3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

スイート・リトル・ベイビー(牧野修/角川ホラー文庫) ~完全ネタバレあり

投稿日:2019年10月7日 更新日:

  • 児童虐待がテーマのホラー
  • Jホラーのお手本のようで読ませる
  • ただし、オチが破綻してる
  • おススメ度:★★★☆☆

まずこれは極め付けの悪書。読んでおいて何だが、高校生以下には読ませたく無い。テーマの児童虐待もそうだが、のっけから胸糞の悪い描写から始まり、中盤で映像化できないようなシーンが出てくる。どちらにしても、際どいネタなので、このレビューも一応【閲覧注意】と書いておきたい。まあ古い本なんだけど。

(概要)
主人公の秋生(あきみ)は保健所に勤める傍ら、児童虐待の電話相談ボランティアを隔週土日に務めている。彼女は一人暮らし、生真面目、そしてお約束の秘密の過去がある。そんな中、ある女の子の虐待事件で、弁護士に頼まれて深入りする。一方、過去に児童虐待を行った母親から、夫の様子が変だとの相談を受ける。どうやら天使に会った……と意味不明なことを言っているらしいが、真相は不明。そこに大学教授を名乗る老人が現れて、その夫のことを元教え子で助けたいと告げられる。真相はどこに?

児童虐待は今も日常的に話題なるテーマ。それがかなり生々しく描かれている。人はなぜ児童虐待をしなければならないのか、などというセリフも出てくる。主人公が、いちボランティアながら、この深い闇に踏み込んでいく前半は秀逸だ。何しろ彼女は女の一人暮らし。余りに無防備だ。ところが、それを知っている読者を嘲笑うように、著者は危ない事件に引き込んでいく。この辺のサスペンスの乗せ方が上手い。

また、この「児童虐待」というテーマに、秋生の過去、謎の「天使」の存在と、2つのテーマが交錯して、単調な展開になるのを防いでいる。まあしかし、一方で著者はこれが「ホラー小説」ということをよく知っている。つまりスリルだけでなく、実際に「怖いこと」は起こらないといけない。綺麗事ではなく、読者が期待するものを「見せ」なければならない。その辺が、お手本と書いた理由だ。ここから核心に触れていく。

まず、児童虐待の仕事に関する結末は中盤過ぎに語られるが少々やり過ぎ。親権を奪われた夫に主人公が復讐されるのだが、けっこう酷い。その男は前科持ちのサイコパスという設定で、秋生はレイプというより半ば人体破壊に至る過程が省略なく描かれる。この手の描写は陰惨だ。顔の形が無くなるまで殴られると言えば、お分かり頂けるだろうか? この一点で一発アウトと言っていい。ちなみに冒頭でも小学校のウサギの頭をハンマーで叩きつぶすシーンがある。エロでは無くグロである。私は慣れているので普通に読んだが、まず知人には勧められない。

次に秋生の過去。これは想像通り、自身も児童虐待の経験(というか思い込み)があるということ。これは唐突に回想されるのだが、目を離した隙に、子供がベランダから落ちて……離婚、再起という流れ。いわゆるトラウマになっていて、動機付けとしては分かり易いが、余り深みは無い。これが、仕事での暴走に繋がるので、無駄では無いのだが。この辺もキチンと計算されているとは思う。

しかし、落ちが酷い。「謎の天使」が人を誘惑して惑わせる、という設定なのだが、この答えがそのまんま「謎の天使」なのである。もっとはっきり書くと「幼児の姿をした新種の人型生物」なのだ。途中の大学教授が尤もらしく解説してくれるが、人間社会に混じってそういう存在が人間に「寄生」する様に生きているのである。秋生も最初は信じないが、ラストはこの生き物に魅入られるシーンで終わる。前半がいい出来だけに突如として出現する天使の存続には、呆気に取られた。リアリティが無いこと甚だしい。正体は宇宙人でした、と大差ない。幼児は怪物という比喩をそのまま現実として描いた、実は比喩ではなかったという結末なのだが、納得できる人は少ないだろう。もう存在がツチノコレベル。

私もこういったホラーを読んで長いので、まあそうかな、と思っていたが、ここまで直球で攻めてくるとは。潔いと言えば潔いが……結局、児童虐待のテーマはどこかにいって、バカバカしいオチと、強烈な暴行シーンだけが記憶に残るという残念ホラーになってしまった。スティーブン・キングがよくやる「闇の存在」的な感じだが、もうちょっと設定に工夫がいるのではないだろうか?

とは言え、Jホラーファンの期待を裏切らないのも事実で、いろいろ含めてまとめて引き受けられる人なら楽しく読めるだろう。少々エグいが、怖いもの見たさという気持ちは誰にでもある。その点を満たしてくれる内容は評価したい。

でも、やはり天使型生物が人間を魅了して自分を育てさせるというのは無理があるような気がする。なので、読むか読まないかは各自にお任せしたい。

うーむ、またこんな本を読んでしまった。

(きうら)


-★★★☆☆
-, , , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

東京震災記(田山花袋/河出文庫)

花袋の目で見て、肌で感じた震災の模様。 様々な人たちの体験談を聴く花袋。 ルポでありながら小説でもある。 おススメ度:★★★☆☆ 宮崎駿監督作品『風立ちぬ』の序盤で一番印象的なのは、関東大震災の描写で …

セイレーンの懺悔(中山七里/小学館文庫)※軽いネタバレあり

マスコミの存在意義を正面から問う 猟奇的描写はかなり少ない 社会派小説に近い感覚 おススメ度:★★★☆☆ (前説) 明けましておめでとう、とはいうものの、昨日と今日に何の境界も感じられない。年々季節感 …

ケンジントン公園のピーター・パン (バリー[著]・南條竹則[訳]/光文社古典新訳文庫) ~あらましと感想

有名な「ピーター・パン」の物語とは別の話。 公園での妖精や少女とのうつくしい交流。 箱庭の世界で繰り広げられる不思議な物語。 おススメ度:★★★☆☆ 最初に書いたように、本書は日本でも一般によく知られ …

ホラーという道(成城のコラムー59)

「コラム059」 シャーリイ・ジャクスンを読んだ。 ホラーという未知の道。 オススメ度:★★★☆☆ 【登場人物】 K:高校生。 私:茶わん蒸しよく食べる人。 【ホラー好きあるある言いたいけど】 K:ど …

硝子のハンマー(貴志祐介/角川書店) ~簡単なあらすじ・おススメ度※ネタバレなし

オーソドックスな密室物ミステリ ホラー要素はほぼ皆無。主役たちの推理を楽しむ。 女性キャラクターへの共感度はは低い おススメ度:★★★☆☆ 物語のジャンルはいわゆる密室物のミステリ。あらすじとしては、 …

アーカイブ