★★★☆☆

ハラサキ(野城亮/角川ホラー文庫)

投稿日:2017年11月23日 更新日:

  • 記憶を一部欠落した女性。
  • 迷い込んだ異空間で起こるおそろしい出来事。
  • ミステリーの要素もあります。
  • おススメ度:★★★☆☆

以前旧サイトの、「勝手に新刊予想」というコーナーにて紹介された本を読んでみました。イラストの絵的に、ライトな読者層向けと予想したようで、実際に一読したところ、シンプルな内容で文章も簡素で、いい意味でよく出来た作品です。「ライトな読者」向けかは分りませんが、「ライト」に読むことができました。著者は本作で「第24回日本ホラー小説大賞読者賞」を受賞したようで、おそらくこれがデビュー作なのではないかと思います。非常に基本に忠実につくられた構成〔と文章〕ですね。

あらすじは旧サイトの方にも書いていますが、簡単に導入説明します。「百崎日向(ももさきひなた)」は十年ぶりに故郷の竹之山温泉街を訪れます。彼女にはこの十年間の記憶がなく、覚えているのは黄金色の光景だけです。ホームで竹之山行きの電車を待つ日向は、同級生の「相原沙耶子」に声をかけられ一緒に車内に乗り込みます。車内でぎこちない会話をするうちに、急に目の前が暗転し、気がつくと沙耶子とともに竹之山に着いていました。しかし、そこには人の気配はなく雪景色が広がるばかりでした。彼女たちの他には誰もいない竹之山の町で、二人は女性の死体を発見したり、影の化け物に襲われたりするのです。日向を待ち受けていたのは、彼女の封じられた記憶に眠る過去に関することだったのです……。

ストーリーとしては、この日向が迷うことになる異空間のラインと、彼女の婚約者である神原正樹がいる現実〔の竹之山〕のラインが交互に描かれて進んでいきます。この異空間というのは、竹之山そのままの街並みが広がる無人の世界です。人がいないことによって、多少の不気味さが演出されているのはオーソドックスでありながら効果的です。とくに、降り続ける雪の中、日向たちをおいて無人の電車が発車するシーンなどは、唯一個人的に怖さを感じました。この世界で、日向と沙耶子は元の世界に戻るべく尽力するのですが、襲い来る影の化け物から逃れ、そのうちに不穏なヴィジョンや、失われた記憶に関するおそろしい真実を目の当たりにしていきます。そのあたりまでのうちに、日向への感情移入ができれば、さらさらと読みすすめることができます。

一方、日向を竹之山温泉で待つ正樹は、なかなかやって来ない日向の行方を捜すうちにこの町に伝わる迷信と、彼女に関するある事実を知ることになります。物語はこの日向と正樹を交互に描くことで、幻想の世界のようなものに捉われたものと、現実世界にいるものとのコントラストをうみだしています。そして、それが最終的な結末に繋がる回路にもなっていて、なかなかよいです。

細かいツッコミは、まああります。日向の過去のことが明かされていくさまはノベルゲームを読んでいるようで、また、ミステリーにもなっているのですが、勘のいい読者なら大体誰が日向を異空間に引っ張りこんだか分かるでしょうし、叙述トリックめいたところもあるのですが、それも簡単に見破れるかもしれません。その他にも疑問点や、粗もあります。例えば、捜査に関しての詰めの甘さとか、迷信のこととか。詳しくいうとネタバレにもなるので書きませんが、まあそれらは本筋を壊すほどのものでもないので、気にしなければどうということはないです。

文章自体が読みやすいので、そういった意味ではおススメです。個人的には、本編よりもこの物語が終わった後の日向の〔ある意味絶望的な〕未来を思うと、そちらのほうが怖いですね。なかなか楽しめる作品でした。

(成城比丘太郎)



ハラサキ (角川ホラー文庫) [ 野城 亮 ]

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