★★☆☆☆

感染―J‐HORROR THEATER (角川ホラー文庫/塚橋 一道)

投稿日:2018年5月4日 更新日:

  • 出だしはとても素晴らしい
  • アイデアのコアは平凡
  • 最後は例の投げっぱなし系
  • おススメ度:★★☆☆☆

医療モノはハズレなし。最初の30Pくらいを読んだあたりではそう思った。昔懐かしいアメリカのドラマ「ER緊急救命室(Ama)」を思い出させるような、切羽詰まった病院の群像劇はリアリティもあって楽しく読めた。短い文章の中にもそれぞれのキャラクターのバックボーンも簡潔に語られ好感が持てる。しかし、その感触は途中から脆くも崩れ去っていくのであった。

(あらすじ)その病院は経営状態が悪化し、医師や看護士が次々と辞めていた。残されたものたちもギリギリの精神状態でついには医療事故がおきてしまう。そして、その夜。ある原因不明の救急患者が運び込まれてくる…。運び込まれてきた病人は内臓が解けて緑色の血を流す謎の奇病。これがただの町の総合病院の手に負えるのか?

結論から言うと、この患者がやってきてからの展開は、タイトルにJホラーとある通り、安っぽいB級ホラー路線をまっしぐら。適度なハプニングと、時折挟まれる残酷描写(映像にするとよく映えるだろうと思われる痛い描写)が続き、話の本筋からは逸脱していく。私は、傾いた病院の経営問題と、謎の奇病の解明が複雑に絡み合い、最終的に病院に明るい兆しを残しつつ、一抹の不安も残る……という展開を予想していたのだが、それら二つは全く絡まることなく、病院の経営問題は置き去りにされたまま、まるでモンスターのような奇病が病院に蔓延していく様子が描かれる。

それも控えめに言っても、すごく設定がいい加減で、タイトルが感染となっているのに、なぜ感染するかという理由がはっきりしないという致命的な設定の手抜きがある。いや、設定はされているが納得できるレベルに達していない。かの有名な「リング (鈴木光司/Ama)」では、その点が一応ちゃんと説明されていたので納得できたが、そういうキラッと光る設定と、物語の深みを抜いたのが本小説だと思ってもらって構わない。

では全くくだらないかというと、そうでもなく、そこそこ読めてしまう。全体も短いし、退屈することはない。ただ、もう途中からあからさまに「わし、この感染の原因とか、科学的説明とか、伏線も整合性とかどうでもいいもんね」という作者の声が聞こえてくるような、そんな雑な方向に流れていくのが残念だ。真面目に書いたらもっと面白いはずなのにもったいない。考えてみるとこういうバイオハザード系のネタは無数にあるわけで、ここに「老朽化した病院」という要素を加えたのは評価したいが、それ以上は何もなかったというのが正直な印象だ。この紹介文が短いところからも察してほしい。

同タイトルで以前に紹介した「感染(千川環)」の方が読みやすくて面白い。タイトルが同じだからいいというものではないが、読むならこちらの方がいいかも知れない。初期の頃の紹介なので文章は短いが。とはいえ、これに懲りず医療モノ(ウイルスモノ)はまた読んでみたい。キングの傑作「ザ・スタンド」もウイルスをテーマにした傑作だったし、扱いようによってはまだまだ楽しめるジャンルと思っている。

でも内臓が溶けて血液が「緑色になるかしらん」と、いう素朴な疑問に誰か答えて下さい。

(きうら)

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