ 少しキャラクターが軽いかも おススメ度:★★★☆☆ マンションの13階に住む女性が、顎を貫通するフックに全裸で吊るされる死 …

凶宅(三津田信三/角川ホラー文庫)

タイトル通り不吉な家に関する正統派ホラー 小学生目線での読みやすい文体 良くも悪くも本当にスタンダードな内容 おススメ度:★★★☆☆ 何の思考も働かせず、単に角川ホラー文庫の新刊だからという理由で選ん …

アーカイブ