- いそうでいない変なヒトビトの図鑑
- 絶妙な文章とイラスト
- 今話題のコンプライアンス的には猛烈にアウト
- おススメ度:★★★☆☆
【はじめに】
本書は、著者(故人)自身とその周囲の「コワい」人々を語るエッセイ集。とはいえ、「コワい」の意味が違って、恐怖の怖いではなく、いわゆる「これはあかん……」的な人々を面白おかしく描いているので、完全にお笑いエッセイである。さらに時々、著者自身の実に味のあるイラストが効果的に使われていて、漫画感覚で読める内容だ。ま、たまにはホラーを離れて、軽い読み物でもどうぞという感じ。
【著者について】
中島らもは本文で、自分たちの仲間ことを「無職で、ラリリで、万引きの常習犯」と紹介しているが、これは洒落でも何でもなく、本当のことである。著者自身も、アルコール依存症で入院したりし、最終的には泥酔の末に階段から転落、という末期をたどっている。しかし、私見であるが、真面目なサラリーマンが真面目なサラリーマンの同僚のことを書いても面白いことなどあるはずもなく、作家で劇団主催者、役者、アルコール依存症の経歴があって、周囲も「無職で、ラリリで、万引きの常習犯」なら、書くことだらけなのは間違いない。
【感想など】
内容は実は三つに分かれていて、自らの印刷業界時代の奇人変人を紹介する「わからん人々」、主に周囲の人間の悪口を書き連ねる「たまらん人々」、創作的なお笑いばなしの「こたえん人々」となっている。ラストの「こたえん人々」は少々主旨が違うので、オマケ程度に考えて間違いない。
しょっぱなの「わからん人々」はわずか3篇の短い章だが、実はこれが一番面白い。なぜなら、主役が中島らも自身であるので、話のリアリティが違う。というか、その情けない身の振り方、今風に言えば底辺生活の様子やそれにめげないアホさ加減がおもしろいのである。この章の佳境で出てくる著者自身のイラストが最高だ。スポーツ新聞を見ながら、プロレスの素晴らしさに感じ入ったあと、この一言(めったにやらないがキャプチャしてしまう)。
いやー実に人生を現わしている素晴らしい一言だ。
「たまらん人々」はそれぞれにテーマがあって、「いばりんぼ」「とろ~い人」「ご信心のあつい方たち」「むさい奴」「アクター・アンド・アクトレス」など様々。なかには「うんこたれ」「大阪キューバン・ボーイズ」などと言うお下品な回も多数ある。そう、基本的にシモネタが多い。
個人的気に入っているのは、上記の「ご信心のあつい方たち」の話で、友達がいかがわしいビデオ(8mm)を一緒に見ようと言って持ってきたのが、某ヒューマンレボリショーン的集団の会合の様子で「ほら、あのPEACEのな、Eの字のカドにおったんや、ワシ」というセリフで著者が硬直するという前半、嫁が「三代続いたカソリックの家」だというので、ある日、「あんたと違う天国いくのいややから洗礼を受けてくれ」と言われた中島らもは、
「そうすると何か、天国ゆうのは団地の一号棟、二号棟みたいになってて、キリスト教、仏教、回教、ゾロアスター教、マニ教みたいになのがみんな別々の棟にすみついているのか。オリンピックの選手村みたいになっているのか。え!?」(65P)
と詰め寄ったところ「たぶん そう 思う……」というイラストで大笑いした。今でもこの天国観は最高だと思っている。
等々、下品で危ないネタを連発する本書は、少々古いので、あまり若い方には勧められないが、本を読んで笑ってみたいという方には最適ではないだろうか。こんなサイトだからこそ、たまには勧めてみたい一冊である。
【蛇足】
最近の芸人の騒ぎを見ているとこの頃は大らかだったんだなぁとしか思えん。時代は変わった。ただ、本質的に今回の件、誠実さが無かったのが問題で「嘘」という保身がいかに破壊力のある時限爆弾であるかということが良く分かった一例ではないだろうか。私も会社で思わず冷や汗が出て真っ青になるようなミスを何度もやっているが、咄嗟にごまかそうかどうか、考えてしまうのは人間の「業」である。まあ仕事は仕事は大切だが、いつかはこのストレスからも解放され、私の書いた素晴らしい小説が次々と売れ、大阪・キタのタワーマンションかなんかに住んで、編集者を待たしてエスプレッソでも優雅に飲む、ということもあるかも知れない。部屋には専用のジャグジーなども付けたい。とはいえ、
うーむ。
(きうら)