★★★★☆

山の霊異記 赤いヤッケの男(安曇潤平/角川文庫) ~感想と軽いネタバレ

投稿日:2017年7月20日 更新日:

  • 山にまつわる短編怪談集
  • 基本的には登山者の死者の話
  • 語り口も工夫されている
  • おススメ度:★★★★☆

本来、このサイトで取り上げようと思っていた主なお話は、ホラーというか、怪談のような話だった。もう結構な数を読んでしまったので、今更感はあるが、どちらかというと、血みどろスプラッターより、ちょっと背筋が寒くなるような怪談の方が好みにあっている。そういう意味で、この本は正に、正統派の怪談集であり、かつ、読みやすく、ゾッとする話も多い。

短編集として、タイトルにもなっている「赤いヤッケの男」も含め、合計26篇の物語が収録されている。比較的短いものも有れば、それなりにページ数を割いているものもあるので、全てが同じ調子で語られているわけではない。基本的なフォーマットは、登山好きな作者が、自分が経験したり、仲間や知人の登山者から聞いた話を蒐集して収録されている。

著者が序文で述べていることで印象的なのは、山が信仰の対象となることは多いが、他国では入山を禁じると場合が多いのに対し、日本では積極的に山に登って霊験を得ようとする傾向があるとのこと。これは日本人が山があの世(天国)とつながっていると考えているからではないかと述べている。私も実感することであるが、日本の国土の約7割が山岳地帯であるからこそ、日本人は山に不可分の信仰を抱いているのだろう。

さて、内容の紹介をするとネタバレになってしまうが、2、3紹介すると、タイトルの「赤いヤッケの男」は、冬山登山でたまたま「赤いヤッケを着た男」の死体と遭遇してしまった主人公が体験する恐怖を描いている。これは中々ゾッとする落ちがついているので、タイトルになっているのも良くわかる。また、最終話の「牧美温泉」は、温泉宿に泊まって厚くおもてなしを受けた主人公の不思議な経験が語られる。こちらは怖いというよりは、ひっそりと悲しいような美しい話で、最終話にこの話を持ってくるところからして、作者はやはり山を愛しているのだろう。

個人的には、「ゾンデ」「N岳の夜」「笑う登山者」などが怖かった。それぞれシチュエーションは違うが、どれも死者とのあまり好ましくない遭遇を描いている。基本的には山のシーンが続くので、ずっと読み続けていると、少々職食気味になるのも確かだが、冒頭で書いた通り、時々、一人称になったりして工夫されているので、極端に飽きるということはない。また、全体的に上品な語り口に好感が持てる。

これから夏に向けて、ちょっと怪談を楽しみたい方にはお勧めの一冊と言える。

(きうら)



赤いヤッケの男 山の霊異記【電子書籍】[ 安曇 潤平 ]



-★★★★☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

新装版 蚤と爆弾 (吉村昭/文春文庫)

いわゆる731部隊の細菌兵器についての「小説」 真にDemoniacな内容 終始冷静な視点・単純なヒューマニズムを描かない おススメ度:★★★★☆ 読書中、なぜか頭の中にDemonという単語が浮かんで …

淫売婦・死屍(しかばね)を食う男(葉山嘉樹/ゴマブックス) ~あらましと感想、軽いネタバレ

幻想とホラーの混じった短編。 少し作り物めいているが、妙に後に残る。 夏の夜のお供にどうぞ。 おススメ度:★★★★☆ 『淫売婦』は、ある男の体験談。事実なのか幻想なのか分からないという、なんだか覚束な …

ノヴァーリスの引用/滝 (奥泉光/創元推理文庫)  ~あらしじと軽いネタバレ

全編濃密なくらさ。 ミステリとサスペンス。 文体はかためですが、すっと読める。 おススメ度:★★★★☆ 『ノヴァーリスの引用』は、いわゆる「アンチミステリ」にも分類される、奥泉光の初期傑作。「死が絶対 …

恐怖箱 怪医(雨宮淳司/竹書房文庫)

医療にまつわる実話系怪談集 変化に富んだ内容で読み応えあり 抑えた文章で読みやすい おススメ度:★★★★☆ 実際に医療現場に携わった著者による実話系怪談集だが、よくあるこの手の怪談集より語り口がアレン …

海外文学(小説)おすすめ50作品+α(成城比丘太郎のコラム-02)

非-専門家がおすすめする海外文学(小説)。 私の好きな本、もう一度読みたい本を中心に。 一応ホラー的な、ファンタジー的なものもあります(暗い本も)。 おススメ度:★★★★☆ ※編者注 一応全ての作品に …

アーカイブ