★★★★☆

中世騎士物語 (須田武郎/ 新紀元文庫)

投稿日:2019年4月24日 更新日:

  • 中世フランス騎士の実像を概観する
  • 物語性は低いが入門書としては秀逸
  • ゲームや小説で騎士に興味のある人に
  • オススメ度:★★★★☆

最初に。本書はホラーとは全く無関係である。普通、怖い本とも呼ばれないだろう。どちらかというと歴史書に近い。後書きに執筆方針が書かれていて、これが内容を現わすのに適切なので、もし読まれる場合は基準とされたし。

1.内容は騎士中心だが、騎士のおかれた状況も盛り込みたい。
2.歴史の本にはしないが、歴史の連続を重視したい。
3.シリーズの本らしく、武器や戦術といったものを重視したい。
4.狂言回し役の架空の人物によって騎士とその時代を身近に感じさせたい。

3.のシリーズものというは「Truth In Fantasy 」とあるので、発刊当時ブームとなっていたであろうファンタジー小説の解説書のシリーズだろう。

私がこの本を選んだのは単純で、一度、騎士を主役にした小説を書いてみようと思ったからである。私の場合、資料からテーマを取ることは無いだが、それにしても実像を知らずに小説を構築するのはいかにも心もとない。とは言え、歴史書や単純な解説書は苦手だ。と言うわけで、一次史料と小説の間のような本書を選んでみたのである。

そういう動機を持った方がどれだけいるかは定かでは無いが、少なくともゲームや小説で「騎士ってかっこいい」というイメージを持っている方には良い読み物だと思う。まず、文書が平易であり読みやすい。次にキチンとした一次史料を原典に引いているので(全てでないにしろ)描写が正確だ。さらに架空の主人公がいるので、騎士の一生が理解しやすい。あなたの知っている色んな「中世」「騎士」といったイメージがどこから来ているかよく分かるし、誤解があればそれも解ける。

個人的には、漢字で明記されているにも関わらず、騎士を馬とを明確に結びつけられていなかったという発見があった。私のイメージは、騎士とは鋼の甲冑をまとって剣を振り回すものであったが、本来は馬に乗ってランス(馬上槍)を用いて戦う文字通りの騎(馬の戦)士だったのだ。もちろん剣は用いるが、それは落馬か乱戦になってからで、しかもトドメは短剣で行う場合が多いとある。これも時代による戦闘や武器、防具の変遷が語られていて、今の騎士のイメージが何を誇張しているかが分かる。最初の騎士はえらく貧相で、最後の方は重厚過ぎるのも面白い。その勃興から火器登場による衰退までを、ある程度順を追って理解できるようになっている点は素晴らしい。歴史が苦手でも興味を持てる作りになっている。こういう本が教科書であれば、歴史嫌いも減るだろう。

しかし、上記の例も含め、仮にも騎士を題材に小説を書こうと思う私は「知らなさすぎ」だと実感した。知ってて書かないのと、知らないから書けないことには天地の差がある。もし、本気で騎士の話を書くのなら、本書が参考として挙げている資料を多数読まねばならないだろう。

とはいえ、普通の人は、そういう読み方はされないと思うので、中世を知る一端として良い読み物という評価になった。物語はあくまでオマケで、どちらかと言うと制度や社会、武器、戦術の解説が多いので、話を楽しむ「小説」としてはオススメしないのは、前述の通りだ。

一点、現代に通じる話題として、聖地エルサレムが出てくる。今もってテロや戦争を通じて西欧文化とイスラム系文化が衝突しているが、この本を読むとその争いの根深さがよく分かる。一神教の聖地が重複すると言う問題は容易に解決しないだろう。正に紀元前からの人類の宿業のように思えた。領地や爵位、貴族や農民などの成り立ちや暗い側面も知ることが出来る。騎士を描いているが、好意的な描写が少ないのは非常に興味深い点だと思う。

全体的には淡々とした文章で書かれているが、歴史とは血みどろの戦いの歴史であり、ローマ時代の優れた文化を葬った世の中が存在しているのであり、殺人のための武器が発達して行く過程であることが実感できる。その歴史を今も続いていることが事実であるとすれば、恐怖とは何かもまた違う視点で考えさせられるのである。

ちなみに図版が豊富なので、見た目にも分かりやすい。この点も本書の優れた点として、最後に書いておきたい。表紙がカッコいい!

(きうら)


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