★★★☆☆

夜のくもざる―村上朝日堂短篇小説 (村上春樹(著)、安西水丸(イラスト)/新潮文庫)

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  • どこからどう読んでも村上春樹
  • 入門と言えるのかどうか、良く分からない
  • 元は糸井重里による広告キャンペーン

実は今、熱を測ってみると38.4度となっている。喉が強烈に痛いので、扁桃腺炎の可能性が強いが、これに不眠症(2時から起きている)、花粉症なども相まって、要は朦朧としているのである。いつも胡乱な文章ばかり書いているのではあるが、さらに乱れた文章になる可能性があるのでご容赦願いたい。

本書は、村上春樹によるショートショート小説である。元はコピーライターの糸井重里氏の助言によって、短い文章を好き勝手書いてそれに安西水丸氏がイラストを添え、新聞の広告となっていたようだ。2部構成になっているが、一部はJ・プレスという洋服の広告、2部は万年筆のパーカーの広告として書かれたという経緯らしい。

内容はと言えば、非常に大きい活字で4ページほどの短い小説になっているが、これがもう、一度でも著者の作品を読んでいる方ならば「納得」の、村上春樹以外、何ものでもない文章と内容になっている。基本的には不条理劇になっているので、タケウマがしゃべったり、バンコクでの驚いたできごとを急に電話してくる女性(しかもその内容は不明)、鉛筆削りを交換していくパイプの修理官が出てきたり、その時、著者が面白いと思った文章を延々と描いていく内容である。

風の歌を聴け」では、それが連続して一つのストーリーを為していたが、そういったこともなく、ユーモアであったり、不条理であったり、ちょっとしたホラーであったり、そんな内容のことが書かれている。

少し紹介すれば「コロッケ」というエピソードでは、自分自身をお歳暮として送ってきた女性(2時間何をしてもいいと言われる!)に、主人公は困った挙句、「愛しのエリー」を唄うという女性を慌てて止め、「じゃあ、コロッケはどうですか?」と言われ、

「いいねえ」と僕は言った。僕はもうなんたってコロッケが大好きなのだ。

で終わる。これを面白いと思うかどうかはそれぞれだが「もうなんたって」に村上春樹節が凝縮されていて納得できる。

もう一つ「スパナ」というエピソードがある。これは日産の車の助手席に乗った女性が襲われそうになったところ、手近にあったスパナで相手の男の鎖骨を砕くという行為を3回やったという話である。これのラストが象徴的だ。

「でもね」と彼女はパチンと化粧バックを閉めて言った。「世の中には鎖骨を砕かれて当然ってやつもいるのよ」
「そりゃ、ま、そうだろうけど」と僕は返事をした。
そりゃ、ま、そうだろうけど。

非常に読みやすい一冊であるが、これが村上春樹という作家の入門に適しているかは分からない。ひょっとしたら長編を読んでから、こちらを読む方が楽しめるかも知れない。少なくとも私は退屈せずに最後まで読めた。

ただ、あまり深く考えてはいけない系の小説なので、軽い読書向きだろう。たびたび、引き合いに出して悪いが、不条理・暴走・愛欲の度合いであれば、やはりソローキンの「」が数段上だ。まあ、ソローキンがノーベル文学賞を受賞する可能性は0%だとは思う。

不条理も積み重なるとホラー風になってくるので、その辺はちょっと怖いかも知れない。ちなみにイラストの方も不条理で作風にはあっている。

(きうら)


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