★★★☆☆

日本人の恋びと(イサベル・アジェンデ、木村裕美〔訳〕/河出書房新社)

投稿日:2018年7月5日 更新日:

  • 恋愛と老いと友情をテーマに
  • かなり重い過去を背負った人々
  • 現在(2010年代)と過去(20世紀のこと)を交互に描く
  • おススメ度:★★★☆☆

本作は、イサベル・アジェンデが72歳の時に書いたもの。現代版『<a target=”_blank” href=”https://www.amazon.co.jp/gp/product/410209704X/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=410209704X&linkCode=as2&tag=scary22-22&linkId=38dd0e63b4d1f0170135b546eccf871b”>嵐が丘 (Ama)</a><img src=”//ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=scary22-22&l=am2&o=9&a=410209704X” width=”1″ height=”1″ border=”0″ alt=”” style=”border:none !important; margin:0px !important;” />』とでもいうべき作品とのこと。『嵐が丘』はだいぶ前に読んだので、その内容はほとんど忘れてしまった。正直にいうと読了後の衝撃(?)は本家『嵐が丘』のほうが強かったような気がする(読んだのは若い時だし)。まあ、でも本書もそれなりに衝撃的な事実が散りばめられていて読者を飽きさせないような工夫もなされている。個人的には、ワールドカップ観戦の合間に読む分には非常に手頃な小説だった。

物語はイリーナが、「ラークハウス」という老人ホーム的な施設(保養施設)に勤めだしたところから始まる。そこでイリーナはアルマという入居者の世話(手伝い)をすることになる。このアルマが登場してから、物語には、アルマが少女の頃にポーランドからアメリカへと渡ってきて、そこでイチメイ・フクダという日系人の少年と運命的な出会いを果たすことになるという過去の光景がはさみ込まれる。このイチメイこそアルマにとって「生涯の愛」の相手となるものだった。

普通に読んでいくと、アルマという老域に入った女性の、現在までに続く恋愛ストーリーかと思われるかもしれないが、話はそう単純ではない。このアルマ自身はポーランド生まれのユダヤ系アメリカ人である。彼女は少女の頃に家族を置いてアメリカの親戚のもとへと移る。彼女が去ったポーランドにはヒトラーの手が伸びようとしていて、彼女の思春期という光景の中に、ヨーロッパの不穏な情勢がさしはさまれる。アルマと祖国(家族)とが切り離されるのだ。これがアルマの人生での関係断絶の第一弾といったところか。その次に彼女から切り離されるものは、イチメイとの関係である。日本との戦争において、イチメイを含む日系人はアメリカの収容所送りとなる。その後、イチメイと再会するアルマだったが、彼との関係が深まるにつれ彼女は別れを決断せざるを得なくなる。この時別れた理由(社会階級の差といった外面を意識したもの)を教訓に(?)、アルマは後に自らの孫であるセツとイリーナ(という移民という身分の女性)の仲を後押ししようとする。

この物語は何人ものアメリカへの移民者をもとにした話でもある。イリーナもモルドバ出身で、彼女も非常に大きなトラウマを抱えていることが判明する。読み始めたときにはなぜか彼女が控えめであまり目立とうとしない性格のように思えたのかは、すべてはこの過去に起きたことのせいだと分かった。
また、アルマの夫となるナタニエルにもある秘密があり、そのことが原因でアルマはナタニエルとの早い別れを経験することになる。だが、その裏ではイチメイとの再びのつながりがアルマに訪れるわけだが。
そして、とうとうアルマ自身にもこの世からの別れが迫るわけだが、後半のその様子はなかなか感動できるものになっている。

全体としては、恋愛(やその他の要素)を軸にした読みやすい小説といった印象。しかし、個人的には詰め込みすぎの感もある。後半に入って、次から次に様々な真相を描きだすのには、少し気詰まりを感じた。というかどこかわざとらしさすら感じるし、よく出来すぎた小説のようにも感じた(私がひねくれ者のため)。
それからイチメイという名について。この名は、彼の父であるタカオがきょうだいの中でひとりだけ日本人らしいものをつけたとあるが、しかしこのような名は漫画やアニメくらいでしか目にしなさそうな名だ。名付けの理由からすると漢字では「一命」と書くのだろう。うーん、どうなんだろう。このような名は見たことがないな。それにしても、このイチメイという人物は、「一命を賭して」何かを成し遂げようとするかのような求道者めいた雰囲気があるように描かれてるのは、なんだかなぁといった感じ。
その他にも、日本(人)の風習・習慣と思われるものについて首を傾げることもあったが、しかしまあそれらは個人的には面白く読めたのでいいか。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

K・Nの悲劇(高野和明/講談社) ~あらすじと感想、ネタバレもあり

妊娠・中絶をテーマに壮絶な夫婦の戦いを描く 最初を抜ければ、一気に読み通せる通読性 ただ、傑作に至るには今一歩何かが必要だ おススメ度:★★★☆☆ 随分長くかかってしまったが、この度の本屋の「店員さん …

ザ・スタンド(3)(スティーヴン・キング/文春文庫) ※レビューとおススメ度、軽いネタバレあり

疫病による「崩壊後」の世界に現れる善と悪の組織が描かれる 初登場の人物が多い、宗教観が強く分かりにくい等の理由で前半はややダレる 中盤からは再びスリリングに。キング節全開のエピソード満載 おススメ度: …

魔法使いの弟子 (ジョルジュ・バタイユ[著]・酒井健[訳]/景文館書店) ~紹介と考察

バタイユの「恋愛論」についての感想。 失われた実存の総合性を回復させるものとは。 デュカスの同名交響詩に少し触れられている。ちなみにダンセイニの小説とは関係ない。 おススメ度:★★★☆☆ (編者注)本 …

第三の女(夏樹静子/集英社文庫)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

交換殺人がテーマのミステリ ホラー要素と呼べるものは無し 実態はラブストーリー おススメ度:★★★☆☆ アガサ・クリスティーにもひらがなで読むと同名の本があり、内容を見る限り、「自分が誰を殺したのか分 …

慟哭(貫井徳郎/創元推理文庫) ~あらましと感想とちょっとした後悔

連続幼女殺人事件をめぐるミステリ 新興宗教がテーマ いわゆる「あれ」が登場する おススメ度:★★★☆☆ (あらまし)捜査一課課長の佐伯は、連続幼女誘事件の捜査が行き詰まり懊悩する。警察内部にも、組織特 …

アーカイブ