★★★☆☆

人生の短さについて他2篇 (セネカ/光文社古典新訳文庫)

投稿日:2017年5月23日 更新日:

  • 正しい時間の使い方とは。
  • 今忙しく働いている人が読んで、はたして実践できるかどうか。
  • 「他2篇」の方が役に立つかも。
  • おススメ度:★★★☆☆

セネカは日本ではよく売れているようです。私の手元にある岩波文庫版『人生の短さについて』(1980年第1刷、2006年第46刷)だと、26年間で46回も刷られています。そして現在(2017年)は、その岩波文庫も新訳版が刊行されていて、この作品がいかに親しまれているかが分かります。(とは言え、きちんと読まれているかは分りません。私も未読でしたし…)

前置きはさておいて、光文社版をざっと読んでみた印象だと、日本でよく読まれているのがよく分かる、簡潔で穏当な内容でした。内容を大まかに言うと、忙しく働いている人間は、自分のために時間を使うことをせず、それの大半を他人のために浪費している。そのくせ自分では人の人生は短いと嘆いている。そういった人たちは、時間を有効に使うことを知らないというのです。セネカはそのような人々に向けて、時間の使い方からはじめて、「閑暇(かんか)」に生きることを勧めています。

さて、「閑暇」に生きるとは、ただ何もせず怠惰に人生を過ごすことではないようです。「閑暇」に生きる人とは、過去の哲人などから学び、英知を求めて生きる人のようです。豊穣な過去から学び、それによって自分に向き合う現在を生きなさいということのようです。また、遊びや趣味などに没頭することなども「閑暇」とはいえないようです。そんなことでしか時間を潰せないような人は、到底「閑暇」な状態にあるとは言えないということのようです。ということは、現代人が<俺は趣味人で、充実した一日を送っているぜ>と嘯いても、セネカ的には「閑暇」ではないということでしょうねぇ。趣味や遊びに振り回されているということになるんでしょうか。

正直私にはよく分かるようでいて、よく分からない感じです。セネカはこれを、「ローマ帝国の食料管理官の任」にある多忙な人物に宛てて書いたようなので、今現在忙しく働いている、自分の時間をとれない人でないと実感できないのかもしれません。当時のローマ(2000年前)は人口80万人もいて、人口密度が高く、かなりストレスフルな生活を市民は送っていたようです。現在の日本の都市部と似ているところがあります。この辺りが日本でよく読まれている要因でしょうか。

はっきり言うと、書かれていることは当たり前のことです。しかし、セネカの言うことを本当に実践しようとするのは難しいのではないでしょうか。引退間際の人ならともかく、今やっている仕事を辞めたり、無駄に忙しい趣味を諦めたりして、「閑暇」に生きることを壮年の人物ができるでしょうか。おそらく今の日本人は(私も含めて)なかなかできないでしょうねぇ。じゃあ、セネカ(のこの作物)を読むのは、何のためなんでしょうか。まあせいぜい、<セネカはこう言った云々、ごにょごにょごにょ>と折に触れて引用して、何か語った気になるくらいでしょうか。私のように。

本書に収められている他の2篇の方が役に立つのではないのでしょうか。『母ヘルウィアへのなぐさめ』は、コルシカ島に追放されたセネカが、彼を案じる母に送った慰めと励ましの言葉。ここでは主に悲しみをどう克服するかを教えています。『心の安定について』は、「年下の親友セレヌス」に宛てられた、人生や生活に関する具体的方策について書かれています。これらの方が実践方法として分かりやすく、おススメかもしれません。

この本には特にこわい部分はありません。セネカ的には、おそれるという感情は克服されるべきものだったのではないでしょうか。こころをしずかに保って生きるということを推奨しているんですから。さらに死をもおそれる必要はないというのです。死をおそれないということは、ホラーの大部分が味わえなくなるかもしれません。ちなみにセネカは、最後は自裁しました。それは運命に従った結果だったので、ストア哲学の倫理観としては容認できるものだったようです。これは今ではマネできないですが。

(成城比丘太郎)

(編者注)最近哲学付いている本サイトですが、ドキッとするような怖さが哲学にはあります。哲学の概観を学ぶには「西洋哲学史(岩崎武雄/有斐閣)(Ama)」がおススメです。人が何に悩み、考え、恐怖し、乗り越えてきたかを知ることは、実はホラー的な側面もあるのです。(きうら)



人生の短さについて 他2篇 [ セネカ ]

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