評価不能

山尾悠子の新作と他作品を読む(ラピスラズリ/飛ぶ孔雀)

投稿日:2018年6月19日 更新日:

ラピスラズリ(山尾悠子/ちくま文庫)
飛ぶ孔雀(山尾悠子/文藝春秋)

  • ふしぎな幻想小説
  • その幻想は現実的なヴィジョンを伴うよう
  • 私の感想を書きます
  • おススメ度:特になし

『飛ぶ孔雀』は山尾悠子8年ぶりの新作。雑誌掲載分(2013年、2014年)に書き下ろしが加わったものなので、厳密にいうと4年ぶりの新作発表。それほど熱心なファンでない私でもこの期間で新作が読めるのはうれしい(とはいえ、前作の『歪み真珠』は最後まで読んでいない)。新作の『飛ぶ孔雀』は読みはじめてすぐに弾きかえされるかのような複雑さ。とはいえ、それは文章的なものではない。ひとつひとつの文ははっきりイメージできるのに、そのつながりと全体が内容的に捉えきれない。でもそれがいい。
というわけで、今回は、以前読んだ『ラピスラズリ』の感想と共に書きたい。いずれの作品も、山尾悠子を読んだことのない人には自信を持ってお薦めする自信がないので、「おススメ」ではなくて、私の完全な独りよがりの感想になっております。もし興味があるという方がいましたら、まずは『増補-夢の遠近法』(ちくま文庫/(Ama))をお薦めします。

【『ラピスラズリ』について】
一作目の『銅版』は、深夜営業の画廊での出来事。登場人物のわたしは、睡眠不足のような店主から、不思議なタイトルの銅版画三枚の説明を受けます。それぞれ「人形狂いの奥方への使い」、「冬寝室」、「使用人の反乱」というもの。店主の説明を聞くわたしもまた眠い。わたしが捉える画の描写は非常に細かく精確なものになっています。その三枚の絵や、わたしの夢想が、このあとの短編群に内容的につながっていくという短篇集の構造になっています。文章は明晰なところがありますが、内容は夢のようであります。

そのあとの『閑日』と『竈の秋』の二篇は、『銅版』に出てきた銅版画からぬけだした物語のようです。『閑日』は「冬眠者」がいるという「塔の棟」から抜け出ようとする少女と「ゴースト」とのかかわりとその顛末を描いています。なんとなく、「冬」感があって好きです。ある少年が言う「大晦日に雪がないと死人が眼を覚ますというからね」というセリフがよい。
『竈の秋』は、その少女がラウダーテという名の者になった話とおもわれます。彼女たち登場人物があれやこれや繰りひろげる狂騒的物語。これは本書の中で一番長く、中篇ともいえそう。「塔の棟」で立ち働く使用人たち、冬眠者たち、ゴーストにとりつかれた医師。色んな人物が、秋の棟開きの日に、森から持ち込まれた病に踊らされながら、氾濫する様々なイメージの描写とともに朽ちていこうとする話。
その他の二編も、内容的に関連付けられたものになっています。

【『飛ぶ孔雀』について】
『飛ぶ孔雀』と『不燃性について』の二編にわかれた内容。どちらにも同じような名前の人物が出てくるし、同じような場所が出てくる。つながりがあるかどうかは読む人次第。ふだん小説の文章を少しくらい読みとばしても何の支障もなく概略はつかめるが、この作品は一つの文章を以前以降とのそれと関連付けて読まなければ何が書いてあるのか分からない。とんでもなく集中力を要する。事実や物事を時に即物的に書くが、夢の中を進むような描写の連続。また、どんどん視点の位置がうつりかわり展開がつかみにくい。まるで、「幾つもの祭りの夜の記憶を塗り重ねたよう」なエピソード群。物語には、ときに、フェティッシュさの文章に満ちるという印象。

『飛ぶ孔雀』は、「シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃えにくくなった」ではじまる。この事故は後々の展開に通じるよう。この山の近くにシビレ山がある。ここには水銀が出て大蛇と雷が名物。シビレ山でのKの少年時のエピソード。このKは『不燃性について』に出てくるKなのかどうか。その他にも、様々なエピソードの連続。どこかなつかしい光景にも思える。
「醜男」のPと女三人との会食。そのあとの燃えにくい花火。そして市内の突然の停電。なぜか大震災後の計画停電を思い出す。火が燃えにくくなる、とはなんのことだろう。この「火」が表わすものは何か。
ここから、「増殖するイメージ」がどんどん読者にもイメージを喚起する文章の連続。「飛ぶ孔雀」が、火を盗むために庭園に侵入する。それは何を意味するのだろう(何もなさそうだが)。そして、次のような一文は、『不燃性について』の展開にも通じるよう。「ちょうど大きな事故があって。毒のある熱い泥の溜め池が決壊して、何ヘクタールにも広がったって」というセリフは、『不燃性について』の出来事を思わせるとともに、現実感をはらむ光景も思わせ、なぜだか終末的な光景も想起させる。

『不燃性について』は、「不燃の秋」に起こった出来事。まずは、Gが山を目指し、Gの「退場と消滅」へと不穏な流れへ。
大公営浴場に向かうK。地下に広がる「地獄と温湯」の底知れなさ。また、そこは「破壊の源泉」がうごめく場所。一方、新婚のQは、ある日連れ去られ、山頂の頭骨ラボへ。この二人を軸に話は進んでいく。山頂には「赤い鶏冠つきの大蛇」がいるとのこと、これはケツァルコアトルなのかどうなのか。

とにかく氾濫するイメージの連鎖。次のセリフを私的メモとして残そう。

「ただ失うのは厭だ、訳もわからないまま、気づいたときに何もかも失っているのは厭だ。喪失の瞬間をこの目で隈なく見届け、一瞬を貪るように味わい尽くし、無限に分割し写真のように網膜に焼き付けたいのだ」

そうそう、一瞬たりとも見逃せない作品である。
まあ、正直に言うと、私はこういう雰囲気は好きです。ただ、それを人に薦められるかというと躊躇いますが。

(成城比丘太郎)



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