★★★☆☆

汚れた檻 (高田侑/角川ホラー文庫)

投稿日:2018年10月15日 更新日:

  • 貧困層の泥沼の社会生活をホラー風味で
  • 犬の繁殖現場を舞台にしたエグイ話
  • 落ちが……と、個人的な既視感
  • おススメ度:★★★☆☆

読み始めてすぐにデジャブに襲われた。それもそのはず、最近紹介した「うなぎ鬼」と、よく似た文体、よく似た展開……と、思ってみると同じ作者だった。そりゃ似てるはずだ(間抜け)。前回は「週刊実話系ホラー」などと書いたのだが、今回も基本的には同じ。

(あらすじ)主人公・辻原は冴えないプレス工場に試用期間として雇われている元ベースマン。単調な仕事と安い給料にうんざりしている。職場の人間関係も最悪で、直属の上司にはマルチ商法に勧誘される始末。彼の唯一の楽しみは休日の競艇だった。もちろん、勝てないのだが、そこで彼はかつての同級生「牛木」に出会う。彼は言葉巧みに辻原を自らの仕事に誘う。彼の生業は犬の繁殖業、犬を育ててペットショップに売る仕事だ。給料は前の職場の倍を出すという。辻原は胡散臭さを覚えつつも、その給料に惹かれていく。

社会の底辺をさまよっている人間に、うまい儲け話とくれば、もうまともな展開は期待できまい。この後、辻原はプレス工場で正社員として雇われることに決定するのだが、それを蹴って、牛木の会社で働くことになる。そこから、歯車が狂い始める。どう歯車が狂うかは、読んでのお楽しみということで。

で、終われば紹介する意義がないので、ホラー小説という観点でもう少し突っ込んで語ってみたい。これは勝手に名付けているのだが、プロレタリア・ホラーという労働者が資本家に酷使されるというのが縦糸。私の原体験として「あゝ野麦峠」や「蟹工船」がそれに当たる。本来は文学のジャンルだが、物語の核は同じと思う。資本主義という世界で、意に反して過酷な労働に従事させられるという点は、私にとっては文学というよりは完全にホラー。「望まない労働」の恐ろしさは、この歳になると骨の髄まで身に染みて理解している。

少し想像してみればお分かりいただけると思うが、わずかな賃金のために、生命すら投げ出さずにはいられない切なさと苦しさ。老害の説教のようで誠に申し訳ないが、もし、今、社会人になっていない方がこの文章を読んでいるとするなら、めいっぱい勉強し、世の中の役に立つ=お金の稼げる知識と技術を身に着けて欲しい。その時期の勉強は社会人になってから行う勉強の10倍、いや30倍は意義がある。44歳と18歳(あるいは22歳)不可能とは言わない。だが、100メートル走で、20メートル以上のアドバンテージがあると考えてみたらどうだろう? この差を埋めるのにどれだけの労力が必要か。もちろん、歩いてゴールするのも自由だ。ただ、この100メートル走は、コースが一定の速度で消えていくのである。そこに落ちたらどうなるか……それは、本書を読んでみれば良く分かる。

しかしまあ、誇張されているとはいえ、ペット産業の裏側を覗くというのは非常に後味の悪いもの。私はペットを飼うことを好まないが、もし、愛犬家であれば、本書は嫌悪感で読み進められないかもしれない。リアリティという意味では少々「?」な部分もあるが、多かれ少なかれ望まれないペットはこういう運命をたどるだろうということは想像に難くない。人間の友としての犬を否定する気はないが、資本主義に組み込まれた以上、ペット産業も闇の世界とは無縁ではいられないだろう。闇に呑まれれば、平穏な日常は崩壊する。簡単に言えば、資本主義社会の闇とは死と仲良しだ。

少々脅かし過ぎか。そういった矛盾と戦ってきたのが現代社会でもあるので、様々な救済措置が日本の現社会では用意されている。それでも、働くということはある種の闘争で、敗者が生まれるのも厳然たる事実。そこから這いあがるも、そのまま本書の辻原のように転げ落ちていくのも、やはり自分次第という事だろう。

必要以上に煽った感はあるが、「うなぎ鬼」も含め、社会の怖さを仮体験するにはちょうどいいと思える一冊だ。しかし、主人公が都合よくモテたり、落ちのあたりが少々投げっぱなしに思えたり、キモさやグロさはあるが、それ以上の深さが無かったりするのが不満だ。前半はよくある展開なので感情移入できるまで時間がかかるとも思う。

超常的な要素は全くないので、上記の紹介を読んで、何か面白そうと思えればご一読を。ペット好きな方や、露悪的表現が嫌いな方にはお勧めできない。あと、失業中の方も落ち込むのでやめた方がいい。本書を笑い飛ばせる方は、きっと、幸せな人生を歩まれているだろう。

(きうら)


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