★★★★☆

氷(アンナ・カヴァン、山田和子[訳]/ちくま文庫)

投稿日:2017年12月25日 更新日:

  • 異常な寒波に襲われた世界。
  • 私にまとわりつく終末のヴィジョン。
  • アルビノの少女を追う、中年(?)終末旅行。
  • おススメ度:★★★★☆

【あらすじ】
まず、『氷』のあらすじですが、とても簡単、というかそもそも筋というものがあるかどうかもわかりません。物語は、語り手の「私」が以前に会ったことのある少女〔とその夫〕のもとに向かうところからはじまります。その後、少女のもとから去った私に、夫である男から少女が失踪したとの連絡をうけます。物語はここから私が少女をひたすら追いまくる展開の連続になります。ある時は少女に追いつくも彼女に拒絶されたり、少女をかくまう「長官」なる魁偉な人物と対峙したりして、氷雪による凍結の猖獗しようとする世界を移動しながら紛争に明け暮れる国や享楽あふれる国などをロードムービーさながらに経巡るのです。せまりくる終末の脅威(「氷河期のサイン」)をその身に感じた私は、少女とともにこの「超絶的な世界」を一体どこへ向かうのでしょうか。

【印象と感想と、とある終末アニメの感想】
本作の冒頭は、「私は道に迷ってしまった」ではじまります。「道に迷ってしまった」という私(作者)の表明は、読みすすめるうちにこの作品にとって重要なフレーズなのではないかと思われてきます。(一般に)小説を書く時に(一番)悩むのは、作品の出しだと思うのですが、そのわけは、それによって作品の全体性が象徴されるからではないかと思われるからです。作者がこの書き出しをどうするかについて迷ったかどうかわかりませんが、「迷った」ということが『氷』での私の心理状態を表している部分はあるでしょう。

語り手の私は、どこかの国のあるポストについているようなのですが、その彼がなぜ少女にそれほど執着するのかわからないうえに、「二十一(歳)」といわれるすでに少女の範疇に入らないだろう彼女を「少女」と呼ぶのもよくわからないし、そもそもこの世界(地球)を覆い尽くそうとしている寒気(氷)についてもよくわからない。全てが私に謎としてあらわれるさまは、どのような現実であれ、人間は等しく謎に直面して生きていることの一面なのかもしれない。

とにかく本書で、ものすごい存在感を放っているのは、語り手の私がひしひしと感じる世界の終末のヴィジョンと、少女を追っているときに幻視する蜃気楼のような彼女のイメージです。世界は迫りくる寒気に混乱し、ある国は荒廃し、またある国では戦争が起こります。そうした世界レベルでの災厄は、カタストロフィのイメージを伴って私にまとわりつき、そのなかで私は少女を見つけ出すというパーソナルなひとつの目的をもっています。だからでしょうか、この終末を描いた絵画の連作を思わせる世界に見出されるのは、時に〔暗鬱な世界と、苦しめられる少女の〕イメージの奔流であり、読み手は今なにが語り手に視えているのか把握しにくくなります。しかし、そういうものだと思ってこの流れに(読む)リズムをのせていくと、次第に波長があってきて、主人公が感じているはずの焦燥や孤絶がわかるかもしれません。

ところで、2017年秋期アニメ『少女終末旅行』でも終末世界を舞台にしていました。こちらでは『氷』とは違い、崩壊した文明世界というポストアポカリプス的な作品です。このアニメの主な登場人物は、チトとユーリの少女二人だけ。二人は廃墟同然の都市を愛車ケッテンクラートに乗ってさまよいながら、食料調達に奔走することを基本に、たまに生き残り(?)と思われる人物(や機械)と交流しつつ、一見のんびりとした廃都市旅行を続けます。二人のかるいボケとゆるいツッコミという役割は、『東海道中膝栗毛』の「弥次・喜多」を思わせるような気がしないでもない。私がこのアニメをみていてふと思ったのは、「はじめての(あてのない)おつかい」の終末バージョンです。お使いにだされた子どもたちが、どこへ行くのか何を頼まれたのかわからないままに外に放り出された感じを受けました(まあ、二人が旅に出たのには理由がありそうですが)。二人には、キャラクターの絵柄からは感じられない妙なたくましさがあり、そこにひとつの見所があります。時にほのぼの、時にハラハラ、時に寄る辺のない漂流気分、時に不穏なヴィジョンが散りばめられた本作には、文明世界の行き着いたあとの(都市)サバイバルであり、人間存在〔と文明〕の(再)発見ドラマでもあります。

(成城比丘太郎)


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