★★★☆☆

レインツリーの国(有川浩/新潮文庫)

投稿日:2017年12月1日 更新日:

  • ある障害をもつ女性の、恋愛までの道。
  • 関西弁(大阪弁)の男性が正直うざい。
  • 内容を一般化して考えてみる。
  • おススメ度:★★★☆☆

本書は、その内容を簡単に説明すると、ある障害をかかえた女性と健常者男性との恋愛に至るまでの物語です。これ以上に書きようもないのです(すいません)。二人は、あるきっかけからメールのやりとりをするようになります。その時は男性側の視点から理想的な関係性だと読者側に偽装されます。二人はその後実際に会うことになり、軽いデートをするのですが、読者には彼女のかかえている障害が何かおぼろ気には分かってきます。ところが男性は全くそのことに気付かず、二人に変な齟齬が生じます。そこがまず不自然な点です。ときに細かい気遣いをみせる男性にしては、このことだけ鈍いのは奇妙なことです。おそらく創作上の演出のためでしょうが、台無しなかんじになりました。

次に不自然なのが、男性の関西弁です。これは不自然を通り越して、もはや罪悪的にうざい。よく小説で関西弁は使用されますが、ここまで浮いてしまっているのは読んだことがない。男性のおおらかそう(?)で、くだけていて、世間ずれしたキャラクター造型が一端にあるのでしょうが、あまり奏功したようにみえないのは、たぶん作品がいまいちなのと、作者の関西弁アピールがうざいからでしょう(自戒)。それがあってか、女性の方には何とも感じないのです。

女性は、重度の障害を持っているわけではないのですが、だからといって苦労がないわけではなく、そのあたりのことは彼女のプライドとともに描かれています。しかし、描写が教科書的というか、時にどこかの団体がつくった啓発映画を見ているようで、とくにこれといった感動はありませんでした。もうちょっと穏便にいうと、中学生辺りが書いた読書感想文を読んでいるような定型的な感をぬぐえませんでした。

題材的には悪くはないのでしょうが、焦点の当て方が偏狭に感じるためにそう思うのでしょうか。メールのやり取りから、最初の出会いから、衝突を通して関係を深めていく物語としてはシンプルではあるものの、料理次第でよくなると思うのですが、なんかこれといって胸に刺さるものはありませんでした。どうせならもっとベタな恋愛ものでもよかったのでは〔これがそのベタな恋愛ものだといわれるかもしれませんが〕。

しかし読む価値がないわけではありません。この女性が持っているような問題を一般化して考えてみると、別の読み方ができました。彼女は一見健常者のように振る舞うことができ、そのことで男性との軋轢が生じたりしますが、そこがひとつの読みどころでしょう。この彼女の状況を、《何らかの不調を抱えていて、それに苦しみ、また周りからの無理解にも苦しむ≫という別の状況に替えて一般化してみると、おそらく多くの人は何らかの形でこのような経験をしているのではないでしょうか。そういった状況における理解者が少ないのに比例して、その人の苦悩も増すわけです。彼女の障害というのは、それを可視化するデバイスを身に着け、そのことで周囲との連絡役が果たされることによって、一見無理解はなくなるようにみえます。しかし根源的には何も理解されはしないのです。そう考えてこの作品を読むと、この男性の役どころはときに理想的になります。衝突と和解を繰り返して仲を深めていくという理想的な関係性もまたそうですし。まあ、この作品の本当の読みどころというのは、理想的な恋愛だというところでしょうか。つまり、外面的には障害者と健常者との理想の恋愛という形をとったもの、または恋愛作品の表面をすくい取ったもの、そうした上で現れたあるイデア的なものを素描しようとしたようです。結論を言うと、ちょっと恋愛ものをかじりたいときには丁度いい作品だということです(皮肉ではありません)。

(成城比丘太郎)



レインツリーの国 (新潮文庫) [ 有川浩 ]

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