★★★★☆

キラー・ファイト(阿木慎太郎/徳間文庫)※改題前は「闇のファイター 喧嘩道」

投稿日:2018年5月8日 更新日:

  • クールな傭兵の正統派格闘小説
  • 人物の構図はまんまジョー
  • 古いけど楽しめる内容だと思う
  • おススメ度:★★★★☆

紹介文を見て、ピンとくる本というものがある。本読みの勘というか、今読みたいと思わせるフレーズ。この本の紹介文がまさにそんな感じだった。

(紹介文)田龍一は傭兵で、あらゆる格闘技に精通している。次の任地に赴くまで日本に滞在中、波多野プロモーションの代表という男を暴漢らの手から救い、裏格闘技戦の存在を知る。やがて岸田は、その闇リングで強敵と闘うはめに―。

どうだろう、私は霊やらモンスターやら殺人犯やらが跳梁跋扈する小説ばかり漁っていたので、この「闇リング」というワードに反応したのかも知れない。こういったストリート・ファイトを扱った漫画は結構ある気がするが(例えば私の好きなホーリーランド(森恒二/Ama))、小説でこのジャンルは珍しい。いや、このジャンルに明るくないだけかもしれないが、少なくとも近年に格闘小説がベストセラーになった記憶は余りない(思いつくのはボックス!(百田 尚樹/講談社文庫)だが、アレは私的にはアレな作品で、詳しくは省くがとにかく読んだけど紹介したくない)。青春スポーツ小説というのはあるだろうが、こういう「闇」となるとさらに珍しい。雰囲気としては、漫画「カイジ」的というか、ああいうアウトローな雰囲気だろうか。

しかし、笑ってしまうくらい人物の構図が「あしたのジョー(過去記事上)」そっくりなのである。丹下団平もいれば、白木葉子もマンモス西も出てくる。ストーリーもジョーの出会い編とホセ・メンドーサ編をつなぎ合わせたような内容になっている。作者があしたのジョーを意識しているのかどうかは分からないが、少なくとも「おっさん」「女プロモーター」「愚鈍だが優しいパートナー」そして、「絶対的な強敵」が出てくるのは間違いない。

ただ、主人公の性格はもちろんジョーとは違う。傭兵で海外に赴いて格闘術のコーチをしているという龍一は、母親が売春婦っぽい存在から、事業家に成り上がっていることがコンプレックスになっているクールな若者だ。どんな状況も冷静に判断し、めっぽう強い。格闘術ではなく、殺人術を身に着けているというのが面白い。やくざ相手に、その殺人術で華麗に暴れる様は痛快だ。そんな男が、老プロモーターに見初められて、嫌々格闘の世界に入るところはジョーと全く同じ。そして、そこで財界の大物で趣味で格闘をプロモートしているという! 美人に見込まれて、因縁の相手と戦うという筋立てだ。

もう何も考えなくていいのである。格闘シーンはクールだが、文字だけで痛みが伝わってくるし、上記のステロタイプともいえるプロットもむしろ安心して読める。何より、恋愛要素や青春要素などが一切省かれているのがいい。これは純粋な格闘小説だ。私は常々格闘小説というものがもっと盛り上がってもいいと思うのだが、世間はミステリや感動もの、恋愛ものに傾いてどうも軽視されている気がする。しかし、こういう生一本の格闘小説を読むと、何だか嬉しくなる。展開は読めるものの、様式美というのだろうか、私はかなり楽しめた。プロットも無駄に引っ張らず、かといって短すぎもせず、十分、読みやすい。よくできた小説だと思う。

怖い本の基準で言えば、格闘シーンは結構血なまぐさいがホラーとは言えないだろう。格闘シーンは、グロテスクというより格好いいのだ。残念なのはイラストレーターで書いたような表紙で、もうちょっと何とかならなかったのか。

とはいえ、これ、1991年初出の小説でえらい古いのだった。しかし、ジャンルがジャンルだけに余り時代も感じないし、ホラーの合間に読むには最適な爽快小説だと思う。ラストをどういうセリフで締めくくるのか非常に興味があったが、中々決まっている。これは実際に読んで頂きたい。

という訳で「あしたのジョー」が好きな方なら、間違いなくニヤニヤしながら読める一冊だと思う。ちょっとおススメ。

(きうら)


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