★★★☆☆

危ない世界一周旅行(宮部高明/彩図社)

投稿日:2018年9月13日 更新日:

  • 世界の危なさを知る、裏世界一周旅行記
  • 2009年発売でやや情報は古い
  • 文章は…だが、エピソードは面白い
  • おススメ度:★★★☆☆

「危ない」と聞けば、怖い話好きを標榜する本サイトでは俄然、興味が湧いてくる。世界一周旅行記というのは無数にあれど「危ない」が最初に来るというのはうまい。思わず買って読んでしまった。

(概要/紹介文より転記)胸一杯の夢と希望、そして世界一周航空券を握りしめて旅立った「320日間世界一周旅行」。順調な旅になると思われたが、行く先々で降りかかるトラブルの数々……。 南米ペルーでは、背後から首絞め強盗に襲われ、数十万円を盗まれた。傷心のブラジルではモデル級の南米美女に1000ドル抜き取られた。南アフリカの凶悪都市ヨハネスブルグでは、血に飢えた黒人30人に集団で襲われ、「狩り」の標的になった……。 はたして筆者は、生きて再び日本の地を踏めるのか? 世界一周旅行の「表」と「裏」がよくわかる、旅行者必読の一冊。

もともとというか、こういう危ない感じの世界一周旅行記でブームになったのは、沢木耕太郎氏の「深夜特急(Ama)」が走りだと思うが、本書もそのフォーマットを踏まえた上での一冊だと思う。それが顕著なのは、オープニングがギャンブルのシーンで始まるところだろう。これは明らかに深夜特急へのリスペクトを感じた。

率直に言って、著者は沢木耕太郎氏ほどの筆力はない。書いてあるエピソードは面白いのだが「読ませる」という意味では、力不足のように感じた。ただ、企画自体は面白いのは確か。勤め人が、自由なことをしてそれをインターネットに載せて、社長になる夢と大儲けする夢を見るというのは実にリアルだ。動機が「思い当たる節がある」ので、その点は共感して読めた。旅はオーストラリアから始まり、南米を経て中東やアフリカに立ち寄って、最終的にアジアに帰ってくる。列挙すると、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、ペルー、コロンビア、ブラジル、イギリス、エジプト、イスラエル、スペイン、ケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカ、インドネシア、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、中国、マカオ、台湾、日本となっている。

それぞれの国でのエピソードは「危ない」目にあったことに焦点が絞られており、大抵はお金を取られる、騙される、強盗に合うといったエピソードだ。比べるのは失礼だが「深夜特急」のような、追体験感は少なく、それぞれの国での目立ったエピソードが描かれている印象が強い。その為、どこに行ってもけっこう同じような災難に遭っているように思う。ただ、似たような体験を国ごとに書いているので、同じ「お金を取られる」という結果であっても、国ごとに個性があるのは面白かった。具体的には、(この本、この年に限って)欧米やアジアより、はるかにアフリカ圏の凶悪さが目立つように書かれている。他の地域では、まだ、詐欺や強盗にも人間味が感じられるが、アフリカ圏ではむき出しの悪意や殺意が溢れている(と、書かれている)。

特に、ネットでも有名なヨハネスブルグあたりの描写は強烈で、淡々と書かれてはいるが、一歩間違えば本当に死んでいたのではないかと思うようなひどさ。とにかく、国に雇われた警備員が常駐している空港を離れると、即、強盗。その酷さは、正に想像通りのスラムそのもので、この本のクライマックスもこの辺りだ。今はどうなっているのかは知らないが、当時の凄まじい治安の悪さが実感できるエピソードが満載。日頃から思っているが、幽霊よりも人間が一番怖いを実感できるだろう。

それに比べると、アジア圏の人々は親切な人が多いという印象をこの本からは受けた。民俗学的な知識はまるでないが、農耕民族と狩猟民族の違いだろうか? アジア圏での親切な住人のエピソードを読むとホッとする。文章は確かに上手くはないが、民族性の違いなども感じさせてくれるというのはいいと思う。上品な海外紹介のTV番組では観られない、各地域の闇の深さが印象に残る。

そういう視点で見ると日本の現状はどうだろう? 物騒な事件、天変地異、パワハラにセクハラ、不正に虚偽……嫌なニュースに溢れている。ひょっとすると、日本は安全ではなく、悪意の形が違うだけなのではないかと思ってしまう。とはいえ、夜中に一人でウロウロできる国は限られているということだし、やはり日本は表面上「安全」なのは間違いないだろう。この本の趣旨とは関係ないかも知れないが、「安全」「幸せ」の定義について、少々考えさせられることが何度かあった。

(きうら)


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