- 抗生物質がうまれた簡単な歴史。
- ヒトの身体を細菌との共生から捉える。
- 抗生物質の過剰使用による危険性。
- おススメ度:★★★★☆
結核をはじめとして、人間の病をなおし、生を支えてきた抗生物質ですが、最近は抗菌薬耐性菌などの発現により、抗生物質発見以前の状態に戻った感があるといいます。現在では、何にでも抗生物質が処方されるといいます。風邪でも、ウイルス性のものには抗生物質は効かないというのですが、インフルエンザなどで受診した患者に、医療者側は抗生物質の害はまあないと考え、投与されることがあるといいます。私は大昔に、知人から抗生物質を使い過ぎると、だんだん薬効が無くなると聞きましたが、どうやらそれだけでは済まないものがあるようです。
地球は微生物であふれているといいます。いや、微生物なしでは地球(生物)は成り立たないともいいます。著者は《私》というものの成立根拠に微生物の存在をあげるくらいです(「キメラ」としての《私》、という表現を著者はしています)。今では、微生物集団は、生物学的に独立した相をもつものと考えられるようになっており、どれだけ微生物が大切かよく分かります。微生物つまり細菌と人間との関わりは、私たちが思っている以上に深いということのようです。
私たちと(身体にすまう)常在菌との長い間に培ってきた関係を抗生物質が撹乱したのではないかといいます。その結果もたらされることは、思った以上に大きいものがあるかもしれません。例えば、肥満やアレルギーを誘因するのも、(抗生物質による)体内に共生する細菌叢の撹乱が原因かもしれないとする声もあるようです。免疫系の撹乱によらず、乳幼児への投与による影響や、人間の身長の伸長にも何らかの影響があるというのも驚きです。いずれも仮説のようですが、乳幼児期に抗生物質を与えることの悪影響は真剣に考えなければならないでしょう。細菌のもつ力でいうと、一つ興味深いのが、帝王切開による負の側面でしょう。これは、実際に読んでみてください。
では、抗生物質の使用がいけないのでしょうか。そうではなく、それの乱用がいけないというのです、今までは(今でも)簡単に用いられすぎていました。特に人間を含めたマクロの世界と共生する細菌の力が大事であり、それ(細菌)の不在が病気を引き起こすと考えられるといわれ、さらに、何らかの感染症罹患者を増加させる事態にまで及ぶと、「抗生物質の冬」と呼ばれる危機が身に迫ってきます。もちろん、確たるエビデンスのないこともあるでしょうが、どのような薬にも副作用はないということを念頭に、抗生物質と付き合っていかなければいけないということでしょう。
(成城比丘太郎)