★★★☆☆

深海のYrr〈上〉(フランク・シェッツィング(著)、北川和代(訳)/ハヤカワ文庫)~概略と軽いネタバレ感想

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  • 世界の海で起こる異常事態を描くSF海洋ディザスター系
  • 謎のゴカイ、人を襲うクジラなど「海」が人を襲う
  • 3分冊の第1冊目なので、全体のプロローグに過ぎない内容
  • おススメ度:★★★☆☆

結構前に上巻と中巻を読んでそのまま興味がなくなり、放置してあった小説だが、この度、下巻を買ってきたので再読してみた。上記の通り、海洋系のディザスター小説(少なくとも上巻ではその前触れを感じる)だが、前に紹介した有川浩の「海の底」等とは違い、素人目にはきちんと科学的事実を基に真面目に構築された小説に思える。

(あらすじ)ノルウェー海で無数の謎の生物が発見される。海洋生物学者であるヨハンソンの調査によって、それは海底のメタンハイドレートの層に生きる新種のゴカイであることが判明する。一方、カナダ西岸ではホエールウォッチングの船やタグボートなどが、クジラやオルカによって襲われる。その調査には、主に生物学者であるアナワクが関わる。後半ではさらに世界各国の海で異常事態が発生する。一体、世界の海では何が起こっているのか?

あらすじと書いたが、上巻自体が全体のプロローグ的な位置づけなので、大体上記のプロット通りの物語が進行する。当時の煽り文句は「ドイツでダ・ヴィンチコードからベストセラー第1位の座を奪った驚異の小説、ついに日本上陸」であった。と、いうことで日本では珍しいドイツ産のSF小説ということになる。

小説は群像劇として、割とスローテンポで進行する。あらすじに書いたヨハンソンやアナクワといった科学者が中心だが、彼らに関わる人物も多数登場する。ヨハンソンなどは、女性とのロマンスめいたエピソードも描かれる。では、各キャラクターが特別魅力的かというとそうでもない。やはり、小説のストーリーを進行させる機能を割り振られたキャラクターのように感じてしまう。それが一回目の読書が頓挫した原因だろう。

一方、メインの海洋ディザスターとしての要素は、上巻では控えめだ。「何かが起こる」予感はするが、直接的被害は限定的で壊滅的なところまでは進まないので、作者の「仕込み」を受け入れながら読書を進めることになる。まあ、題名が「深海のYrr」であるからには、必ず「深海のYrr」がいるわけで、必然的にそれが何かを想像しながら読むというスタイルになる。なので、謎解きサスペンスとしてはそれほど期待しない方が良いと思う。

ただ、「捕鯨」に関して興味深い言葉があった。日本はもちろん捕鯨国であり、私の少年時代は当然のように鯨はありふれた食材だった。現状はご存知の通り、反捕鯨のまま推移している。それについて、ここでとやかく持論を述べるつもりは無いが、上記のようにホエールウォッチングのシーンが出てくるので、基本的には本書は捕鯨には反対のスタイルだと思う。ただ、作中にはホエールウォッチングすら鯨への虐待と捉え「ホエールウォッチング・ウォッチング」という手法で抗議するシーンがある。その流れで、鯨を特別視する余り、鯨を「擬人化」していないか? というような文章が有った。つまり、鯨の知能が高い事を理由に、人間と同じ「幸福尺度」で計っていいのかという問いかけである。

鯨も子供を産んで育てるが、じゃあ、人間と同じような「愛情」を注いでいるかと言われると、それは分からないのではないか。例えば食糧難の時、何の躊躇もなく子供を捕食する哺乳類がいるとして、それを人間が「残酷だ」と断罪できるのかという問題だ。人間には人間の都合があるのであり、環境を破壊してはいけないのは、名目上どうであれ、それが自分たちの存在を脅かすからだ。もし、海に完璧な自浄作用があり、汚水を完全分解するとすれば、人間は「環境問題」に取り組むだろうか? それは現実的な話ではないので、ただの余談だが、たぶん、何も考えずに汚水を流すだろう。

小説的には、そういった人間の矛盾をテーマにしている節がある。ホラーとしてみた場合、至極真っ当なSF系のホラー小説として読むことができるのだが、すでに上巻で今後の流れが容易に予想できること、人物造形にあまり魅力を感じないことなどから、今回の評価とした。あまり引っ張っても何なので、残り2巻の内容は次回、まとめて紹介する予定である。

(きうら)



深海のYrr(上) (ハヤカワ文庫) [ フランク・シェッツィング ]

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