★★★☆☆

ラッキーマン(マイケル・J・フォックス〔著〕、入江真佐子〔訳〕)

投稿日:2019年2月27日 更新日:

  • ハリウッドスターとパーキンソン病
  • バックトゥザ・フューチャーの裏話も
  • 示唆に富む著者の半世記
  • おススメ度:★★★☆☆

マイケル・J・フォックスと言えば、今でも知らない人の方が少ない俳優だろう。それもほとんどの方は、それもたった一つの映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主演俳優として記憶されているのでは無いだろうか? 私も他に「摩天楼はバラ色に」と「さまよう魂たち」しか観たことがない。しかし、これほど愛されている俳優も少ないのでは無いだろうか? ハンサムでチャーミングなマーティ・マクフライの活躍は、デロリアン、ドク、ビフなどと一緒に今も多くの人を記憶の中で勇気づけている。

そのヒーローが若年性パーキンソン病に罹った前後を語るのが本書で、タイトルにあるように彼はこの病気になったことをラッキーだと言っている。いや、本文では病気に罹る前には戻りたくないとまで書いている。この病気--パーキンソン病は、一言でいえば脳が体のコントロールを失っていく進行性の病である。著作当時から不治の病であったし、30年経った今でも完全な治療法はない難病だ。それが「ラッキー」と言える思考とは? 私はしばしホラーを離れて、彼の人生を追体験した。

そう、追体験と言うに相応しい内容と分量のある一冊である。オープニングは、マイケルが自分の体の異常(小指がピクピク震え続ける)を初めて感じるシーンだ。しかし、その場面に戻るまで、幼児時代から家族との関わり、俳優業を選んだきっかけ、苦しい若手時代、バック・トゥ・ザ・フューチャーでブレイクした後のスター時代、病気のカミングアウトまでが詳細に綴られている。もし、興味本位で読もうと思うなら、少々ボリュームがありすぎかも知れない。しかし、腰を据えて読むなら、随所で著者が行う人生の選択に共感できるはずだ。

例えば、本書の終わり付近には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と題してこういう言葉が引かれている。

自分自身、すばらしいと認めている目的のために使われる存在であること、
スクラップの山に放り出される前に完全に使い果たされる存在であること、
世界は自分を幸せにしてくれなかったと、
病気や苦痛の文句ばかり言っている自己中心の輩ではなく、
世の中の役に立てる存在であること、これこそが人生の真の喜びである。

--ジョージ・バーナード・ショー

ちなみにジョージ・バーナード・ショーはノーベル文学賞を受賞したアイルランドの多彩な文学者(これ以上説明できないので察してほしい)。

人生が楽しくてしょうがないという人はいるだろうが、苦痛が全くないという人はいないはずだ。大した経緯ではないが、経験上、人生とはこの「苦痛」といかに共存するかというプロセス、それを練り上げる過程では無いかと思う。まさに著者は、浮き沈みを繰り返しながら、最終的に賢明な選択を行い、不治の病をラッキーといえるラッキーな人生にありついたことがよく分かる。

まあそこの親父さん「そりゃ高級外車を何台も転がして、サウナとプール付きの豪邸に、美人のかみさんと住んで、可愛い子供もいれば、なんの悔いはないだろうさ」とボヤきなさんな。気持ちは分かるが、これはそういう話ではないのだ。読めば分かるが、金銭的な余裕は大切とは言え、それだけでは満たされないもの、むしろ、それ以外で満たされるものが何と多いか知ることができる。結局、私は「パーキンソン病になったマーティ・マクフライ」を通して、自分自身の生き方を読み直していたのだ。自分ならこうするかも? 或いはしないかも。羨ましいな、苦しいな、凄いなぁ、と。

だから、人生に苦痛を感じない人にはあまり響かないかも知れない。人間は何でも「他人事」にできる強さ(弱さ)があるのだ。先日、有名なスポーツ選手の告白で、骨髄バンクの登録者が増えたという報道があった。それと同じことが、本書でも起こっている。あなたはそれをどう感じるだろうか。素直に偉いと思うだろうか? それとも浅薄な偽善と笑うだろうか? 自分にも起こることと思い身構える? 立ち向かう? 恐怖する?

神様、自分で変えられないことを受け入れる平静さと、
自分に変えられることは変える勇気と、
そしてそのちがいがわかるだけの知恵をお与えください。(336ページ)

読んで損はないが、娯楽作品ではないので、強くは勧めない。サイトの趣旨に則って★3としたが、人によっては無限大の価値があるだろう。そんな一冊である。

個人的には、同じくパーキンソン病と戦うモハメド・アリからの電話でのセリフ「きみもこの病気になったのは気の毒だな。だけどおれたち二人一緒に闘えば、きっと勝てるさ」には感動した。

人間は他人事と割り切れる動物であるが、また、深く共感する動物でもあるのだ。

まあいろいろあるけど、とにかく、くよくよしないで明日も頑張ろうぜ。

(きうら)



-★★★☆☆
-, , ,

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

日本人の恋びと(イサベル・アジェンデ、木村裕美〔訳〕/河出書房新社)

恋愛と老いと友情をテーマに かなり重い過去を背負った人々 現在(2010年代)と過去(20世紀のこと)を交互に描く おススメ度:★★★☆☆ 本作は、イサベル・アジェンデが72歳の時に書いたもの。現代版 …

尾生の信(芥川龍之介/青空文庫) ~感想とネタバレ、着想を得た「創作小説」

中国故事からとった、美しくかなしい掌編。 何かを待つということは、つらい。 青空文庫の中でも、とても簡単に読める作品。 おススメ度:★★★☆☆ タイトルの「尾生の信」とは、「ばか正直に約束を守るだけで …

サンマイ崩れ(吉岡暁/角川ホラー文庫)~あらすじと感想

災害ボランティアに向かう若者の怪奇な短編 書下ろしの「ウスサマ明王」は中々変わった内容 前者は不条理系ホラー、後者はバトルもの おススメ度:★★★☆☆ 「サンマイ崩れ」というタイトルはとても秀逸だと思 …

実話怪事記 穢れ家(真白圭/竹書房文庫)

毎度おなじみ伝聞調の現代怪談集 どこかユーモアを感じる作風 破綻しているような気もする話もあるが至極真っ当に楽しく読める おススメ度:★★★☆☆(このタイプの怪談集が好きなら★+0.5) 本の紹介には …

清須会議 (三谷幸喜 /監督) ~あらすじと感想

5日間の政治的会議をコミカルに描く 秀吉(大泉洋)と柴田勝家(役所広司)を中心とした群像劇 狙いはわかるが、分かり過ぎるきらいも おススメ度:★★★☆☆ (あらすじ)久しぶりにAmazonの解説文を改 …

アーカイブ