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★★☆☆☆

新耳袋殴り込み 第一夜 (ギンティ小林/角川ホラー文庫)

投稿日:2020年1月27日 更新日:

  • 新耳袋のエピソードの舞台を取材
  • 怪談の検証風怪談
  • イマイチ乗り切れない軽さ
  • おススメ度:★★☆☆☆

著者が聞いたら絶対に怒り狂うと思うが、本の感想を書くサイトだから仕方ない。はっきり書いてしまおう。文章が下手でノリが幼稚だ。有り体に言えば、20代のライターが勢いだけで企画して書いたような、そんな軽薄さが随所に見られる(実際そうだ)。一つだけ味わい深い話があったので★2としたが、取り敢えずお勧めしない。これから書く文章は、オリジナルの怪奇体験を人から聞いて書かれた本の内容を取材しに行ったレポートの感想という、恐ろしく冗長なものである。これで終わっては記事にならないので、続けます。

新耳袋の成立は1990年ごろとあるので、そもそもの話が古い。大阪の千日前デパートの火事など、当時は誰でも知っていただろうが、周りの普通の人に試しに聞いてみると「?」となっていた。私はさすがにこんなサイトの管理者なので知ってはいたが、それだけ昭和感が漂う作風だ。余談だが、実は先日、その跡地の建物に入った。その場所は大阪・ミナミのビッグカメラで、関西人なら大体場所が分かるだろう。今はアジア人観光客で溢れている。ちなみに30年位前から立ち寄っている場所だが、残念なことに未だに亡霊は見ていない。

評価の定まった怪談を再構築する……という気概は買いたいが、大した手がかりも無いのに、取材に赴く様は無謀なだけだ。さらに不法侵入上等の取材手段は、コンプライアンス病の現代では非常に不適切だろう。この時代は意味もなく立ち入り禁止をしていた場所もあったし、それを破るのもお約束だったのだが、今やったら炎上どころではない。ネットで晒し者にされて、逮捕まであるかも知れない。

それはともかく、この本が新耳袋をネタに、突撃取材を敢行しているのは間違いない。舞台は京都の深泥池(みどろがいけ)から始まって、宇宙人が出るという山の牧場、廃ホテルや幽霊マンション、人が消える神社など、詳しくは書かないがそんなところ。登場人物は著者の他、カメラマンや同僚、新耳袋の著者や映画監督等々。むさ苦しい若者と中年のおっさんが定番の心霊スポットで肝試しをして「幽霊がでた!」と騒いでいる。

そうなのである。この本は肝試しに行って、何の衒いもなく「お化けがいるぞ」と煽りまくるのだ。それはそれは無邪気というか何というか「肩が重い」だの「カメラが動かない」だの「どこからか声が聞こえる」だの、これぞ清く正しい怪談取材という感想以外ない。そりゃそうである。何も出なければ本に書く意味なんてない。もしそうなら、それはそれで深い哲学的テーマを感じるが……本書は余りに直球過ぎないか。

まだ言いたいことがある。実は突撃取材で写真やビデオを撮りまくっているのだが、本の中に写真はたった一枚しかない。その一枚も、明らかに「狙ってやったおふざけ」で、これなら一枚も無い方が良かった。ホラー映画の特典映像として収録されているらしいが、このご時世、それを信じる人は少ないだろう。ご存知の通り、Photoshopという悪魔に心霊の類は存在を消されてしまった。「これなんてCG?」で終わる時代、実話怪談とは、人と人の信頼関係の問題なのである。

最近、猫を飼ったが、私が猫に対して一切の知識が無い状態で「宇宙から来た」と言われれば、確かめる術がない。この本も大体こんな感じ。不可知論をぶつ気はないが、幽霊や亡霊がいて人を殺すとして、2020年の1月、世界を震撼させているコロナウィルスに比べて、そんなに恐ろしいものだろうか? 幽霊の大量殺人鬼など聞いたことがない。私はこの浮かれた取材記を読みながら、そんなことを考えていた。不思議や怪奇とは、本来、極めて個人的なものなのではないだろうか。

そういう意味で、亡くなった恋人の霊が語られる「ノブヒロさん」のエピソードだけは、印象に残っている。ある女性が初老の画家と付き合って1カ月後に亡くなり、その後、亡霊に付き纏われるという話だが、語り手の女性がサバサバしてるのと、画家と肉体関係が無かったこともあり、明るく面白い。何だが亡き恋人の幽霊と出会うのを楽しんでいるようで「200年前に悲恋の関係にあった」という決まり文句も許せてしまう。実際に会いにくる幽霊、素晴らしいと思う。私も会いたい。

先程、ウイルスの話をしたが、実は怖がっても仕方ないと思っている。人は死ぬ時は何の理由もなく死ぬ。私は今末期癌かも知れないし、この記事を書いている途中に刺されるかも知れない。職場のビルが火事になったら逃げようがない。人生こそ死をかけた突撃取材だ……などと、不毛なことを書いて今回も終わり。ちなみに私が恐ろしいと思うものは孤独。これだけは感じると怯える。逃げようがない。

(きうら)


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