★★★☆☆

日本代表を、生きる。(増島みどり/文藝春秋)

投稿日:2018年9月11日 更新日:

  • 1998年フランスワールドカップに関わった人たちのインタビュー
  • 現在日本のサッカー(選手)への提言
  • Jリーグなどについても
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

先日襲来した台風21号は、25年ぶりの超大型台風として近畿各地(とくに大阪)に大きな爪痕を残しました。いや、ほんまにものすごい暴風でした。20年前の奈良室生寺に被害を与えた台風もものすごかったが、それ以来だろうか。そして、その後に、北海道でも大地震が起こりました。ほんまに今年も色々と災害に見舞われた日本列島ですが、被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、25年前というと、1993年ということです。その年は、夏の日の恋のことで女性に夢中になったことをなんたらかんたら唄っていた人たちがいたことを思い出しますが、やはり一番の出来事はドーハの悲劇でしょう。私は、その光景をどこかで観ていたはずなのですが、あまりにもショックで逆にその時にどうしていたのかを思い出せません。この前のロシアW杯で日本が敗退した時に落胆した方もいられるでしょうが、ドーハの時のそれはこの前のものと比べ物にならないものでした。

そもそも私にとってW杯とは遠くて遠いものでした。1986年W杯決勝の翌日には、学校でみんなとマラドーナのまねばかりしていましたが、その時には、日本がW杯に出場するという未来像が頭の隅にすら浮かぶこともありませんでした。日本がW杯本戦に出るとは、今でいうなら、日本で研究している日本人がノーベル経済学賞をとるだとかオリンピックのバスケで男子日本チームがメダルをとるだとかケンタッキーダービーやイギリスダービーを日本産馬かつ日本調教馬が優勝するだとか、そういうありえないというかその可能性すら頭に浮かばないものだったのです(いや、私が思い浮かべないだけですが)。

その1986年から7年後にドーハで出場権を逃し、そしてそれから4年後にようやくジョホールバルの歓喜を迎えたのですが、その光景をどこで観ていたのか覚えていません。たぶんビール片手に観ていたと思うのですが、その時にどれくらい喜んだのか覚えていません。むしろ、その後のメンバー発表の際に、カズが外された時の衝撃の方をよく覚えています。カズがなぜ外されたのか知らないし、今でもあまり考えないもののそれでもなぜだったのだろうとふと頭に浮かぶことがあります。まあ、その後の2002年にもトルシエから戦術的な理由で中村俊輔が外されたし、岡田監督のサッカーを考えるに戦術的なコマとしては使えないと判断したのでしょう。

【サッカー日本代表やJリーグについて】

カズがもしあの時、フランスW杯に出ていたら、何かが違っていたのだろうか。まあ、岡田監督(とその家族)が脅迫されることはなかったことだけは確かでしょう。本書を読むと、カズ(と北澤)がいなくなったことで、残された選手の一部が少し動揺したことがうかがえます。しかしそこはプロ。やるべきことはやったのです。だから、結果が変わることはなかったのでしょう。しかし、カズの不在でエースとなってしまった城は、かなりの精神的ストレスを抱えたようで、プレーに精彩を欠いたあの時にはそのような事情があったことがわかります。城のその様子(シュートを外しても悔しがることなく口をくちゃくちゃさせていた)がサポーターを怒らせて、水ぶっかけ事件を起こさせたのでしょう。まあ、水なり何なりをかけるのはダメなんでしょうが、現在ではそれほどの情熱を持ってW杯を迎える人はいなさそうですね。それに、サッカー選手がある意味スターになってしまってからは、もう怒りを直接ぶつけることもないでしょう(誰が本田や香川に直接文句を言うでしょうか)。むしろJリーグの方が熱いでしょう。

本書の内容は、著者が、20年前のW杯出場に関わった人たち(選手・コーチ・スタッフ)にインタビューを敢行し、その人たちの現在を追いかけたものです。まず驚きなのが、その人たちの何人かは未だに現役選手として活躍していることです(カズも現役!)。さらに、選手として出場した人はほぼ全員がサッカー関係の仕事をしているのです。彼らから聞く話として分かるのは、いかに当時のプレー環境が厳しかったかということです。中にはドーハ経験者もいました。その人たちの話として、昔は中東などの遠征で相当苦労したとか色んな厳しいことを聞いたことがあります。今では考えられないほどの厳しい状況で勝ち取ったW杯出場権。それが、今のサッカー界の大きな財産になっていると思われます(まあ、サッカーに興味のない人にはまったくどうでもいい話でしょうが)。

何事も初めてづくしだったW杯出場。選手やコーチ陣はもとより、チームに帯同し体調面でケアしたトレーナーや食事を用意した調理スタッフなども全てが初めての経験だったのです。ほとんどが手探りで、W杯に臨まなければならなかたのです。ただフランスに行ってただ試合に出るだけではない、というのは素人でも分かりますが、選手たちがどれほど日本代表というプレッシャーと戦ったのかは想像することもできません。そういった経験が今の日本サッカー界にどれほどいかされているのだろうか。日本代表として戦うということがいかに大変なことか、という点で見ると、今の代表選手より98年の代表選手たちの方が戦っていたなぁ、と振り返るとそう思います。今の選手が戦っていないというわけではなく、日本代表のユニフォームの重さがその選手本人にとって相対的に軽くなったような気がするという個人的な偏見なのですが。

20年前に初めてW杯で戦った選手たちは満身創痍だったのです。例えばゴン中山は骨折しながらゴールしましたし、中田英寿もタックルを受けた足が腫れたままプレーしていました。それと、98年の選手たちが口をそろえて言うのが、外国人選手のフィジカルの強さだそうで、簡単に片腕で動きを封じられただとかこっちが全力で当たってもビクともしなかったとかと驚いたそう。そうして、はじめて世界の厳しさを体感した選手たちは、本書のインタビューにおいて、現在の日本人選手たちに色々と提言しています。その多くが、今の選手に足りないものや必要なものを指摘しています。現在の選手は技術的にはうまくなったものの、泥臭さやタフさも必要であり、自身と気持ちの強さが大事であり、個のもつエネルギッシュな強さや飛び抜けた個性をも持つべきなのです。

さてどうなのでしょう。Jリーグをつぶさに見ているわけではないので分りませんが、中田英寿や本田圭祐に続くような個の力を有した攻撃的な選手はいるでしょうか。森島寛晃のように裏への飛び出しがうまい選手がいるだろうか(まあいるだろう)。中村俊輔ほどにプレースキッカーとしては超天才的な選手はいるだろうか。稲本のように中盤の選手としてスケールのでかさが感じられる人はいるだろうか。岡崎のように泥臭く点が取れる選手がでてくるだろうか。いや、リーグレベルではいるだろうが、代表戦でポテンシャルをフルに発揮できるだろうか。今そんな可能性を秘めた選手がいるなら教えてほしい(よく分からないので)。

現在までに海外でプレーした経験を持つ選手の多くが言うには、いかに海外でプレーすることが重要かということのようです。海外のトップリーグは非常にレベルが高い上に少しのミスも許されないくらいの厳しい世界だということのようです。その厳しさは国内にいては味わえないものです。国内では少しくらいシュートを外していてもチャンスはいくらでもありますが、海外のリーグではその少しのチャンスをものにできなければ、その次はないくらいシビアなのです(とくにその国にとって外国人である日本人選手には)。中田英寿が初戦でゴールしたのが彼のキャリアにとって大きいものになっただろうし、逆に柳沢が初戦でゴールを決めていればもっと違う結果になっていたかもしれません。Jリーグのレベルアップも重要ですが、選手個人としてはそこが温い環境になっているかもしれないのです。

今のJリーグにはアジア人の選手も増えてきていい働きをしてるし(タイ人選手とか)、それによってアジアのレベルが底上げされたら日本にもいい影響があるだろう。その点で気になるのが、現在のJリーグ(J1)では外国人のGKが多いということだろう。この点は、チームや監督などがチームにとって一番いい選択をとった結果なのだろうが、それにしても日本人選手の正GKが減ってきているのはどうなんだろ。日本人GKがヨーロッパなどに移籍したということでもないだろうに。GKが11人目のフィールドプレーヤーとして重要なのに、リーグのトップカテゴリーに少ないということはこれからどういった影響が出るのだろうか。思えば、ロシアW杯も日本の正GKがしっかりしてれば、もう少し上のステージに行けたかもしれない。コロンビア戦なんか点取られる試合でもなかったし、選手が泥臭く必死に戦っていたセネガル戦でもあのGKだけが水を差してしまって勝利を逃したし、ベルギー戦でもポジショニングのミスがあったし、ほんまにあんなレベルの選手がW杯のゴールを守るなんて信じられない。野球で言ったら、パスボールばかりしてるキャッチャーやでほんま。W杯後に表立って批判されることはなかったが、もう二度と代表に呼ばれなくなるくらいの基本もできてない選手やねんけどな。それもこれも、GKの層が薄いせいやろう。多くの国がGKに苦労することはあっても、あれほどキャリアがあってあれほど安定感のない選手は見たことがない。しかも海外でプレーしてるのに。これからのサッカーは点を取られないことも大事だから、この辺りの育成もしっかりしてほしいし、なによりファンがもっと批判してほしい。ボールの基本的な処理ができないキャッチャーを許す阪神ファンはおらんで、ほんま。

てなことを書いたが、なにも個人的な恨みなどで書いているわけではない。サッカーファンが日々応援しているチームを案じているのと同じなのです。私としては、今シーズンのガンバに関してはもう一度下に落ちてやり直して来いと言いたい。今年のガンバは、シーズン前の走り込みが足りなかったから後半に足が止まるとある記事で言っていたが、そんなのは言い訳にもならないしそれだけが原因でもないだろう(ほんまにそうなんかもあやしい)。一方、奇跡的なV字回復を遂げつつあるグランパスはほぼ選手を入れ替えてどうなるかかと思った。個人的にはグランパスのことだからいつ監督を解任するだろうかと思ったがほんま何があったんやろ。ガイナーレに関しては、チームの消滅だけは避けてほしい。それにしても、Jリーグが再開して、話題はイニエスタに集まっています。もし2010年の時に遡って、Jリーグにイニエスタが来て、天皇杯の試合で鳥栖に移籍したフェルナンド・トーレスと対戦するで、とその時の私に言ったとたら、おそらくその時の私はそんな夢みたいなアホなこと言うなやと一蹴することでしょう。まあ、なんにせよ、イニエスタ効果は思った以上のものがあるようですが、肝心の神戸に関していうと、まだ彼に付いていける選手が少ないのでイニエスタが十全に機能しているように思えない。最後に、首位を走っている広島に関してですが、優勝した次のシーズンでは、いつもACLですぐに敗退しリーグも下位に沈むのを繰り返してる気がするが、来年くらいはACLで勝ちあがってくれよほんま。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

シェアメイト(角川ホラー文庫/新津 きよみ ) ~【新刊】2018/3/24発刊

恐怖というより不安の物語 女性の一人称で語られる家にまつわる短編6つ はっきりと幸不幸が決まらない不思議な読み心地 おススメ度:★★★☆☆(3.5という感じ) 角川ホラー文庫というのは非常に貴重な存在 …

鬼の跫音(道尾秀介/角川文庫)

現代的な会談の短編集 人間の歪んだ悪意・鬼がテーマ それなりのオチ おススメ度:★★★☆☆ 人間の持つ「悪意」とそれが生まれる原因をテーマとした、現代的な怪談ともいえる短編集。題名にある「鬼」とは人の …

尾生の信(芥川龍之介/青空文庫) ~感想とネタバレ、着想を得た「創作小説」

中国故事からとった、美しくかなしい掌編。 何かを待つということは、つらい。 青空文庫の中でも、とても簡単に読める作品。 おススメ度:★★★☆☆ タイトルの「尾生の信」とは、「ばか正直に約束を守るだけで …

ダークゾーン(貴志祐介/祥伝社文庫) ~感想と軽いネタばれ

人間将棋というトリッキーなテーマ 非常にタクティカルな展開、オチはまあ 貴志作品最強の飛び道具。将棋ペンクラブ大賞で特別賞受賞。 おススメ度:★★★☆☆ 刊行された貴志作品はほぼ読んでいるが、その中で …

玩具修理者(小林泰三/角川文庫)~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

「何でも」修理する謎の男が「あるもの」を治す恐怖を描く スプラッター的要素もあるが精神的に揺さぶられる 表題作は短編、他に中編「酔歩する男」も収録 おススメ度:★★★☆☆ 第2回日本ホラー小説大賞の短 …

アーカイブ