3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

倉橋由美子の怪奇掌篇(倉橋由美子/新潮文庫)~紹介と感想、軽いネタばれ

投稿日:2017年7月29日 更新日:

  • 「幻想・残酷・邪心・淫猥な世界」を描いた20篇。
  • 簡潔で読みやすい。
  • 著者の博識ぶりがいかんなく発揮されている。
  • おススメ度:★★★★☆

倉橋由美子というと、一番(一般的に)有名なのは『大人のための残酷童話 (Ama)』じゃないでしょうか。『残酷童話』はベストセラーとして少し話題になりましたので、いつか取り上げたいなあと思っています。今回紹介する『怪奇掌篇』は、ギリシャ神話の神々を登場させたり、国内外の古典から少し題材をいただいたりしていますが、著者のオリジナル作品集です。タイトルには「掌篇」とありますが、内容の密度からいうと、短篇集といってよいと思います。

20もある作品をそれぞれ紹介するよりも、実際読んでもらって、その幻想的でおそろしい世界に入りこんでもらいたいです。少し観念的なところもありますが、無駄を削ぎ落とした感じの無駄のない分量なので、読みやすくなっています。また、著者の知識をいかしつつ、それをひけらかすような(衒学的な)ところもあまりなく、元ネタが分からなくても楽しめます。

一応、私の印象に残った作品をいくつか紹介したいと思います。観念的な恐怖が、厭な感じに変わる恐怖、それが現実に胚胎する時、革命のイメージが癌になって現れる「革命」。『ガリバー旅行記』のパロディで、毒のある皮肉がきいた「オーグル国渡航記」。食人通の夫婦の、もっともらしい食人談である「カニバリスト夫妻」。この「カニバリスト夫妻」に関して、ラストだけは少し余計かなとは思いますが。

基本的に、この作品集は、怪奇もさることながら、エロティシズムの要素が多分に見られます。直接的な交歓のシーンもありますが、冒頭作品の「ヴァンピールの会」に見られる、ヴァンパイアが人の精を吸うという行為もそうですし、食人というのも交合のメタファーのようです。また、「事故」という一編にすら妙なエロスを感じてしまいます。

この作品群には、所々、登場人物たちが、形而上的な理想を追い求めている、そのような感じを覚えます。自分たちが生きる場所が、本当はこの現実の世界ではなく、どこか別の場所ではないかという、そのような理想を求めているのではないかと思わせることがあります。それが、時にはきつい皮肉のきいた残酷な結果として現れたりしますが。

20篇が適度な長さで、これから何か続きそうというところで終わってしまいます。そこが少し怖いところでもあります。夏の暑さに参って、本など読む気力が湧かない時などに、少しずつ読みすすめるものとして、おススメです。

(成城比丘太郎)



【楽天・電子書籍】

-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

ディケンズ短篇集(ディケンズ、小池滋・石塚裕子〔訳〕/岩波文庫)

ちょっと暗めの短篇集。 ホラーや幻想小説要素も混じっています。 不安や、幻想に捉われた登場人物の心理は現代人向きかも。 おススメ度:★★★★☆ ディケンズは、19世紀イギリスの作家です。有名なので、こ …

淫売婦・死屍(しかばね)を食う男(葉山嘉樹/ゴマブックス) ~あらましと感想、軽いネタバレ

幻想とホラーの混じった短編。 少し作り物めいているが、妙に後に残る。 夏の夜のお供にどうぞ。 おススメ度:★★★★☆ 『淫売婦』は、ある男の体験談。事実なのか幻想なのか分からないという、なんだか覚束な …

はじめの一歩(135)(森川ジョージ/講談社コミックス) &黒い家の3度目の感想掲載

一歩マニアの方向け記事です 意外に面白かった 黒い家も再読しました。 おススメ度:★★★★☆ はじめの一歩をご存じない方は前回の記事をご参照頂きたい。一応、長い漫画の流れを俯瞰している。今回は135巻 …

ダークナイト(クリストファー・ノーラン /監督)

何かと話題のジョーカー像 ヒース・レジャーはやはりスゲェ 映画としても面白い おススメ度:★★★★☆ 今さら感は満載だが「ジョーカー」が公開中の今、何とはなしに前作に当たる「ダークナイト」を見てみたら …

カフカの父親(トンマーゾ・ランドルフィ、米川良夫・竹山博英・和田忠彦・柱本元彦[訳]/白水Uブックス)

かなり狂ってる人が登場する 奇想とユーモアとナンセンスとシュルレアリスムと 語り手の饒舌さ 奇妙さ:★★★★☆ 【はじめに】 トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)は、イタリアの文学者。いつか …

アーカイブ