★★☆☆☆

世界の果て(中村文則/文春文庫) ~あらましと感想、軽いネタばれ

投稿日:2017年7月31日 更新日:

  • 暗くて生硬な文章。
  • ちょっとしたユーモア(のある作品)もある。
  • 面白い本を読みたい人には、おススメしない。
  • おススメ度:★★☆☆☆

中村文則の作品を最初に読んだのは、芥川賞受賞作『土の中の子供』で、一読して、なんだこのつまらないのは、暗いイメージだけで何もない、なんで受賞したのか、私には読み取れないものがあるのかと、とくに悩んだりはしなかったが、その後、しばらくして初期作品をいくつか読み、その時はまあまあだと思った。私にあれらより面白いものが書けるか、ということを考えて、それと比較すると、本書は小説(文学)として、(金銭を出して)なんとか読める出来になっている。

というわけで、本書は、著者の初期作を集めた初の短篇集。重々しそうな雰囲気が全体を包んでいて、暗いテーマやストーリーもあるが、何より文章が喚起するイメージが暗い。私は暗い小説が好きだが、この暗さは、ラーメンでいうと、文章という麺に絡みついているスープや具材(=要素)が暗いという、そんな感じだ。暗さをただトッピングしただけという感じ。独特といえばそれまでだが、この暗さは、私が好きな福永武彦の小説とはまた違う暗さ。中村文則の最近の作品は読んでないのでわからないが、本書はその暗さが自慢の、味はいまいちな食堂の一品という印象。

前置きは措いて、中身について。まず、冒頭の「月の下の子供」であるが、これは、なんというか、これだけ淡々とした筆致は他にない。だからか、どんな情景も胸に迫らない。話のあらすじは、何度か印象的な場面で、幽霊を見た「僕」が紆余曲折を経て、不動産業に就職してからの、あれこれ。これがまあ、すべてがモノローグのように進み、私には、登場人物が明晰な意識で、意味のなさそうな絵柄のジグソーバズルを組み上げているのを、傍から見せられているようにしか読めなかった。これがもし、オムニバス映画の冒頭で流されたら、観客は寝るか、席を立つだろう。なぜ、これをはじめにもってきたのか疑問。

二作目の「ゴミ屋敷」は少しコミカル。妻が不慮の死を遂げ、それから全く動かなくなってしまった男の話。その後動き出した男は自宅にゴミを集めだし、それに巻き込まれた男の弟と、ヘルパーの女性との騒動を描く、どこかシュルレアリスティックな作品。作中で女性が安部公房を読んでいるが、この一編もそれ風でもあり、ちょっと大江健三郎っぽいところもある。男が建てようとする、バベルの塔じみた鉄屑の山は、何かの限界を打ち破ろうとしたものか。「その限界の中で何かをつくったら、範囲内なのになぜか限界を超えてるような、そんな恐ろしい文字の組み合わせがあるかもしれない」と言う女のセリフは、これを読むにあたっての何らかの指標になりそう。とはいえ、これって俳句のことを言っているように思えた。

三作目の「戦争日和」は、戦争日和のような青空の下、生きあがいている卑小な生の営み。それは、本当の戦争(?)を知らないから書けることか。四作目の「夜のざわめき」は、夢の中の出来事をうまくまとめたような幻想小説っぽい感じ。

最後の「世界の果て」は、5つの短編連作からなる。全編通して暗いが、ここまで順番通り読んでくれば、もうフツーに読めると思う。詳しい内容説明は省きます。「(1)」は、家に死んだ犬を見つけて、それを捨てるべく夜の街を自転車を押して徘徊する「僕」の話で、ここから何を読み取るかは、どうでもいい。「(3)」は、ある高校生が包丁を購入し、自分の葛藤みたいなものを抱えて、どうのこうのする話。「(4)」は、ミステリっぽいが、これこそ安部公房風である。

特におススメしないが、私としてはこういう暗さは嫌いじゃないので、これからも引き続き別の作品を読みたいと思う。

(成城比丘太郎)



(楽天ブックス)

-★★☆☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

家(栗本薫/角川ホラー文庫) ~感想と軽いネタバレ

新築の家と、家族にまつわる恐怖。 一人の主婦を襲う怪奇現象。 たいして怖くはない。 おススメ度:★★☆☆☆ 専業主婦の「規子」が、念願のマイホームを、郊外の新興住宅地に新築し(資金は夫が出したものだが …

死国(坂東真砂子/角川書店)

心霊系恋愛小説 四国の土俗的文化がベース ホラーとしてはおすすめできない おススメ度:★★☆☆☆ 注・ここから先、ネタばれあり 過去に「猫殺し」の一件で話題になった坂東氏による「死国」は、死者の甦りと …

X‐ファイル―未来と闘え(クリス・カーター(著)、 エリザベス・ハンド(著)、 南山宏(翻訳)/角川文庫)

伝説の超常現象捜査官の映画版ノベライズ モルダーとスカリーが出てくるだけで満足 当時としては異常によくできたドラマだった おススメ度:★★☆☆☆ これもまた古い話になるが、テレビドラマである第1シーズ …

危ないお仕事!(北尾トロ/新潮文庫)

実際にあるマイナーな仕事の取材・体験記 軽いインタビューや体験談がほとんど わざわざ読むほどのものでもないが、興味があれば。 おススメ度:★★☆☆☆ ここ一ヵ月ばかり、ちょっと幽霊・亡霊・モンスターも …

水に似た感情 (中島らも/集英社文庫)

ほぼ実話のTV制作ドキュメント 驚くほどの下品さと繊細さが混在 ちなみに躁病の時に半分書いたらしい おススメ度:★★☆☆☆ まず「中嶋らも」という作家の情報をどの程度知っているかで、この本の面白さが変 …

アーカイブ