★★★☆☆

女生徒(太宰治/角川文庫・青空文庫)~感想文を楽に書くシリーズ(小学校高学年〜中学生向け例文)

投稿日:2017年6月10日 更新日:

  • 作品は女生徒に仮託した語り。
  • 小学生を想定した感想文。
  • 部分的に適当にきりとってお使いください。
  • おススメ度:★★★☆☆(作品としての評価)
はじめに

(戯言のようなまえがき)
読書感想文は、なぜいやがられているのでしょうか。その理由については、「きうら氏」が書いていて(過去記事)、屋上屋を架す感もありますが、いくつか偏見めいたことを書いてみたいと思います。

読書感想文とは、その名の通り、読書をして(必ずしも読書しなければならないわけではないですが)、思った感想を文にしたためるという、同語反復的な説明、だと思われがちですが、それだけではないのは、これまた周知の通りでしょう。つまり、読書感想文とは、単なる感想を書くのではなく(もちろんそれが駄目なわけではありませんが)、きちんとした形式で、きちんとした過程を経て、きちんとした内容のあるものを書かなければならない、というかなりテクニカルなもので、受験や実力テストに似たものがある、ということです。それが何となく分かっているからこそ、(特に小学生は)読書感想文を敬遠しがちなのではないでしょうか。

現在、全国のだいたいの小中高では、朝の読書が行われているようで、読書の習慣は広がっているようです。読んだ後に、読書感想文の提出があるかは分りませんが、少なくとも本を読む行為自体が嫌われているわけではないでしょう。私も幼少期から読書の習慣はありましたが、それでも、小学生時の読書感想文は、億劫だったのです。もちろん、読書後に何も感じなかったわけではありません。「面白かった」とか、「よく分からなかった」とか、簡単な感想はおぼえたものの、原稿用紙何枚ものきちんとした感想が浮かんだわけではありません。

どうやら、ここに読書感想文の面倒さの一つがあるように思います。普段感想文など書きなれていない人に、いきなり何千字もの文章がすらすらと書けるでしょうか。しかも、宿題という枷がかけられているのです。なんとなく読書感想文にたいして憂鬱になるのも仕方ないでしょう。

私が思う、理想的な読書感想文とは、ただ「面白かった」とか「つまらなかった」とか、などの一言でもいいと思うのです。それを繰り返すうちに、文字数も多くなるかもしれないし、もっと書きたいと思うようになるかもしれない。もし通常授業で、そのようなことを続けていけば、最終的に読書感想文並のものができるかもしれない(できないかもしれない)。そのような簡単なものを書くという指導からはじめたら(簡単にはいかないでしょうが)、少なくとも、読書感想文嫌いはなくなるようになるかもしれません。

とはいえ、読書感想文とは、単なる感想に終始していいものではないし(もちろんそれでもいいのですが)、来るべき受験勉強への一歩でもあるので、適当にやらない方が何かといいでしょう。なぜなら、読書感想文を書くとは、本を注意深く読みつつ、自分の意見をまとめるということであり、これは、モノを(論理的に)考える一助になるからだと、思うからです。これは、(受験だけでなく)いろんなことに役立つ気がします。

さて、この読書感想文コーナーは、なるべくよりよい読書感想文を書くための方法をお伝えするものですが、理論的なことに関しては「きうら氏」が書かれているので省きます。そのかわりに実作(読書感想文)めいた文章を載せますので、何かしら参考にしていただければ幸いです。というか、この中から何か使えそうな部分やフレーズでもあれば、遠慮なくお使いください。

編者注:以下は、本物の感想文を想定しているので、あえて改行は入れていません。

(本文)

僕の目の前に一冊の本が置かれています。これは、太宰治の『女生徒』で、僕が読書感想文に何を選んだらいいか迷っていて、お母さんに「どうしよう」とワアワアわめいていたら、お姉ちゃんが「うるせぇな、これでも読みな」と言って、ポンと渡してくれました。僕は「なんだ、うぜーな」と思いながら、お姉ちゃんに「これ面白いん?」ときくと、お姉ちゃんは「まあまあ」と言って、自分の部屋にいきました。お母さんは「それでいいんじゃないの」と言ったし、僕も時間がないのでこれでいいやと思いました。きっとお姉ちゃんも読書感想文をやる時に、何を選んだらいいか迷っていて、『女生徒』というタイトルにひかれて、これを選んだのだろうと、僕は思いました。お姉ちゃんの口ぶりから、僕は、きっとお姉ちゃんはこれを読んでないだろうと思いました。そして、それがなんだか、誇らしく思えました。僕より優れているはずのお姉ちゃんが、実は、太宰治すら読んでないんですから。
僕は「これでやろう」と思って、最初のページを読んでみたら、いきなり出だしから女の子の言葉で書かれていたので、太宰治ってもしかしてネカマだったのかと思いましたが、太宰の時代にネットゲームなどなかったと気づきました。しかし、そう感じるほど、太宰の文章は女性が書いたようで、僕は何かくすぐったくなり、太宰ってどんな顔をしてるんだろうと、口絵の写真を見てみたら、普通のおっさんで、僕のお父さんと同じくらいの年齢でした。だから、とても驚きです。
太宰は、本作で、女子学生を語り手に女性の気持ちの揺らぎを書いていて、何か読んでいてとても新鮮な感じで、ふわぁっと世界が明るく開けるような、不思議な感覚を覚えました。書かれている調子は、ちょっと今の女の子と違うかなとも思いました。主人公は、丁度僕のお姉ちゃんと同年くらいで、しかし、明らかに僕のお姉ちゃんとは違います。お姉ちゃんは、こんなに色んな物事を、感受性豊かには感じていないだろうと、僕は勝手に思います。
お姉ちゃんは、普段から僕のことを、僕の名前の「カズ」というものからもじって、「かす坊主」と言ってきて、それがとても嫌で、僕は仕返しに、お姉ちゃんの「アカネ」という名前から、「アッカネ」→「オッカネー」→「オッカ姉―」とひそかに読んでいます。お姉ちゃんは、なかなか怖いので、面と向かってこのあだ名を使うことができず、僕は、たまに「オッカ姉-」の髪を引っ張ったりして、反撃をくらったりした時に、「オッカ姉―」と叫んで、お姉ちゃんが何も気づいていないのを確かめ、「やったー」と快哉を叫ぶと、自分の布団に頭をおしつけて、わきでる喜びをかみしめています。そうすると、その夜中は寝るまで顔がむずむずして困ります。
『女生徒』の主人公には、お父さんがいなくて、お母さんと暮らしているようで、それを読んだ時に、僕はなんだか胸がジーンとなって、そうだ、僕もお母さんをもっと大事にして、お手伝いとかいっぱいしなければいけない、と思いながらも、やっぱりそう簡単にはできないだろうなと思うと、すっかりかなしくなってしまう。「オッカ姉-」のお姉ちゃんともよくケンカするし、本当に僕はだめだな、と思いながら、それでも明日になれば、すべてが良くなって、真っ白な太陽のように、すっきりした気持ちになって、生まれ変われるんじゃないかと、なんだか、他人任せの考え方をして、やっぱりだめだなと、堂々めぐりになってしまいます。
太宰は、電車の中で見かけた「覇気のないサラリイマン」を書いていて、その様子は、僕をドキッとさせて、これって、僕のお父さんがたまに、夜に疲れて帰って来た時の、なんだかしぼんだ苦瓜の姿と、同じじゃないかと思いました。太宰が、これを発表したのは昭和十四年で、僕のお祖父ちゃんが生まれる前のことなのに、こんなに昔から「サラリイマン」は疲れていたのかと思うと、お父さんが心配になると同時に、日本の行く末もにわかに憂慮されてしまいます。
僕が電車の中で見かける人たちは、スマホとかでゲームや読書している姿ばかりで、なぜ、いつも取りつかれたように、ゲームばかり車内でするんだろうと思います。僕も家ではゲームはしますし、ゲーム自体も好きですが、それでも、電車でゲームしたいとは思いません。電車でゲームをしていない人もいますが、そういう人は、寝ている人です。疲れた日本の、疲れた人。そう考えていって、なぜ、太宰が女性の言葉で、この作品を書いたのかが分かった気がしました。この一編には、不思議な明るさと、唐突な文明批評が混じりあっています。その批評性をいかすには、この文体があっているのではないか、と思いました。元気のない人たちに向けて、若い女性がなにか活を入れるようなかんじで書くことが、この作品のもっている一片ではないかと、そう思いました。そうすることで、嫌味なく、また明るさをもった、さわやかな一品に仕上がったのだと、思いました。

(成城比丘太郎)

(編者注)今回は例文として中高生向けの内容になっています。この後、さらに簡単な小学生実践編を追求してみるつもりです。なぜ、感想文にここまでこだわるのか? 自分たちでも良くわかりませんが、書いてみると意外に楽しいのです。



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