★★☆☆☆

ゴジラが来る夜に 「思考をせまる怪獣」の現代史(高橋敏夫/集英社文庫)

投稿日:2019年6月28日 更新日:

  • ゴジラの存在意義を問う評論本
  • ゴジラによって変容する評論というもの
  • 怪獣好きなら読んで退屈しないが……
  • おススメ度:★★☆☆☆

今月、新作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を観た。その出来には正直、失望した。最新のCGで華麗に彩られたシーンと反比例するようなストーリーラインはご都合主義すぎてコメディに近い。怪獣を着ぐるみではなく、リアリティを持って描ける技術があるだけに、余計に「そうじゃないだろ」と感じた。同時に、世間の人はいかなる興味を持ってゴジラ映画を観るのか気になった。本書を読み進めた理由の一つがそれだが、映画を見る前から本は家にあったので直接のきっかけではない。

やはり、私の中の破壊衝動が視覚化されると町を踏み潰す怪獣≒ゴジラであったからだ。そして、それを小説として成立させようと四苦八苦していたので、自分の中の表現としての破壊の妥当性を探ってみたかったというごく私的な理由が読書の動機だ。

本書は武田泰淳の「『ゴジラ』の来る夜」にタイトルを借り、

助走――怪物の時代からゴジラへ
第一章 ゴジラとは誰なのか
第ニ章 ゴジラの両義性
第三章 ゴジラが来る夜にいたのは
第四章 ゴジラは歩き続ける
第五章 ゴジラから見たウルトラマンとハッカー
あとがき

という構成になっている。評論であるので、もちろんゴジラの解説本ではないが、部分的にはその要素も含む(例えば登場する怪獣が時系列順に並べられて解説される)。ただ、発刊が1999年なので、新作へと続くレジェンダリーピクチャーズのシリーズ(2014〜)は含まれていない。

まず、ゴジラとは誰なのか? というエキセントリックな問いだが、要約すると1954年(初代ゴジラ)から来た人々となっており、評論時点では私たちも含まれている。それは太平洋戦争の暗い影をようやく抜け出し、明るい未来を見出だし始めた日本の人々、そしてその後高度成長期やバブル期を経た私たち、となっている。なんのこっちゃと思う思われるかも知れないが、私はそれぞれの中に住む矛盾や闇の象徴としてのゴジラとして読んだ。本文はもっと複雑なニュアンスを含むが、第二章、ゴジラの両義性でより鮮明になる。

ゴジラは水爆実験で生まれたとされる(被害者)が、同時に放射線火炎を吐く(加害者)でもある。また多数の無辜な市民を虐殺する恐怖の対象でもあるが、同時に社会的阻害者から見れば、体制の破壊者でもある。というような論旨を経て、著者は様々な矛盾の象徴としてのゴジラを扱う。それは日本とアメリカだったり、自衛隊の存在だったり、要は矛盾する人々の投影(この論旨では当たり前だが)として、いろんな角度から意見を述べる。大体が反体制であるのはまた、「反抗する子供」としてゴジラを捉えているからだろうか? その辺の解釈のやり取りに興味があれば、楽しんで読めるだろう。私は少し通俗的だと思う部分もあったし、トリビア的な意味で面白く感じる部分もあった。最終章のウルトラマンとハッカーの話は少し蛇足っぽい(特にハッカー)。ウルトラマンが日本人の自己肯定、天皇制(ウルトラマンを頂点に警備隊が絶対正義として成り立つ)のメタファーというのは興味深かった。

一点、明確に同意できるのは「ゴジラは好きだが、ゴジラ映画は好きではない」という愛憎入り混じった著者の述懐だ。曰く、新しい・古いに関わらず、オリジナルのゴジラを観た人のほとんどが、ゴジラとはこの1954年版ゴジラを指すそうだ。確かに私もそうだ。子供の頃、テレビでよく観たのは、ゴジラが「正義の味方」と化したバージョンだか、大人になって観た白黒のオリジナルは別格だと思う。それを、著者は「これまでになかったものを視覚的に出現させた」という点を指摘しているが、まあ、それはそうだろう。

私が思うのは、初代の持つ破壊者としての姿が純粋だからだろう。この後のゴジラは多かれ少なかれ、何らかの敵や概念と戦っているが、初代はただ闇雲に現れ、意味もなく破壊し、また海に戻り、再び唐突に出現して東京を火の海にする。娯楽映画なので、そこがクライマックスだが、ラストの一見地味な芹沢博士との「心中」が妙にリアルだ。著者も指摘しているが、オキシジェンデストロイヤーを抱いて死ぬ芹沢博士もやはりゴジラと同じ闇の住人なのだ。私は、清く正しい尾形や恵美子といったヒーロー・ヒロインが全く何もできずに、呆然とするラストシーンが好きだ。破壊者は容易に理解などされてはいけない。闇はやはり何も見えない闇なのだ。

最近作が滑稽なのは、この唯一絶対の闇の存在が、どっかの野良科学者の夫婦が作ったちゃちい機械で操られたり、人間の芹沢(渡辺謙)と馴れ合ったりするからだ。科学者の娘の浅知恵で形成が逆転したり、主要キャストが不死身だったり、とにかく無駄な展開が多い。オリジナルをリスペクトするなら、怪獣は人間などに操られてはならないし、好きに暴れれば良いのだ。シリーズを全て観たわけではないが、多かれ少なかれ、何らかの人間の都合が反映されることに違和感があるのではないか。個人的には、あらゆる国、あらゆる宗教、あらゆる主張を粉砕してこそ「キング・オブ・モンスターズ」ではないかと思う。誰もやらないなら私が、某総省、某聖地、某住居、某スポーツ大会、某夢の国を破壊する平等な破壊者を描いてみたい。本当にやったら真偽不明の自殺を遂げさせられそうだが(覚悟が出来たら書いてみたい)。

とはいえ、やはり娯楽映画として、毎度毎度、意味もなくゴジラが単体で文明を破壊する訳にもいかないであろうし、映画的な事情は仕方ない。それは分かる。なので、私も本書の著者も長々とゴジラを語り続けるのだろう。

しかし、あのゴジラの咆哮と素晴らしいメインテーマは、それだけで誰もが持つ幸せとは正反対の「危うい何か」を想起させられるのでは無いだろうか。私はそれを愛して止まない。

(きうら)


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