★★★☆☆

妖し語り 備前風呂屋怪談2(岩下志麻子/角川ホラー文庫)

投稿日:2019年2月13日 更新日:

  • 天女のような湯女・お藤が客から聞く時代怪談
  • 湯女は今で言う風俗嬢(ソープランド?)
  • 嘘と真を行き来するので幻想的
  • おススメ度:★★★☆☆

シリーズものの本を読む場合、滅多に巻数を飛ばして読まないのだが、今回は珍しく2巻から読んだ。あの岩下志麻子であるので、概要を読めば作風は想像が付くし、短編怪談集であるので、まあ差し障りはないだろうと言う安易な判断である。実際、過去に読んだ著者の作品に比べれば、何となく明るい作風で、陰惨さは比較的感じなかった。しかし、所詮は男と女の因果話である。「比較的」であって、ホラー・怪談の類に馴染みがないと十分にグロいだろう。内容は思った以上に入り組んでいる。夢幻的というのだろうか? 不思議な語り口である。

(概要・本裏より転記)本物の天女ではとも囁かれる妖しき美貌の湯女・お藤。その巧みな語りの噂を聞きつけて、和気湯には様々な客が訪れる。珍しい女客とは、頭の形が異様な人形を作り続ける母と不気味な観音像の話を、湯女になるという女とは、首と腸のみで飛び回る異国の精霊の話を、熊のような侍とは、己の中の別人格に悩まされる話を―語り合うのだった。お藤の前にまた、嘘とも真実ともつかぬ奇妙な物語が立ち上る。傑作時代怪談、第2弾。

お藤は概要にあるように、才色兼備の女性でありながら最底辺の職業とされる湯女を好んでやっていると設定されている。詳しい出自はあくまで謎、主役というより狂言回し役に思える。基本的なフォーマットは、湯女のお藤の元に客が来る→不思議な話を聞かせる(客が聞いてもらう)→お藤が何らかのリアクションを取る、で統一されている。とはいえ内容は様々。怪異譚も多いが、どちらかと言えば、男女の愛憎を哀れみを持って描く感じ。そういう訳で明確に「落ち」ない場合もあるが、そういう作風の方が良いという人もいるだろう。要は好みの問題で、私は楽しんで読めた。
以下、ワンパターンであるが、各話の概要を書くので、読んで見ようかなと思った方は参考にして欲しい。その性質上、ややネタバレ含むのでご注意を。

「凍える南の島」過酷な環境から、心の中に理想の女「お藤」を作り出した男の数奇な運命が語られる。もちろん、主題はお藤がお藤と同じかどうかという謎になる。今で言うとイマジナリーフレンド(ワイフ?)みたいな話。最後のワンフレーズにちょっとした仕掛けがある。因みに中身はけっこう血生臭い。

「悪い観音様」娼館に女の客がやってきた。その珍事に常連たちは色めき立つが、お藤は淡々とその話を聞いてやる。 狂気に満ちた内容で、薄気味悪いイメージが満載。お藤の返しも曖昧だが「本当に狂っていたのは誰か?」を考えさせられる。少し物足りなくも。

「人が空を飛ぶ時代」前二つの話は構図が似ていたが、これは何とファンタジーかSFかという要素があって全く別の趣きがある。残酷さもない。それが何なのか書くと著しく興が削がれるので書かないが、ある男の情婦の話なのは間違いない。個人的にはこの本の中ではちょっと浮いてると思うけど、アクセントとして必要かも。いや、ぶっ飛び過ぎとも思うので、他の人の意見も聞いてみたい。

「香しき毒婦」これは珍しく分かりやすいオチがついて曖昧さがない。首と腸のみで飛び回る異国の精霊の話というのはこのエピソード。イメージはグロくていいのだが、一つ前のエピソードとの落差が激しい。良くも悪くもスッキリする終わり方だ。

「行って帰ってきた人」湯屋の常連の爺さんが生前葬を始めるという内容。途中まではほのぼの系のお話と思わせておいて、著者らしいねっとりとした畳み方をする。生前葬がほのぼのというのも、我ながらどうかと思うが……。

「愛らしい目の上の瘤」これも概要にある侍の二重人格ものの一篇。設定・展開・結末共に安定していて、多少の痛みの描写はあるもののスッキリ読みやすい。著者を世に出した「ぼっけえきょうてぇ」を、ポジティブに再構築した感じと言えば分かるだろうか? 印象的なお話である。

「縁の下の王と妃」異形の乞食にまつわる、ちょっといい(?)話。グロテスクさもなく、最後くらいは明るく締め括ろうという意図なのかもしれない。振れ幅で言えば、この話が一番ハッピーだ。感動系怪談と言おうか、人情噺というか、そういう感じだ。

このご時世なので、一応付記して置くと、作中二篇に中国・朝鮮に対して好意的な描写がある。そもそもお藤自身が、朝鮮王朝の末裔かも知れないという風に語られている。昨今のギスギスしたやり取りを思うと興味深い。

怖いかどうかという点では、悪くないと思う。良くも悪くも手慣れた作風で、ベテランらしい安定感、裏を返せば新鮮な仕掛けは無いということ。怪奇話が好きならば、のんびり読む分には不足は無いだろう。一巻も読んでみたい(想像はつくが……)。

そうそう、湯屋(娼館)という設定から、何らかのお色気要素を期待されるかも知れないが、私の感覚では一切それはない。お藤が湯女なのは、設定上のアイコンであり、主題ではない。男女間の話ばかりだが、感情のやり取りがメインで、肉体的描写は物語に必要な最小限だけ。何もわざわざ文末に断る必要も無いような気もするが、どちらかと言えば直球の怪談集である。お好みでどうぞ。

(きうら)


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