★★★☆☆

切断 (黒川博行/角川文庫)

投稿日:2018年11月20日 更新日:

  • 猟奇的描写からスタートする物語
  • 全編ハードでやや猥雑、そして悲劇的トーン
  • 叙述トリック的だがそれが売りでない所が不思議
  • オススメ度:★★★☆☆

とりあえず下記の説明だけ読んで、購入してみた一冊。文庫としては新刊だが奥付を見ると2004年に初版が刊行されている。なので、結構時代を感じるところもあるが、個性的な作風だった。

(概要・説明文より)病室で殺された被害者は、耳を切り取られ、さらに別人の小指を耳の穴に差されていた。続いて、舌を切り取られ、前の被害者の耳を咥えた死体が見つかって――。初期作品の中でも異彩を放つ、濃密な犯罪小説!

いきなり文章で読んでもかなりグロい感じのする殺人描写から物語は始まる。こういう本を読み慣れている私でも、ちょっと嫌な感じがしたので、人によってはここでアウトかも知れない。怖いというか、単純にスプラッター。何と言えばいいのか、細部がリアルで殺人がアイコンになってない。変な表現だが、爽やかな殺人シーンではない。

続いて違和感を感じるとすれば、大阪が舞台で台詞がほぼ関西弁で書かれていること。関西弁が変というのではなく、こういう猟奇的な犯罪小説で関西弁という組み合わせが新鮮だった。私もまさにこの作品の舞台となっている近隣地域で働いているので、地名や駅名もリアル。関西圏以外の方にはどう感じられるか分からないが、とにかく当時の大阪の雰囲気を割と忠実に表しているように思う。

少し読み進められるとすぐに感じられると思うが、主人公が誰なのか、激しい違和感が襲ってくる。「彼」とだけ書かれているので、そう感じるのだが、実はほぼ平行して「彼」が誰であるか分かるのである。この小説の肝は、犯人が誰だか分かっているのに(ちゃんと名前も出てくる)、どうして執拗に「彼」の正体を隠し続けるのか? と点だ。この理由がなかなか分からない。

もう一つ、ミスリードされるのが、時系列の混乱である。これはいいのか悪いのかは判断できないが、過去と現在がシームレスに語られるので、いったい、いつの出来事を追っているのか混乱してくる。同一人物が、改行一列で時空列を瞬間移動する。何がなんだか分からないシーンもある。ただ、それこそ作者の狙いで、この不安定な揺らぎの中に、主人公の迷い、悲哀と怨念を込めているようにも思う。

とにかく、タイトルの通り、色々切断されている物語で(巻末でもそのように解説されている)、一度時系列通り書かれた話を、バラバラにして組み直したような不思議な作風だ。中盤にはオチも狙いもトリックも分かるのに、大事な1ピースが欠けているので(そのピースが何かもはっきり分からない)モヤモヤし続ける。それが読書のモチベーションになるのは面白い趣向だった。終盤にはスッキリするのでご安心(?)を。

最初、短編集だと思っていたので、いつになったら終わるのか疑問だったのだが、まさかの長編だったというちょっと間抜けな感想もある。けっこうな残酷さと性的描写もあり、こういう作品をノワール小説というのかも知れない。警察側の描写がイマイチ弱いかなとも思うが、時代のギャップをクリアできるなら、このサイト的には味わい深い読書体験になるはずだ。

(きうら)


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