3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女 (水野良/角川スニーカー文庫)~あらましと感想

投稿日:2017年11月1日 更新日:

  • シンプルな冒険ものファンタジー
  • 熱血主人公戦士、エルフの美少女、頑固なドワーフに思慮深い魔術師……
  • 現代ラノベ系ファンタジーの開祖と言える作品
  • おススメ度:★★★☆☆

幼いころから本を読むのは好きだったが、私に小説創作の意欲を授けてくれたのは恐らくこの一冊だと思う。愛聴するスピッツの「醒めない」という歌の歌詞に

最初ガーンとなったあのメモリーに/今も温められている

というフレーズがあるが、私にとって「ガーンとなったあのメモリー」とは、このロードス島戦記に他ならない。今月から更新ペースを変えることになったので、原点に戻って紹介してみたい。

(あらすじ)ロードス島という架空の島(といっても結構大きい)が舞台。いくつもの国が存在し、古い王国や砂漠の国もある。主人公は血気盛んな若者戦士パーン。彼は不名誉な死を遂げたとされる父親の汚名を晴らすために悪に挑む。ヒロインは勝気なエルフの少女・ディードリット。頑固なドワーフのギムや思慮深い魔術師スレイン、陽気な盗賊ウッド・チャックを加えた一行は、ロードス島全土を襲う戦乱に巻き込まれていく。その陰には、灰色の魔女と呼ばれる謎の女魔術師の存在があった。

どうだろうか? どこかで聞いたような設定、ストーリーではないだろうか。それは当然で、初版が1988年となっているので、その後、無数のフォロワーがこの設定の一部や全部を拝借し、小説や漫画、ゲームなどを作ってきたからである。ただ、このロードス島戦記の設定自体も、指輪物語などに遡る海外ファンタジーの影響をまともに受けている(エルフやドワーフの設定を借りている)ので、完全オリジナルというわけではない(同時期に同じグループに所属し、この小説の設定に関与した安田均がドラゴンランス戦記の翻訳・出版している)。

かつて堀井雄二が海外のコンピューターRPGを日本人向けに分かりやすく翻案してドラゴンクエストを作ったのと同じく、コナン(探偵じゃない方)やD&Dと言った海外ファンタジーを日本人が読みやすいように翻案したのが、この作品だと思っている。翻案とはいえ、優れた設定が多く、その後のファンタジー小説やゲームのみならず、ライト・ノベルの方向性に多大な影響を与えた。

ここまではこの作品の「意義」であるが、実際に再読してみた感想は「すごくゲームっぽい」という感じで、ありていに言えばご都合主義的な展開が目立つ。もとがTTRPG(Wikipedia)という形式なので仕方ないが、お姫様が一人で出奔するなど考えられないし、主人公パーンもピンチになると都合よく助けが現れる。王様や騎士の設定も類型的だ。ただ、これは仕方ない。最近、同じようなたとえをした記憶があるが、白黒テレビを見て「解像度が低くてモノクロなので出来が悪い」などと評論するようなものだ。

とはいえ、シンプルさゆえに今でも若い読者には共感できる点も多いと思う。主人公の熱血ぶりは分かりやすいし、ヒロインのディードリットは要所要所で印象深い言動を行う。パーンに徐々に惹かれていく様子などは、王道ラノベ展開そのもので、萌えなどという言葉ない時代、ほのかな恋情にちょっとドキドキしたりできるようになっている。

物語は一つの村から始まるが、スケールは急激に拡大し、読みごたえはあると思う。冒険ものからタイトルにあるように戦記物へとテンポよく展開する。ラスト付近の錯綜した展開は続編を見据えてのもの。実際、全部で7冊あり、その後もシリーズ展開されている。アニメ化もされていて、絵もきれいでオープニングの歌も美しかった記憶がある。

私自身も剣士を主人公にして、悪を倒すストーリーの駄文を書いた覚えがある。今で言えば完全に中二病という状態だったかもしれない。しかし、この作品には、その情熱が沸き起こってくるような熱いものがあった。最近、カズオ・イシグロ氏の「忘れられた巨人」も読んだが、基本的にこの手のファンタジーは今でも大好きだ。

最後に「怖い話」としては、人は結構死ぬが余り残酷な描写もないし、グロテスクなイメージもほとんどない。そういう意味でもライトなファンタジーで、これからファンタジー読もうとする若い読者には最適……とはいえ、今はこのロードス島戦記を改良した作品が世に溢れているので、あくまでも和製ライトファンタジーの原点に興味がある方に向いていると言える。

再読して感動も失望もなかったが、古いアルバムをめくるようで、何だか温かい気持ちになった……。

(きうら)


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました。(日向奈くらら/角川ホラー文庫)~あらすじと後半ネタバレ気味紹介

タイトル通りの大量殺人(?)の謎を追う 猟奇趣味全開の完全なる現代ホラー 一読は面白いが、すごく惜しい。 おススメ度:★★★☆☆ あんまりと言えばあんまりなタイトルだが、中身もそのまんまである。物語的 …

コンパス・ローズ(アーシュラ・K・ル=グウィン、越智道雄[訳]/ちくま文庫)~読書メモ(31)

読書メモ(031) 人生の指針となりうるかもしれない20の短篇 SFとファンタジーと文学の融合 おススメ度:★★★☆☆ 昨年亡くなったアーシュラ・K・ル=グウィン(Le-Guin、1929-2018) …

呪いの恐怖―完全呪符つき (1979年) (目でみる四次元シリーズ)(中岡俊哉/※絶版本)

少年向けのオカルト話と呪いのリアルな方法の解説 オカルト話のエピソードの内容は結構エグイ 絶版本のため、新品では入手不可(今後もたぶん…) おススメ度:★★★☆☆ 絶版本を紹介してどうする …

山岡鉄舟と月岡芳年について《1》~あるふたりの会話から

   山岡鉄舟-決定版(小島英記/日本経済新聞出版社) 月岡芳年伝(菅原真弓/中央公論美術出版) とあるふたりの暇にまかせた会話 幕末明治を生き抜いたふたりの人物から 江戸で生まれたふたりに、ニアミス …

今週読んだ作品(12月第3週)と、軽いアニメ感想 ~宝石と詩の世界

鉱物 人と文化をめぐる物語(堀秀道/ちくま学芸文庫) 日本の詩歌(大岡信/岩波文庫) アニメ『宝石の国』(原作:市川春子)についての感想。 鉱物と人や文化との関わり(一冊目)。 日本の古代から中世の詩 …

アーカイブ