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ゴーン・ガール(デヴィッド・フィンチャー/監督)

投稿日:2021年2月8日 更新日:

  • 「妻」不信を植え付ける不気味なサスペンス
  • どっちもどっちだか、とにかく妻のエイミーが怖い
  • 人間不信を超えて笑えてくる
  • おススメ度:★★★☆☆

いつものように、Amazonプライムの映画一覧を適当に観ていたら、不意に目に留まったのが本作。妖しいサスペンスという当時(2014)の評判だけを知っていて、中身は、ほぼほぼ知らないまま、勢いに任せて観てみた。監督は「セブン」や「ファイト・クラブ」などで名高いデヴィッド・フィンチャー。サスペンスはお手のもの、という作品が並ぶ。そう言えば「ゾディアック」も観た記憶がある。ちょっとモヤモヤ感のあるサスペンスだった。

本作のあらすじは複雑そうに見えて単純である。結婚5年目の夫ニックは浮気癖のある二枚目。双子の妹マーゴがいて、彼女と「ザ・バー」という店を経営している。この出資者が妻のエイミー。なぜ、そんな金があるかと言えば、彼女の父親は作家で、娘をモデルにした小説を書いたベストセラー作家(後に経済的にも家庭的にも破綻していることが明かされる)。ここまでお膳立てが整えば、後は簡単である。ある日、エイミーは失踪し、キッチンには血痕がある。彼女は巧妙に結婚記念日を祝うメッセージに見せかけ、夫を犯人へと陥れていく。もちろん、エイミーは生きていて、途中までは目論見通りに憎きニックは犯罪者として追い詰められていくが……。

実に王道的サイコサスペンス。観客は誰もがエイミーが死んだと思って無い状態で観ると思うので、後はその復讐の作業を楽しむのが正しい見方か。しかし、エイミーは執念深いが雑なトリックを仕込んだり、自滅したり、イマイチ緻密さが感じられない。また、夫のニックは妻の失踪中に教え子と勢いで一発やってしまうほどの下半身中心の人格だが、それ以上の犯罪を行なっているわけではなく、そこまで彼にこだわる理由も分からない。殺意が湧いたとしても、ニックは人を殺したわけでも無いのである。そんなよくある男女のこじれを無闇やたらに拡張するエイミーの狂気、これがこの映画の全てである。結末を見ても、なんだかなぁという感じで、ひたすら夫婦不審を煽られたという感想が率直なところ。監督はありふれた浮気に自分たちを重ねて欲しかったのかも知れない。とにかくエイミーという女性の執念が気になったら観てもいいかなという作品。以下ネタバレありで自由に追記する。

「どんなに好きな人でも5年たてば冷めるって…/私たちは大丈夫でしょ? /ねぇどうなの?」

と歌ったのは斉藤和義(柔らかな日)だが、およそ夫婦になって5年経って、何もかも順風満帆、お互い全く隅から隅まで不満なし、というよう例はかなりレアなケースと断言してしまおう。もし、私のことを人間不信者だと思えたら、おめでとう、あなたは幸せだ。思い込みか、事実かは別として。

確率論者でもないのだが、同じ人間と何年、何十年と同じ家で暮らし続けて衝突が無い方が不思議だ。もちろん、スタートは恋である。恋は衝動であり、感情を乗っ取って、激しい生のエネルギーを生み出す。このエネルギーの渦の中では衝突など些細な問題だ。生物の本能として、相手に気に入られようと、全力を尽くす……。もちろん例外はあるだろうが、基本的にはそのようなプログラムが働く。もちろん、一定の年齢にならないと発動はしないようにはなっているが。このブログの読者の方は大方同意頂けるとは思う。

歌詞繋がりで引用させてもらうと

「処(ところ)が1年2年もたたずに見えてくるんですね/恋とは誤解と厄介の上の苦界

と、さだまさしの「恋愛症候群」にあるように、この恋というプロセスは長期間は続かない。いま、私を人間不信者と(以下略)。

はっきり言ってしまえば、叶った恋はそのうち「飽きて」来るのである。恋が永遠に続くのは叶わないからであって、それもまた当然だ。手に入らないから消えようが無い。問題はこの飽きてくる頃、倦怠期などと呼ばれるが、この時どう振る舞うかで、人生が大きく左右される。ある程度の人は、衝突と和解を繰り返して、共存関係に入る。さらに話をややこしくしているのは、結婚という制度である。諸説あるが、日本の離婚率は約3割と言われている。アメリカは4割台くらいだろうか。つまり日本でも1/3、この映画の舞台のアメリカでは半数弱の夫婦が別れているのである。この映画の肝もこの結婚という縛りにある。

離れていく二人の心と繋ぎ止める社会的な結婚という誓約。これに子供の有無という要素を加えれば、自ずと結論は狭くなっていくだろう。本作は妻であるエイミーのこの誓約に逆らった夫への相当に執念深い復讐劇なのであるが、何しろ自作自演で自分の殺人事件を作り出すという逆「完全犯罪」を成し遂げかけるのだ。しかし、正直やり過ぎた。というかこういう手段で復習するのは相当におかしい。この段階に至るまで、簡単な所では離婚から訴訟など、無数にある報復手段を飛ばして、フェイクとはいえ自らを殺してしまうのはやはり狂人だろう。もちろん、エイミー自身が「いい子」代表を描いたベストセラーの主人公の生き方を強いられたトラウマ持ちという前提はある。まるで映画みたいな映画になっているのは、その影響だろう。ドラマティックなのは長所であるが、同時に少々引く。この辺が微妙にこの映画に乗れない原因だ。

かと言って夫のニックも褒められた人間性では無い。私は彼を気の毒だとは思ったが、女性視点では「もっとやったれ」と思うのかも知れない。唯一良心のシンボルとして描かれるのは双子の妹マーゴ。彼女のおかげで映画はエイミーの不気味さが強調される。後半から結末への社会的な解決、つまり結婚関係の維持はいつか個人的には破綻する可能性の強い取り敢えずの結論であると思う。殺人犯の妻をあと何年愛せると言うのか。しかし世の夫婦は大小の違いはあれ、この様な密かな憎悪も隠し持って「愛のある家庭」を維持しているのではないかとも思う。

先程映画らしい映画と書いたが、この映画の欠点は監督の職人芸だろう。技術や情念も十分、しかしその確立された方法論が、微妙に時代とズレてしまった感じがする。誤解のないように言うと本作はかなりヒットした。通俗的にも面白い作品である。私のようにサスペンス慣れしてない映画ファンはもっと純粋に楽しめるだろう。

あと、もっと楽しめるのは私のように人間不(略)。

(きうら)


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