- 江戸の刑罰と牢屋に関する、古典的名著。
- 処刑の記述や、牢屋内でのドキュメントは結構おそろしい。
- 刑の執行や牢屋内の取り決めは、かなり細かい。
- おススメ度:★★★★☆
著者は、「日本法制史」の研究者で、この本の原本は、50年余り前に、「中公新書」の一冊として出版され、それから長く愛読されていたようです(私も最初に読んだのは、それでした)。ここでは、江戸時代の刑罰システムと、「未決囚」を収監(勾留)する「牢屋」でのおそろしい実態が、メインに述べられています。もとが新書なのでそれほど難しいわけではないですが、現在出版されている軽めの親書に比べると、学術書のかおりはします。とはいえ、面白エピソードもあって、楽しく読めます。
著者は、江戸の刑罰を6種類に分けていますが、その中でも一番重いのが「生命刑(鋸挽、磔、獄門、火罪、死罪、下手人、斬罪、切腹)」で、いわゆる死刑にあたるものです。現代からすると相当残酷なものです。江戸の前期は、過酷だった戦国時代の名残で、残酷なものも残っていたが、寛保2年(1742年)の『公事方御定書』下巻制定以降、死刑のやり方は次第に軽くなり、江戸後期になると死刑そのものも減っていったようです。それでも、死罪で斬首される様子や、磔にされるものの様子や、火罪での「火焙(ひあぶり)」の順序などは、相当エグいものがあります。
「江戸幕府法における主な刑罰は、死刑と追放刑」で、結構簡単な(現在から見れば)理由で死刑にしたりもしています。また、死罪になるものの手続きと、その執行までの一部始終にも細かいやり取りがあって、なるほどと感心します。一番感心したのは、「鋸挽(のこぎりびき)」に関してでしょう。戦国時代に行われていたこの「鋸挽」(時代小説でたまに読んだことがありますが、かなり残酷です)は、江戸に入り「主殺し」に対してのみ科されたのですが、一般的には「形式化」して、単なる「真似事」になっていたようです(しかし、結局引廻しの上、磔にされるのですが)。
この本で一番分量がとられているのは、「牢屋」に関しての実態です。詳しくは読んでいただきたいのですが、牢内での牢人や役人などのやり取りは、知恵比べの感もあって興味深いです。「未決囚」が裁決を受けるまで一時留め置かれる「牢屋」内は、隠微な世界を覗いたようで、シャバとは違うことがよく分かります。「牢屋」だけの作法がいくつもあり、私刑が横行し、時と場合によっては殺人を犯しても咎められることがないようです。衛生状態も悪く、まあ、ありていに言って、入りたくはないですね。
面白エピソードがいくつかあるので、2つほど紹介してみます。一つは、「引廻し」でのこと。江戸では火罪の刑場へ行く前におこなう「引廻し」で、「科人(とがにん)」に好きなものを食わせていたのですが、ある時、道中で見かけた「(子供に乳をのませていた)若い細君の乳」が飲みたいという科人がいて、その時には飲ませてやったというものです(その後、こういう要求は認められなかったという、なんともクスっとする話)。二つ目は、牢内でのこと。「囚人をいじめた岡引(おかっぴき)が入牢すると」、復讐のためか、「糞便」を食わせたことがあるという。これなどはまさに、<臭い飯>でしょうか(お粗末)。
※この本を安価で読む場合、「中公新書」版の方がよいでしょう。
(成城比丘太郎)
(編者補足)過去に紹介した「拷問の話(岡本綺堂)」も一緒に読まれるとより日本の拷問に詳しくなれるでしょう。そういう需要があるかどうかはよくわかりませんが。