★★☆☆☆

奴隷小説(桐野夏生/文春文庫)

投稿日:2020年1月13日 更新日:

  • 怪奇小説…いや幻想小説家
  • タイトルほどのインパクトはない
  • どれもプロローグっぽい感じ
  • おススメ度:★★☆☆☆

自虐読書というものがあって、私は新年早々初出勤に合わせて「新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)」を読んでいて、非常に鬱々とした気分であった。その感想を書こうと思ったのだが、昨年の暮れに「2020はホラーを読む!」などと書いたことが頭をよぎり、何となくホラーっぽいタイトルの本を手に取って見た。

本書も短編集で薄い本(187P)に7つの小説が収録されている。奴隷小説というタイトルだけあって、何かに囚われた(捉われた)人たちの小説となっている。ちなみに、性的なテーマ(女子高生の拉致、アイドル、炭鉱夫の欲望)などを多数扱っているが、直接的な性描写は極端に少なく、そこに期待する読者は肩透かしを食らうであろう。また、狂気の度合いや著者の個性も中途半端で何となく満足感がない。

とはいえ、一応感じるところもあったので、CDアルバムのイントロ全曲紹介のような感じ(それも分からない人が増えたか)で紹介してみたい。

「雀」
架空の村、男尊女卑・一夫多妻制が極端に発達した村、強要される結婚などがテーマ。掟に逆らったら舌を抜かれる=舌切り雀から、本書のタイトルが来ている。けっこう繊細な感情の機微が描かれているが、オチを読んでもスッキリしない。スッキリしないなぁ…。

「泥」
女子高生の集団拉致という、一番分かりやすい内容。果たして彼らは、捉われた島から逃げ出せるのか? もちろん「雀」と同じく束縛と開放がテーマなので、あまり不埒な感情をもって読んではいけない。幻想小説的な要素もあるが、解説でも触れられているボコハラム事件などに着想を得ている気もする。でもなんか違う。拉致された少女たちは、普通、こんな風に考えるのだろうか。

「神様男」
これが一番キレていて良い。売れないアイドルの話を母親目線で。地下アイドルというほどでもないが、大量に消費される「アイドル」という存在の悲哀と絶望が感じられてよかった。AKBやももクロが実名で登場する。私自身、生涯アイドルに興味を持ったことは無いが、確かに彼らが神様とは思えない。それが神様になる世界、ううむ、確かにホラーだ。

「REAL」
娘が自殺した女性がブラジルの友達を訪ねる。そこには自分の子供そっくりの異国の娘がいて…という筋立て。何だか視点が混乱していて読みにくい小説だった。これも絶望がテーマだが、舞台設定に凝りすぎて集中できなかった。タイトルはブラジルの通貨から。

「ただセックスがしたいだけ」
あんまりなタイトルとは思うが、架空の若い炭鉱夫が年に一度の女性との情事にハマって身を持ち崩すという、よく考えれば別に炭鉱である必要のない話で、だから何と言われればだから何だという小説だ。ま、男は風俗にハマるという悪癖を持つ人が多いので、そういうヒトを醒めた目線で読みたい人はどうぞ。

「告白」
これは中々怖い。南の島に逃亡した人切り薩摩藩の若者の受難を描く。一番幻想的でもあり、息苦しくもある。残酷描写も一番だ。シンプルな中身で拘束された主人公が老人に昔語りを聞かされるというだけだが…あんまり深く意味を考えたくないが、嫌な話ではある。短編としてもまとまっていると思う。

「山羊の目は空を青く映すか Do Goats See the Sky as Blue?」
タイトルの示す通り、若干のSF要素を含んだある収容所の過酷な生活を描く。ディティールに痛い描写があるが、囚人たちの絶望が丹念に描かれている。ただ、設定を広げているために、どうしても何かのプロローグっぽくなってしまって、満足感が得られない。ここから話を膨らませればいいとは思うが、無責任にそんなことを言って、もし、誰も読まなかったら悪いのでやめておく。

以上、桐野夏生の本を読んだことがある方なら、可もなく不可もなくという感じの小説集。しかしこれがホラーだ! と言い切れるような切れがなかったので、次回はそんな感じの本を選んでみたい。などと書いて、また自分の首を絞めるのであった。

(きうら)


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