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★★★★☆

死の舞踏(スティーヴン・キング[著]、安野玲[訳]/ちくま文庫)

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  • スティーヴン・キングのホラー評論。
  • 原著は1981年刊行なので、本書で取り上げる作品は古いものです。
  • つまみ読みの紹介です。
  • おススメ度:★★★★☆

ホラーものを読む(観る)というのは、当サイトの「このサイトについて」でも書かれていますが、基本的には安全な立場から対象としての恐怖を楽しむという、あくまで外的なものなのでしょう。もちろんそれがホラーとしての一番の楽しみ方なのでしょうが、外的であったはずの恐怖が実は自分の恐怖により生成されたものと知る時の、《ゾッとする感じ》もまたホラーの別の楽しみ方ではないでしょうか。それは――病的なものになるとしかるべき対処法がいるのですが――あくまで自分が健全とされている上でのことです。例えば、自分の内にある《死》への恐怖がある対象へ投影されて、別の恐怖が生まれることもあるでしょう(私にとっては高所恐怖症など)。もちろん《死》への恐怖が健全なものなのかどうか分かりませんが。

その恐怖とは何なのかを、映画や小説などから読み解こうとしたのがこの『死の舞踏』です。基本内容は、キングが様々なホラー作品を解読したものです。本書は700ページを超える大部の評論であり、実は、私はすべてに目を通したわけではありません。200ページほどを部分的に読み、あとはちょろちょろつまみ読み(?)しただけです。ですので、今回の紹介は本当に文字通りの意味で紹介するだけです。いつかは、そのつまみ読みを繰り返して読み通すかとは思いますが。少し読んだだけでも面白いので、今回こういう中途半端な紹介をすることにします。その点ご了承ください。

本書は何度か(日本で)出版されていて、今回の復刊では新たに「恐怖とは――2010年版へのまえがき」が付けられています。そこには比較的最近のホラー映画の寸評なども載せられていますが、面白いのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』評ですかね。ここで語られている『ブレア~』の感想は、今でいうユーチューバーの「心霊スポット探索もの」を見るときと同じものがあるのでしょうか、ないのでしょうか。私はユーチューバーのものを怖いと思ったことはないですが。『ブレア~』はもう見る気はないですし、まあこの寸評だけでいいか。

キングが書いているホラー映画評論は、ホラー映画をほとんど見ない私にとっては分からないことばかりですが、いくつかホラー(映画)に関する金言的フレーズがあります。

「ホラー映画の究極の真実――それは、ホラー映画は死を愛していないということだ。そう見えるものもある。だが、愛しているのはじつは生だ。ホラー映画は醜さを讃えているわけではない。醜さについて繰り返し語ることで健康と生命力を賛美する。」

「つまるところホラー映画とは、死がまだ心に住み着いていないがゆえに死を観察できると信じる者たちへの祝福なのだ。」

こう書かれるとなるほどそうなのかも、と思ってしまいます。(他にもあるのですが、あとは実際に読んでみて下さい。古い映画ばかりですが)。

私がこのサイトで取り上げた小説についても書かれています。『ジキル(ジーキル)とハイド』を「スタイリッシュ」としたうえで、「スティーヴンソンの簡潔で教訓的な物語はアイスピックのすばやい致命的なひと突きだ。」という印象を語っています。「ホラーを生み出すという作業は、武道で敵の不意を突く技と同じ」とあるように、『ジキルとハイド』には、人間のうちに巣くう恐れのもとになる「道徳感」を突き出すものがあるのでしょう。また、私は『ジキルとハイド』にはフロイトとの関連性が何かあるのかなぁと思ったのですが、これについてキングは「スティーヴンソンの中編小説の最初の二章には、フロイトのいう意識と無意識――もっと厳密にいえば、超自我とイド――の驚くほど的確な隠喩が見られる。」と書いています。

私が一番読みたかったのが(当サイトでも取り上げた)『丘の屋敷(たたり)』についての論評です。それと、これもまた当サイトでも取り上げた『ねじの回転』とあわせて、本書で絶賛していたのを別の本で見かけたので読みたかったのです。実際には、「この100年間に世に出た怪奇小説で傑作の名に値するのは、この『丘の屋敷』とヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』の二作だけという気がする。」と長編に関してはこの二作が傑作とよんでいるのですが、気になるのは最後の「気がする」という躊躇的一文です。「気がする」ということは、言い切ることができないのでしょうか(まあ、あまり意味はないのかもしれません)。

私が一番「へぇ~」と思ったのが、ジャック・フィニイ『盗まれた街』のことを「現在“モダン・ホラー小説”と呼ばれるものの鋳型になったのはまちがいない。」としたうえで、「“モダン・ホラー”というものがあるとすれば、疑いなくフィニイがその創案に大きくあずかっている。」としていることです。なるほどそういえばそうなのかな、と思います。いずれ再読してみようかと思いました。

最後にまたホラー(作家)についての引用を。

「ホラー作家であれば、社会的(もしくは道徳的、あるいは心理的)に受容可能な領域がどこで終わり、<タブー>という広大な空白の領域がどこから始まるのかということを、はっきりと――もしかしたら病的なほど誇張された形で――認識しているものだ。」

「ホラーの目的はタブーの原野を切り開くと同時に、状況が変化したらどれほど突拍子もないことが起きるか見せつけることで、現状に対する満足感を確認させるところにある。」

ここには、私たちがホラーを楽しむひとつに何があるかを示しています。

キングのファンでなくても、ホラー受容の楽しさが溢れた(と思われる)一冊としておススメです。この本を大学の「ホラー映画」の授業で使っていたという(「解説」)アメリカはいい意味でおかしい。

(成城比丘太郎)



死の舞踏 恐怖についての10章 (ちくま文庫) [ スティーヴン・キング ]

-★★★★☆
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