評価不能

グイン・サーガ(栗本薫/ハヤカワ文庫) ~簡単な概論的感想

投稿日:2017年9月30日 更新日:

  • 正伝130巻の超長編ファンタジー、しかも作者逝去により未完
  • 2017年9月現在、別の作家により続編が刊行中(141巻まで刊行)
  • 自宅にある単一の物語としては最も長い、そして……
  • おススメ度:評価不能(長すぎてその巻数によって評価が激変)

実は、栗本薫の別のホラー作品「壁」を紹介しようと思っていたのだが、その小説の文章のタイプが、あまりにグイン・サーガと同じだったので、そのことについて触れていたところ、収拾がつかなくなったので、今回は簡単にグイン・サーガについて紹介してみたい。

長すぎて「あらすじ」として纏めることは難しいが、話のベースラインは以下の通り。

架空の世界「中原」の辺境に突如として現れた豹の頭を持った男、グイン。彼は、国を追われた双子の王女・王子(リンダとレムス)と出会い、やがて彼らの国を襲ったモンゴールの軍勢と対峙することになる。グインは記憶をすべて失っていたが、逞しい体を持った不死身とも思える肉体と抜群の頭脳を持った超戦士で、辺境の奇怪な生物や敵の戦士相手に凄まじい戦闘力を見せる。やがて、盗賊まがいの野心家イシュトヴァーンなども仲間になり、冒険は「中原」全体の戦乱へと拡大していく。

と、いうもので、一番の謎は豹頭の戦士・グインが「何者か?」という点で、それについては、少しずつ情報が開示されるが、はっきりとは明らかにされていない。どうやら、どこかの世界からやってきた罪人のようだが、その正体は……。

と、いう点について130巻も書き連ねた挙句、著者である栗本薫がすい臓がんのため、亡くなったしまった。時に2009年の事である。グイン・サーガのスタートそのものは、1979年なので、実に30年に渡って書かれたにも拘らず、恐らく当初のプロットの3分の2にも達せずに終わってしまった。

先述のように、著者の遺志を汲んで、別の作家による続編が刊行されているが、とにもかくにも、栗本薫自身による決着は見ないまま、

「おわり」

と、なってしまった。そのショックは相当なものだったが、それについて語りだすときりがないので、今回書きたい「壁」へとつながる著者の特徴について少しだけ、紹介したい。

グイン・サーガは、これは誰しも認めることであるが、作品のクオリティが一定しなかった。簡単に言えば、ある時を境に、作者が作品世界に捕らわれてしまった。作中のキャラクターに執着し、客観的に物語をコントロールすることを放棄したように見え、特定のキャラクターの描写ばかりを延々と描き続けたりと、物語のテンポなど、全く眼中になくなってしまったのである。その為、後期は「脳内の情報を垂れ流している」と批判されるほど、酷い状態だった。

が、決して、最初からそうだったわけではなく、むしろ当初は、正統派の異世界ファンタジーとして、神々しい輝きを放っていた。その為、後期になって物語的に破たんしても、驚異的な売り上げがあったし、まあ、とりあえずは「読める」のは間違いなかったのである。私は20巻位からリアルタイムで読んでいたが、「いつか面白くなるに違いない」と思いつつ、限りなく水で薄め切ったカルピスのような物語を追っていた。

では、実際にどこで終わったかというと、私の見解では、ピークは30巻辺りではないかと思う。ここはネタバレになるので書けないが、重要なターニングポイントとなっている。実際かなり感動した記憶もある。ただ、もっと言えば17巻あたりがピークだったと思えないでもない。ここまでなら、ファンタジー好きな読者の方には、自信を持って薦められる。その精緻な文章や博覧強記ぶり、硬質でハードな展開など、絶賛してもいいと思える。また、機会が有れば、その魅力についてもう少しちゃんと触れてみたい。

ここで最初に戻って、ホラーへとつながる点として、後期の作者の特徴がみられる。つまり、やたらめったに心情描写が長いのである。それはもう、普通なら3行で終わるような描写を、一冊の本の長さにまで引き延ばすくらいだ。決して大げさに言っているのではなく、本当にそうなのである。それでも、本屋で売れる本を執筆できた栗本薫という作家は、凄まじい才能を持っていたと思うが、グイン・サーガに限って言えば、それが暴走して終わってしまった。

結局、これほどの才能を持ちながら、業界であまりリスペクトされておらず(「ベルセルク」の三浦健太郎が唯一記憶に残っているフォロワー)、日本のファンタジーとして今も高評価されているとはいいがたい。

と、いうわけで、後期の著者の作風は、例えば「美青年がある人(男性)への思いで悩んでいる」シーンを100P読んでも構わないという人向けの小説となっている。このことを踏まえて、次回、「壁」を紹介してみたい。

余談だが、たぶんうちの本棚にある一番物理的に長い物語がグインサーガであるのは間違いない。著者本人によっては、永遠に未完のまま、本棚の一角を占めて静かに眠っている。

(きうら)


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