★★★☆☆

日本原発小説集(アンソロジー/水声社)

投稿日:2018年3月19日 更新日:

  • 東日本大震災前(20~30年前あたり)に出版された原発小説集
  • 反原発(原子力)をメインに
  • 野坂昭如のものはおもしろい
  • おススメ度:★★★☆☆

先日友人から、野坂昭如の『乱離骨灰鬼胎草』という小説が面白いかも(怖いかも?)と教えられ、その短編が収録された本書を図書館で借りてきました。こちらには、反原発を直接的に扱ったようなものから、原発廃止後の日本の状況を戯画的に書いたものから、原発を話のスパイス程度に用いたものなど、何かしらの形で原発(にまつわるおそろしさ)を登場させた作品群が載っていて、原発の本当の恐ろしさが顕在化してしまった現在となっては、多少生ぬるいかもしれませんが、原子力発電が無批判に是とされた時代にあっては、非常に有意義なものであったのでしょうが。残念ながら、反原発・脱原発が無反省に是とされるようになった今になってこういった小説集がアクチュアルに感じられるというのも皮肉なものです。2011年以降出版(執筆)された原発小説に関しては、私は、高橋源一郎『恋する原発 (Ama)』しか読んだことがないですが、本書収録の野坂昭如のものは、これに近いような感じもしました(あまり覚えてないけど)。また、本書収録の豊田有恒『隣りの風車』は、これからを考える上で、とても示唆的なのではないかと思います。

【多少のネタバレを含む各あらすじ】
さてでは、その野坂昭如『乱離骨灰鬼胎草』から。話は、「卵塔村」という古来より続く小村の歴史が綴られていきます。その村がどのような来歴を持つということのうち、まずは発掘された花崗岩(花崗岩には放射性物質がそれなりに含まれている)の石切り場となって発展してきた模様が描かれます。一種の由来譚のようなかんじで話は進みますが、ある時の地震により災害に見舞われ(それは人災ともいえるものです)、村人のほとんどが死亡するという「一村瓦解」の危機に見舞われます(ここまで読むと、歴史小説かなにかで、到底原発小説だとは思えません)。そして、女と子どもと老人しか生き残れなかったうえに、ある事情により他の共同体の援けも得られず(ほんとうにあったことか?)、生活費を稼ぐため、若い娘の幾人かは春を売りに、子どもたちは墓あらしをして死者の肝をとり、また近村の妊婦を襲って胎児を取り出す仕業を繰り返すも、仕舞いに御用、磔に、老人は村の血を絶やしてはなるものかと、残った娘たちを襲い無理矢理孕ませるも、生まれてくるのは畸型児ばかり、やがてその畸型児たちを金になるとして、売り払い、やがて、その売買市ができて畸型的な発展をとげるも、やがて売買市はご禁制になり、村はいつのまにか普通の漁村へとなっていく、そんな村のあらましが語られたのち、昭和37年、原発建設計画が住民と電力産業との結託でもちあがり、原発建設で周辺状況も好転、補償で潤う住民たちは、発電所で働くも、欠陥原子炉の放射性物質漏れで人々は被曝し、その事故を追ったルポライターは不審死し、外部の声を締め出すため村は外部と通じるトンネルを爆破し、原発作業員として中年女性から、児童まで駆り出されて働くことになり、挙句は園児たちまでが濃厚汚染地帯で「おネジ」まわしに雑巾がけと、お遊戯まがいの作業を最後の崩壊への序曲まで続けるのであった、そんな日本の縮図を見るような一寒村の因果な物語。
物語の雰囲気としては、マジックリアリズムの長編を、ぎゅーっと絞って小さく丸めたようなかんじの短編。出来れば何も知らずに読みたかったが、まあ面白かった。

清水義範『放射能がいっぱい』……放射能とは何か、その発見の歴史から危険性(と有用性)までを簡単に説明しながら、清水の自作に登場する胎内被曝した女性と、「核廃棄物処理工場」建設反対デモとの対比をさりげなく(?)書いて、短編としての奥行きをもたせているよう。

豊田有恒『隣りの風車』……現代の日本を、ifの物語として描いたものです。1984年に起こった「大オイル・パニック」により、「巨大技術=悪」という短絡的な図式が国民に蔓延し、石油は高騰して火力発電はNOなのはもちろん、あらゆるハード・エネルギーまでも全否定することになり、人々はソフト・エネルギー(自然エネルギー)に転換するも、なぜか風力発電一本に絞られたという、そういう世界でのお話。廃墟となった原発建屋を見下ろせる台地に住まう人々は風車を家ごとに設置し、近隣住民と「受風権」をめぐって壮絶な闘争が起こる始末(なぜ各世帯で発電量の少ない風力発電を一基のみ設置しなければならないのか)。これは普通に読むと、原発を廃止して自然エネルギーだけに頼った結果陥る、生活レベルが絶望的におちた悲劇的な世界を描いたという、原発推進(反・脱原発)の立場を表明しただけの作品のように思えるかもしれませんが、現在ではそんな素直な読み方はできないなぁというのが率直な感想です。脱原発が錦の御旗として持ち出される現況では、かえって、今までどれだけ原発の生みだしたエネルギーに頼っていたか、そのことが隠されてしまっているかもしれない、という、その現実をこの近未来小説は「ネガ」的に浮き彫りにしているように思われます。また言わずもがなのことですが、この短編は、読み手の世界線では現実に起らなかった、原発廃止により出来したおそろしい空白を描きだしながら、当の現実の方はそれよりおそろしい状況に曝されている、またそれを目の前につきつけられていることに気付かせてもくれます。

平石貴樹『虹のカマクーラ』……シカゴから短期の原発作業員として働きに来ているボブ、タイから来た娘ソムシー、この二人が日本のマクドナルドで知り合い、ともに鎌倉を目指しながら日本への反感を話し合うという内容。原発という安全ではない場所で使い捨てられる黒人、放射能に無知で日本人から性的に搾取されている(彼女からしたら奇妙な搾取の仕方)という設定のタイの女性、バブル期に向かう日本の好景況という何とも分かりやすい構図。最後のボブの暴発場面は、「解説(川村湊)」でいうように「ニホン人」への復讐というものが必然的にあれば「必然的」なんだろうが、あまり外的な必然性が感じられない。少なくとも私は何の感慨も覚えなかったし、展開的に読めて面白くなかった。それよりも、この二人に視線を向ける「ニホン人」の差別意識を告発したかのような本作が、黒人に無軌道な暴力性を体現させているとしたなら、これは安直な設定であり、皮肉にも、かえって差別的な構図になっていますが、これは私の自分勝手な解釈かもれない。

井上光晴『西海原子力発電所』……炭鉱が閉山され、原発が誘致された九州(佐賀あたり)を舞台に、いろんな立場の人たちが繰り広げるお話。物語は、主に小出芳郎という、立場的には中立に近い人物から見られる。炭鉱閉山後、無人の長屋に住み着いた「水木品子」という女性が、「海教真愛会」に所属する名郷秀次という男性と焼死した事件をめぐって、話は推理小説の態も帯びます。原発に関するデマを言いふらしていたという品子は、なぜ秀次という男性と焼死したのか。その品子の恋人で「有明座(=反原発をメインにした、被爆者で構成された劇団)」に所属する浦上耕太郎は、なぜその夜に品子といなかったのか。これらをめぐって、様々な人々が登場して錯綜的な推理を、自らの立場に拠って繰りひろげますが、とくに推理小説が主眼ではないので、謎解き自体はあっさりしてますし、劇団有明座のほうも、団員たちの告白からその理念が瓦解したようになって、それは、原子力(発電)に対する否定の無力さを表しているようです。ここに描かれているのは、総じて、原発(原子力そのもの)が人をどのように引きつけ互いに反発させるのか、また人をどのような立場に追いやるかを、謎として差し出したということでしょう。この国の原発産業をめぐる謎めいた暗部がひそむ、見通せない沼から、湧きあがった泡がひとつはじけたといったかんじの事件です。現実ではまだまだ(?)未明の感もある(原発)事故後の見通しですが、この作品はそういった錯雑としたかんじが以前から変わっていないことを示しているようです。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
-,

執筆者:

関連記事

二十世紀鉄仮面(小栗虫太郎/河出文庫) ~紹介と感想、軽いネタばれ

探偵・法水麟太郎が、ある意味大活躍。 ある一族の行末をめぐる事件の数々。 猛スピードで展開される物語。 おススメ度:★★★☆☆ 小栗虫太郎というと、読んだことはなくとも、あまりにも有名な作品である『黒 …

今週読んだ作品(12月第3週)と、軽いアニメ感想 ~宝石と詩の世界

鉱物 人と文化をめぐる物語(堀秀道/ちくま学芸文庫) 日本の詩歌(大岡信/岩波文庫) アニメ『宝石の国』(原作:市川春子)についての感想。 鉱物と人や文化との関わり(一冊目)。 日本の古代から中世の詩 …

君主論(マキャヴェッリ〔著〕森川辰文〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

マキャヴェリズムの語源となった書物です。 当時のイタリア(ルネサンス)に、新しい君主像という処方箋を。 はっきり言うと、本書の訳文には読みにくい部分があります。 おススメ度:★★★☆☆ 「マキャヴェリ …

南海トラフ地震(山岡耕春/岩波新書)

真面目な南海トラフ地震の考察 その脅威を正しく知ることができる 過度に煽らない学術的姿勢 おススメ度:★★★☆☆ マグニチュード1以上の地震は年間6000回以上も起きているという日本列島。これは一日約 …

尾生の信(芥川龍之介/青空文庫) ~感想とネタバレ、着想を得た「創作小説」

中国故事からとった、美しくかなしい掌編。 何かを待つということは、つらい。 青空文庫の中でも、とても簡単に読める作品。 おススメ度:★★★☆☆ タイトルの「尾生の信」とは、「ばか正直に約束を守るだけで …

アーカイブ