★★★☆☆

ボーダー 二つの世界(ヨン アイヴィデ リンドクヴィスト (著), 山田 文・他 (翻訳)/ハヤカワ文庫NV)

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  • 異形と交わる人々
  • 一ひねりあるモダンホラー
  • 基本的に世界はモンスターに溢れている?
  • おススメ度:★★★☆☆

11篇もの中・短編が収めれている。最初は「超傑作かもしれない」と思いつつ読んでいたが、読み終わって感じたのは「しばらく読まなくてもいい」という安心感。要するにこの作者の作風でお腹いっぱいになってしまった。著者自身であとがきにも書いているのだが「スウェーデンのスティーブン・キング」に例えられるような内容だが、もう少し幻想度が高く、もう少し怪奇レベルが低い。
内容はバラエティーに富んでいるので、少しずつ紹介してみたい。

ボーダー 二つの世界
表題作。人の嘘を直感的に見抜けるという税関職員の醜い女性が、ある「男らしい」男性と出会うことで始まる物語。映画化もされるほどなので、映像映えする設定であるのは間違いない。途中のやり取りは非常にスリリングだが、オチは賛否両論ありそう。突飛な話だが、これを意外性とみるか、破たんしていると見るか。全体の中での完成度は高いが、一番ではないな。

坂の上のアパートメント
ストレートな怪物もの。傾いていくアパートの原因を探っていくうちに恐ろしい事実に気づくという内容。マッチで船を作っている主人公のなどディティールに味があり、ホラーといえばかなり正統派ホラーとして読める。読めるのだが「結局なんやねん」という印象はぬぐえない。クトゥルフ系のホラーを思い出してしまった。

equinoz
タイトルは和訳すると「春分」。これはなかなか狂気を孕んでいて、サイコ・ホラー的怖さがある。人の家に勝手に無断侵入する「悪癖」がある主婦が見つけた「死体」がテーマ。しかし、その死体は完璧に美しくて……終盤は理屈で理解しようとすると苦しいが、こういうものとして読めばどうか?

見えない! 存在しない!
パパラッチの一世一代の出世のチャンスを描く、息苦しいスリラー。オチは例によって怪物的なものにもっていく。ちょっと切ないような書き方をしているが、ラストの締め方はこれしかなかっただろうというような感想。なんだか、最初からこうなる気がしていた。

臨時教員
SF要素もあるような、不気味な短編。学生時代に消息を絶った友人から突然会いたいと言ってくる。そこに行くと、痩せこけて病的な目をした友人がいる。その友人が、失踪前に来ていた学生時代の臨時教員の話をする。最初は笑っていた主人公だが、だんだんと現実感を失っていく。臨時教員の正体は何か? オチとしてはこの本の流れの中でも正当なものだが、地味に気持ち悪く、この「グロくないけど気持ち悪い」という何とも言えない、後味が味わえる。この本では一番好きかな。

エターナル/ラブ
愛し合っていた夫婦だが、夫の方が海でおぼれて→蘇生という臨死体験をしたことから、徐々に日常が崩壊していく。最後も分かるような分からないような。モヤモヤ感のある作品で、こちらは余り好みではなかった。でもまあ、面白くは読めるようになってます。

古い夢は葬って
同様に愛し合う夫婦の物語。それを友人(孤独な独身男)からの視点で描く。上記の作品とは違い、こちらは純粋に大切な何かを訴えようとしているように思う。妊娠が絡む話は苦手だが、ラストの余韻は中々いいと思います。

音楽が止むまであなたを抱いて
かなり意味不明な一篇。著者のあとがきから示唆されているのは基督的なホラーなのだが「気に入っていると言ってくれたのは自分だけ」と自虐的に語っているように不条理というか、説明不足すぎてついていけない。ただ、これだけの物量の中には、こういう作品も混ぜるのもアリかな、とは思う。

マイケン
あとがきで「マイケンという名前から思いついて話を考えた」ということを話している作品で、確かにそんな感じ。実は純粋にホラーではない珍しいお話で、スリリングなサスペンスとして構築されている。万引き常習犯の老婦人が偶然、お客様相談室にクレームを入れたら「マイケン」という奇妙な人物と知り合うというお話。資本主義社会への憎悪が感じられるが、スウェーデンといえば福祉国家というイメージがあるので、意外ではある。中では色々問題もあるのだろう。

紙の壁
非常に短い不思議な作品で、巨大な段ボールを手に入れた少年が体験する、ちょっとした不思議を描く。上品な作品で、これだけなら幻想文学っぽい。こうやって考えてみると結構作風の幅が広いな…天性の物書きなのだろう。

最終処理
「収容施設を脱出して多数の犠牲者を出すに至った事件」の後日譚。と、解説に書いてあるが、肝心のその事件が未邦訳となっている。ただ、かなり長い中編として独立して楽しめるゾンビもののお話である。登場人物の個性も面白く、アクション性も高いので、楽しくは読める。「何々っす」という主人公の話し方はこれまでの文学志向の作品群にはない軽さがあるし、最後のシーンは中々華やかですらある。死のイメージは人それぞれだが、この人はこういう風に考えるのか、という感慨があった。物語の骨格だけ取ると、別次元の侵略者との戦いというジャンプもびっくりの設定なんだけど、まあ、楽しめました。

ずわーっと感想を並べて観たが、ここは面白いのに作風の違いもあって、読み進めるのに時間が掛かってしまった。そもそも分厚い本なのだ。

久しぶりに海外翻訳ホラーを新規開拓したが、国は違えと、結構、みんな考えることは同じなんだな、という印象。「あとがき」で著者が結構、自虐的なのも笑えた(サイン会に来てくれたのが14人だったことを根に持っている気がする)。そんなこんなでまとまりのない感想だが「超次元の怪物がいる世界」という前提が認められるなら、私の評価以上に楽しめる作品に仕上がっている。訳文も読みやすい。お時間があれば、ぜひどうぞ。

(きうら)


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