★★★☆☆

南海トラフ地震(山岡耕春/岩波新書)

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  • 真面目な南海トラフ地震の考察
  • その脅威を正しく知ることができる
  • 過度に煽らない学術的姿勢
  • おススメ度:★★★☆☆

マグニチュード1以上の地震は年間6000回以上も起きているという日本列島。これは一日約16回の地震が日本のどこかで発生しているということ。つまり日本列島は常に揺れ続けているということなので「地震大国」の名に恥じない状態だ。よくネットの笑い話で震度4ぐらいの地震で日本に住む外国籍の方がびっくりして外に飛び出すが、日本人は平然としている、というようなことが語られるが、実感として「ちょっと揺れる」程度では動じなくなっているのは確か。しかし、南海トラフ地震はそんな「揺れ」ではない。

本書の内容は「巨大地震の胎動」「繰り返す南海トラフ地震」「最大クラスの地震とは」「津波、噴火連動、誘発地震」「被害予測と震災対策」「それでも日本列島に生きる」と、南海トラフ地震について網羅的に語られている。序章の「巨大地震の胎動」という短い文章以外は小説的な要素はなく、ほとんどが数値と統計に基づいた冷静な分析だ。ちなみに文章自体はたいへん読みやすい。

東北地方太平洋沖地震(いわゆる東日本大震災)は、マグニチュード9.0という日本周辺における観測史上最大の地震であった。その被害の程度は、皆さんもご存知の通り。私は発生当時は奈良県で働いていたのだが、その瞬間は「グラっと来たな」という実感だったが、地震の発生源の遠さを知って戦慄した。これだけ距離が離れていて奈良で震度3なのである。その後、夜にかけて地震の実態が明らかになるについて、何か心の中に例えようのない恐怖が広がったのを覚えている。その後、仕事帰りのラジオでNHKのアナウンサーが声を乱して涙声になっていたのが印象的だった。「失礼しました」と言っていたが、失礼でも何でもない、まさに恐怖に声が震えたのだったろう。

その東日本大震災と比べて、南海トラフ地震が恐れられている一番の点は、震源が陸地に近い事である。しかも、津波の発生も予測されている。最悪の事態を予測すると、地震で揺れている最中に津波も同時に襲ってくるという場合もあるらしい。東日本大震災では津波到達までに避難の猶予がある場所も多かったが、それよりはるかに身近い時間で津波がやってくる。

私も本書を読むまでぼんやりとしかわかっていなかったが、この震災で最も揺れると予想されるのは静岡県で、最大の被害として揺れによる建物の全壊が20万8000、液状化で4900、津波で3万、火災で7万5000棟となっている。さらに工業地帯であり、人口が集中する愛知県は全壊が24万3000、液状化で2万3000、津波で2600、火災で11万9000棟となっており、さらに大きい。他にも大阪でも6万近くの全壊、何と高知でも16万棟の全壊と津波被害が5万棟と予測されている。ちなみにわが奈良県でも12万棟の倒壊が予想されているので、決して他人ごとではない。

死者数としては、震度7クラスの揺れが来た最大規模で30万人以上と言われている。しかも、今回は人口密集地帯での発生である。東日本大震災では原発が被害を受けたが、原発だけではなく、あらゆる社会インフラが破壊されることが予想され、さらにそれを助ける人口が東日本大震災よりはるかに少ないと予想されるだけに、本当に恐ろしいと言わざるを得ない。他にも連動して起こる地震や富士山の噴火の可能性も触れられており、もし、国が予想する最大規模の地震が発生すれば、相当なパニックになるだろう。

では、いつ起こるのか? 実は、この本を読むきっかけが2018年2月9日に発表された次のような記事だった。

政府の地震調査委員会は9日、静岡県から九州沖合にかけての南海トラフ沿いでマグニチュード(M)8~9級の大地震が30年以内に起こる確率が「70~80%」に高まったと発表した。

これはどう考えればいいのか。内閣府では「確度の高い予測は困難である」とも言っている。分かりやすく言うと、

歴史的な周期で見れば、いつ起こってもおかしくない状況であるが、それが明日なのか30年後かなのかは、正確には分からない。

つまりはっきり言って「事前の予知はできない」ということだ。仮にできたとしても、地震発生直前の警告になるのは例の「緊急地震速報」でご存知の通り本当に直前だ。著者も確率的には何パーセントという話をしているが、時期については断定できないと言っている。そのうえで、防災対策は「自助・共助・公序」が大切だと述べている。自分で備え、地域で備え、そのうえで政府の援助に頼るということだ。これはもう、自分たちで何とかするしかない。

著者も強く推奨しているが、市町村がハザードマップというものを公開している。私もこの機会に奈良市のハザードマップ(奈良市の防災ハンドブック)を確認してみた。南海トラフ地震では最大で6強という予想になっている。それだけでも恐ろしいが、その横にさらっと「奈良県を震源とした直下型地震」で震度7-5と書いてある。震度7なんて、予想もできない揺れだ。こちらもいつ発生してもおかしくないらしく、まさに予測不能の危険と隣り合わせに暮らしていると言っても過言ではない。この本自体は、怖い怖くないで言えば学術的で怖くは無いのだが、いつものフィクションのホラーではなく、物理的に来る恐怖である。「備えあれば患いなし」を念頭に対策を個人レベルでも行わないといけないだろう。

ちなみに来る来ないの話を先ほどしたが、規模と時期を定めなければ、東南海トラフ地震が来る確率は100%である(著者も断言している)。

私が体験した最大の地震は阪神淡路大震災で、当時は三重県の名張市にいた。震度は4ということだったが、体感的には相当強い揺れだったと記憶している。当時大学生だった私は、その揺れで目を覚まし、それでも普段通り、大阪の鶴橋駅まで近鉄電車で行ったのだが、そこで環状線が止まっていて家に帰った。その途中、倒壊したと思われる建物が車窓越しに見えたのを覚えている。その後、被害の大きさを知って戦慄するのであるが(当時はインターネットは無かったのでテレビによる情報で、情報の伝達が遅かった)、とにかく、地震の恐怖と、それでも電車を走らせた近鉄電車に驚きを禁じえなかった。大学は1ヵ月近く休校、同窓生で亡くなった方もいたし、友達のゼミの女の子の家も倒壊し、2階に閉じ込められたという話を聞いた。

徒に騒ぐ必要はない。ただ、備えが必要なのは確か。ここは日本、まぎれもない「地震の国」なのだ。

(きうら)

※共同執筆者の成城比丘太郎氏が旧サイトで以前、同じ本を取り上げています。記事はこちら


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