★★★☆☆

深い河 (遠藤周作/講談社文庫)

投稿日:2018年6月13日 更新日:

  • インドで人生の意味を問う群像劇
  • 深い……のかどうなのか、私にはわからない
  • 基督教への分かりやすい考察
  • おススメ度:★★★☆☆

(あらすじ)妻をがんで亡くした男、基督教徒の男を弄んだ女、ビルマの戦場で地獄を見た老人、死に瀕して鳥と心を通わせた童話作家といった面々が、それぞれの思惑を抱き、インドへの旅に出る。インドではガンジス川を中心に、生と死が交錯するなか、それぞれの人生における課題を探る。基督教への考察も掘り下げており、神とは何かを問うような内容になっている。

あまりに有名な遠藤周作の作品。今回は知人に勧められて読んでみた。「DEEP RIVER」として宇多田ヒカルが影響を受けた話も有名だろう。私は何の予備知識もなく読んでみたので、何の話なのかは事前に分からなかったが、要は人生の意味と神の意味を問う文芸作品である。

ホラー的な意味を最初に書いておきたいが、上記のビルマで地獄を見た老人の話がそれに近い気がする。しかし、そのエピソード自体は既視感に溢れるもので、なぜかというと「野火」で読んで掘り下げられていたエピソードであるからである。老人の体験した地獄と、彼の友人の話は分かる。しかし、これ自体は「野火」の方が遥かに心に迫るものがあった。

おそらく、群像劇である点が、ある意味テーマを分散させているようにも思える。もちろん、それぞれが抱える問題が共通のテーマであるということは承知の上で書いている。彼ら個別のエピソードは、興味深いものばかりで、それぞれの章は短編としても読めるほどの完成度だとは思おう。そして、最も重要なのは、美津子という基督教徒の男を弄んだ女性である。実質上の主人公ではないかと思う。

しかし、困ったことにこの女性にはあまり共感はできない。共感ができないように書かれているからなのだが、そのせいで、若干物語としてはもどかしく感じることもある。逆に大津というその対象となった男の生きざまには、心揺さぶられる要素がある。このキャラクターの一連の流れは一読の価値がある。

とはいえ、人生の不条理を描く話は無数にあり、ラストの無常感も残念ながら既視感がある。私なりの理解では、神はそれぞれの心の中にいるという結論も、胸に刺さってはこなかった。

本という物は、人生には読むべき時とタイミングというものがある。宇多田ヒカルは恐らく、この本にちりばめられた何かのワードに心惹かれたのだろう。その、理由は分かる気がする。

読み終わっても、不思議とふわふわした印象の本作品。私が無宗教だからだろうか、それとも、人生に打ちのめされ過ぎたからだろうか? 読むべき時が違えばもっと感想も違ったかもしれない。読む人の分だけ、感想が変わるような本なので、このサイトの評価は気にせずに、気になったら一度読んでみられてはどうだろうか?

(きうら)


-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

死の病いと生の哲学(船木亨/ちくま新書)~読書メモ(62)

読書メモ(062) がん療養の日記 がんになってから考える死と生 オススメ度:★★★☆☆ 著者は、フランス現代哲学専攻の学者。この人の著作はひとつくらいしか読んだことがなかったので、どういう哲学的信念 …

朝の少女 (マイケル ドリス(著)/灰谷健次郎(訳)/新潮文庫) ~ややネタバレ気味感想

灰谷健次郎っぽい児童文学と思わせて…… とんでもないオチを仕込んでいる食わせ物 基本的には美しい人間賛歌、基本的には。 おススメ度:★★★☆☆ 最初に書いておきたいが、この本の真の読書体験をされたい方 …

波よ聞いてくれ(1) (沙村広明/アフタヌーンコミックス)

ラジオにまつわるドタバタコメディ ちょっとオタク風な作風 作者が伸び伸びとしている おススメ度:★★★☆☆ (あらまし)繁盛しているカレー店の女性店員であるミナレは、仕事はできるが、恋人に50万持ち逃 …

汚れた檻 (高田侑/角川ホラー文庫)

貧困層の泥沼の社会生活をホラー風味で 犬の繁殖現場を舞台にしたエグイ話 落ちが……と、個人的な既視感 おススメ度:★★★☆☆ 読み始めてすぐにデジャブに襲われた。それもそのはず、最近紹介した「うなぎ鬼 …

念力―超能力を身につける九つの方法(桐山靖雄/徳間書店)※絶版本

呪いの実践教科書 かなり古い本 効果は? 推して知るべし おススメ度:★★★☆☆ 本棚を漁っていたら、かなり怪しい本が出てきた。なんと1973年初刷で、1987年の第40刷を持っている。前に「呪いの恐 …

アーカイブ