★★★★☆

ルクンドオ(エドワード・ルーカス・ホワイト、遠藤裕子[訳]/ナイトランド叢書)

投稿日:2018年10月17日 更新日:

  • 著者が見た夢(悪夢)をそのまま書いたという作品群
  • わかりやすいものから不気味なものまで
  • 内容の唐突さが、たしかに夢を見ているよう
  • おススメ度:★★★★☆

【はじめに】

著者は、アメリカ出身で、怪奇小説などを書いた作家です。本書に載せられたものは約100年前に発表された怪奇幻想的な作品です。私は、この著者のものを読んだことがなかったので、かなり興味深く読めました。著者によると、夢をそのまま書いた作品ということのようです。夢を書いたものは色々あるけれどそれらってある意味創作者としてはいい意味で卑怯じゃないかなと思う時があって、これも読む前はそう思ったのですが、創作として楽しめればいいかとも思ったのです。で、実際に読んでみたところ、これがかなりおもしろくて、再読にたえるものではないかと思いました。

夢をそのまま書いたといっても、そもそも夢をありのままに書くことなど原理的にできないわけです(屁理屈)。だって、書くということ自体が、すなわち世界の事象の翻訳なんですから。まあ、著者が言いたいのは、書く上に当たってなるべく夢の内容を選別することなく、ありのままを創作に落とし込んだものだということでしょうか。もしそうであれば、そのことは創作にあたってある程度うまくいっているように思います。短編群の中には、非常にうまくまとまった印象のあるものもあるのですから。

個人的には、どこか島尾敏雄の幻想小説的短編を連想させるところもありました。では、簡単にそれぞれの感想を書きます。

【簡単な感想】

『ルクンドオ』……表題作の一編。これは、アフリカで遭遇したある不気味な体験の話。語り手の知り合いである「ストーン」という人物に小さな腫れものが、呪い的なものとして浮かび上がります。そのさまは、どこかホラー漫画にでてきそうなモチーフを思わせます。著者によると、「自分の見た悪夢を書いたもの」ということのようです。そうだとすると、もしかして、著者自身が持つ黒人への何らかのコンプレックスみたいなものが現れたものでしょうか(曲解)。

『フローキの魔剣』……「ノルウェー1の美青年」である戦士ソルケルが、船員の裏切りにあって小舟に追いやられ、アイスランドに漂着するという筋の話。最後は魔剣に導かれて偉業を成し遂げるという英雄譚であり、なんとなく貴種流離譚めいたものを思わせます。二人の女性との恋愛や、突然の戦闘からの復讐へとめまぐるしく終局へなだれ込むように話は進みます。それにしても、とある女性の性質がおそろしく描かれます。

『ピクチャーパズル』……ある夫婦が、それぞれがつくっているジグソーパズルに、失踪した子どもの姿を幻視します。どことなくハートウォーミングな一編です。まあ単純な話です。訳者「解説」にあるように、まんま「《ミステリーゾーン》」に出てきそうな話です。

『鼻面』……とある屋敷に窃盗目的で侵入した三人の男の話。場面の転換というか、語り自体が揺らぐように思えるので、まさしく夢の中のようで落ち着かない不気味さがあります。闇のなかに光が突然灯されるなか、そこへ不穏な光景や怪物が差し挟まれて、本当に夢をそのまま書いたということがよく分かる作品です。非常に不気味。

『アルファンデガ通り四十九A』……下宿を営む「ヒバード」一家のことが語られます。「わたし」が過ごしたその下宿一家のことと、その一家のメンバーがその後どうなったかを綴っていきます。話としては、家族の有為転変のあり様が描かれる何てことのない話なのですが、急に不穏な話題があがって、それに伴うオチはよめてしまいました。それでも、カタストロフを思わせる最後の一文には、ゾッとしました。

『千里眼師ヴァーガスの石板』……夫のとある秘密について、ヴァーガスに相談に来たルウェリン夫人。カモの客を騙して儲けていることに自覚的なヴァーガスと、それを信じる夫人との対比がまずおもしろい。どこか精神科医のようにも思えるヴァーガスと夫人とのやり取りは、なんかカウンセリングのよう。というか、この一編を精神分析批評したらおもしろいのではないでしょうか(適当)。墓を掘りだし、そこに何を見つけるのかは予想できたのですが、それでもページをめくる手が止まらないほどおそろしい。その光景を目に浮かべたいがために。

『アーミナ』……これも不気味な一編。最後に待つ光景には、肌が粟立つようなおそろしさを感じます。これもそうなのですが、この短編集には、最後に唐突に不気味な光景があらわれるものが多くて好き。内容は簡単なので読んでもらうしかないです。それにしても、この一編には、著者がもつ女性への恐怖とアジア人蔑視をかんじてしまうのですが。

『豚革の銃帯』……約30年ぶりにブレキシントンの地に帰ってきたカシアス・M・ケイスの話。彼の体躯はごついものの、たまに青白い顔をしています。さらに、常に武器を携行して何かを警戒しているのです。普段の彼は快活な性格で皆を魅了する話ぶりなのですが、何か分からないモノを注視している様子なのです。最後には、彼の懸念も解消されるのですが、それが何かは分からないままです。でも、それは投げっぱなしというわけではなくて、夢を書いたわけですからそんな瑣末なことはどうでもいいのです。不気味さを味わうものですから。

『夢魔の家』……話の筋としては単純なものですので、これといって書くことはないです。単なる幽霊話なのですが、オチにいくまでがすっきりとしない印象で、それがよいです。

『邪術の島』……これこそほんまに夢をそのまま話にしたものです。飛行機事故で熱帯の島に不時着した「わたし」が、その島において、友人だった人物と出会うのです。このように突然友人や知人が現れるのには、夢特有の突拍子のなさをかんじます。そして、「わたし」はその島にいろんな人種が住んでいて、さらにはその人たちにある魔術がかけられていることに気付くのです。そこから最後の光景までは、本当に夢をそのまま小説化したのだなということがよく分かります。

【さいごに】

奇妙な物語というか、不気味でよく分からない部分もあるので、そういったものが苦手な人にはダメかもしれません。でも、フツーの怪談めいたものもあるので、気にしなければ楽しめます。私は楽しめましたし。あれですね。話の筋をおうだけでは味わえない、文章から喚起されるおそろしい不気味なイメージを楽しむものですね。解説によると、他の作品も「ナイトランド叢書」で刊行予定があるようなので(おそらく)、楽しみにしています。

(成城比丘太郎)


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