評価不能

君の名は。(新海誠/監督) ~今さら何を言うべきか

投稿日:2019年5月17日 更新日:

  • 映画版の感想です
  • 典型的なボーイズミーツガール
  • うーむ、悩むなぁ
  • おススメ度:分からん

よく「勘が働く」というが、あれは自分の経験を無意識に脳が分析し、答えとしてアウトプットしていると思う。一見意外に思える行動が正解だったとしても、それは合理性があると考えている。そういう意味で、私はつい先日まで「君の名は。」を合わないと思って観かったのだが「観なければ、批判などいけん」という友人の言葉で、家で観ました。残念ながら、私の勘は当たってしまった。ただ、私の勘が正しいとも思えず、このような腑抜けた書き出しになってしまっている。

(あらすじ)みんな知ってるので簡単に書こう。なぜか高校生の男女の精神が入れ替わってしまった。お互いに面識はない。不定期に入れ替わるうちに、惹かれるようになっていく。だが、ある日突然、入れ替わりが終わる。二人は果たして、会うことができるのか? 同時に隕石が落下するという危険が迫っていた。それを避けなければ、二人は会えない……。

で、だ。まず、絶賛されている作画だが、作りこみは確かにすごい。あれを文章で描写することを考えながら観ていたが、自分の語彙力ではあの画力は言葉にできない。実際に観なければ分からない絵の力というものを感じる。こうやって今は主に文字の世界の住人なので、音楽と合わさった絵の力というものは、想像を絶する破壊力がある。もうそれは、彗星の描写は美しいし、傷ついた美しい少女が恋人に会えないなら、思わず応援してしまうし、妹は可愛い。描きこまれた都会と田舎の描写の対比は素晴らしい……。

だが、私が褒められるのはこの点だけで、後は、てんでダメだった。1時間43分を果てしなく長く感じ、苦痛で呻いていた。原因ははっきりしている。最初10分で話のオチ(と流れ)が明白だからだ。つまり、「君の名は。」というタイトルで、すれ違う男女が、最後に会えんわけなかろう、という思いがひたすらぐるぐる回っていた。早く会えよ、という気でイライラしていたのだ。

実は私はNHKの1991年の朝ドラ「君の名は。」を観ていた。もう詳細は忘れてしまったが、とにかく、二人が会わないので、当時もそうとうもどかしかった。そういう知識があるので、余計にそう思ったのかも知れないが、出会えそうで出会えない二人、という図式は、実は超個人的なテーマで、究極のところ、他人にとってはどうでもいいことだと思っている。私が恋愛ドラマ(や映画や小説など)が嫌いなのは、その行きつくところが、結局、二人が「好き」だということに変わりのないことで、いかにその過程が複雑であっても落としどころは同じなのだ。ハッピー、アンハッピーを問わず、古今東西、恋愛というものは主観的なものだと思い込んでいる。

という、私の見方はズレているという自覚もある。では、本作に限らず、どうしてこれだけ多くの恋愛をテーマにした作品が創られ、また、好まれているのか。そこには「共感」や「憧れ」があるのだと知っている。もし、あんな美人(美男子)と付き合えたら……恋愛関係になったら……あんな切ない出会い方、別れ方をしたら……と、自分を重ねて観るものだろう。その奥には、やはりより優秀な子孫を残したい、という生物の本能が作用しているように思える。娯楽作品の多くが、この要素を取り入れているのもだから間違いない。それは大事なことだし、多くの人が興味を持つだろう。それを批判する気もない。私がいま、個人的に興味がないテーマだというだけ、で終わりの話だ。

だが、これがまあ「そこそこ受けた」程度なら分かるが、興行収入で言えば250憶円も稼ぐほど観られた、という事実のみで、私は無視できなくなってしまった。何らかの創作をする人間にとって、この「大ヒットする」というのは、多かれ少なかれ夢見るものだ。その夢を実現させてしまったというのだから、これに「意味を感じなければならない」という、奇妙なプレッシャーを感じてしまうのである。自分がマイナーであるだけに、特にそう思う。ただ、冒頭の勘で、合わないのは分かっていた。実は監督の過去作品をビデオで観たが、耐えきれずに途中で止めた経験がある。だから、本当は分かっていたとも言える。

ただ、ここで散々語られている設定の粗やご都合主義についてまたぞろ書き連ねても無意味だろう。だから、ごく個人的な感想になるが、私は最後まで見て「たかが二人の恋愛に彗星まで落とすなよ」と、思ったのだ。不謹慎とは言わないが、不必要だろう、と。これと全く同じ図式で大ヒットした映画を思い出した。ジェームス・キャメロンの「タイタニック」だ。あれも、誰もが知っている悲劇を元に、誰もが想像するであろうラストに向かって驀進する恋愛映画だった。しかも、主役の美男・美女の悲恋がベースになっている。映像も極めて豪華だった。あの時は、若かったので、あの単純なストーリーなど気にならず「すごい映像を観た」と感動していたのだが、ひょっとしてこの映画もそんな観方をされていたのではないかと思う。同じく宮崎駿の「風立ちぬ」も同じ図式だと考えている。

と、すると私は老いたのだ。あの瑞々しい映像を観て「あーあ、またこのパターンの話かよ」と吐き捨てる、そんな老害に成り下がってしまったのではないか。なんだか、すごく惨めな気分だ。そして創作家として、これが正解なら、絶対に私は正解にたどりつけないと思った。愛は素晴らしい、恋はいいことだ、飯を食うとうまい、眠ると爽快だ、人生は素晴らしい、そういったことに激しく疑問を感じている私には夢見るような「共感」は生み出せない。

そんな感慨に共感できる人は少数だろう。逆説的になるが、ここまで読んできて、この文章に嫌悪感や違和感を覚えたとしたら、あなたはきっと正しい。何らかの共感することがあるとすれば、やはりちょっと「疲れている」と思った方がいい。

で、何が何だか分からなくなってしまったが、結局、私は「この映画嫌いだ」ということを愚痴っているのであり、この映画のテーマである「好き・嫌い」をなぞっているのであり、幾重にも重複して矛盾した無残な残骸のような感想だ。

映画を観て、訳の分からない敗北感を感じるようになってしまったら、もう終わりかも知れない。

(きうら)


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