★★★★☆

十五少年漂流記(ジュール・ヴェルヌ(著)、波多野完治((翻訳)/新潮文庫)

投稿日:2018年7月19日 更新日:

  1. タイトル通りの内容の傑作古典少年小説
  2. 底本もあるだろうが、翻訳もすばらしい
  3. 単純に面白い話を読みたい人に
  4. おススメ度:★★★★☆

この有名な少年向け小説を恥ずかしながらこの歳(40~)まで、ちゃんと読んだことがなかった。ジュール・ヴェルヌといえば海底二万里〈上〉(Ama)しか読んだことがなかったし、しかも内容もほとんど忘れていた。それを元にした「ふしぎの海のナディア」というアニメは見ているが、アレはもう別物。という訳で、ヴェルヌの小説は人生でほとんど初めて読んだのだが、素直に面白いと言えるお話だった。またしてもホラーではないが、冒険小説としてのスリルは十分味わえる。

(あらすじ)15人の少年を乗せた船が、ひょんなきっかけで港を離れ、やがて嵐にあって難破する。たどり着いたのは、絶海の孤島、無人島だった。そこから、フランス人の勇気ある少年ブリアンを始め、思慮深い年長者ゴードン、ブリアンのライバルドノバン、ブリアンの弟ジャック、料理の上手い黒人のモーコーなど、様々な個性に溢れた少年たちがそれぞれの得意な技術を生かして、困難に満ち溢れた無人島での生活を切り開いていく。SF小説の祖と呼ばれる「ジュール・ヴェルヌ」による唯一の少年向け冒険小説。

私の敬愛する椎名誠が「わしらは怪しい探検隊」で、自分の弟(ユー玉)を紹介するときに、ブリアンの弟のジャックを引き合いに出して「時には兄を助ける勇敢な少年」と表現していたので、この小説を読む機会を狙っていたというのもある(ちなみにユー玉はジャックと違って勇敢さを「誰も食べない魚を進んで食べる」などと勘違いしていると椎名誠は記している)という風に表現されている。とにかく、名前だけ知っていて内容を知らない小説の一つだった。

読んでみた素直な感想は、冒険物語の王道を行く素晴らしい作品だと思う。無人島での生活にはリアリティがあり、ブリアンを始め、少年たちにはそれぞれ個性があって、キャラクターを把握しやすい(年少者の5名ほどは余り活躍しないが)。それだけでも素晴らしいと思うが、それぞれのキャラクターに見せ場を作りつつ、物語を最後まで引っ張っていくのは実に見事だと思う。この小説の特徴は、ヴェルヌの特徴として巻末に書かれている解説を転載する。

1.科学との融合
2.正確な記述
3.男の世界
4.理想主義

この小説の場合、科学と正確な記述というのは、その説得力のある内容に表れている。もっとも、訳者によると、原作では色々矛盾する点があったらしく、それらが修正して翻訳されているらしい。さらにヴェルヌの原作は文章が冗長らしく、その点を日本語で改善しているとある。同じく訳者によれば、欧米ではあまり人気が無く、大幅に改訳された日本では特異的に有名だそうだ(森鴎外の「即興詩人」が例として惹かれている)。それがフランス人の少年ブリアンが主人公だからという理由らしいのが、いかにもおかしい(日本人にはフランス、イギリス、アメリカがあまり違わない)。

この小説で特筆すべきは3.男の世界4.理想主義ではないだろうか。本書のほとんどは男性しか出てこない。それも少年である。誤解があるといけないので書いておくが、同性愛的な要素はまったくない。しかも、残酷な描写は極力省かれている。それが理想主義ということにもつながるのだが、とにかく、エロやグロ、恋愛要素を省き、この健全さを維持しつつ、ラストまで引っ張っていく展開は見事だ。主人公ブリアンと年長者ゴードンの信頼関係、ライバルのドノバンと衝突と和解、弟ジャックの秘密など、周到に張り巡らされた伏線が奇麗に回収されていくのは、いち、物語として爽快である。

怖い本としてみてみると、まあ、怖くはないと思うが、結構ハラハラすると思う。特に終盤は不穏な雰囲気が出てきて先が気になって仕方がない。大人が読んでも素直に感動できる少年たちの活躍と友情が読み取れる極めて真っ当な小説だ。こういう本があるのは素直にうれしい。

何より、主人公ブリアンの示す勇気には脱帽する。時には彼も喧嘩をするのだが、どんな危険にも動じず、新たな道を示す様は尊敬に値する。「少年」の理想像として、彼以外には思いつかないくらいだ。正に少年少女が読むには最適な小説と言える。挿絵も控えめでこの内容に合っていると思う。とか、刺激を重視し、衝撃的な展開ばかりを狙うホラー・ミステリ・サスペンスに飽きたら、古典的だが、こういった正統派冒険小説を手に取ってみるのも悪くないと思う。書かれた年を考えると正に驚異的な内容とも思う。

(きうら)



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