★★★☆☆

現代百物語 因果 (岩井志麻子/角川ホラー文庫)

投稿日:2018年5月24日 更新日:

  • 2ページ完結の短編ホラー99話
  • 密度の濃い一味違う短編ホラー
  • 恐怖よりも悪意を感じる作風
  • おススメ度:★★★☆☆

このブログでも良く取り上げている「本当にあった怖い話」系の本だが、今回は、あの「ぼっけえ、きょうてえ」の作者である岩井志麻子氏が著者であるという点が変わっている。余談だが「ぼっけえ、きょうてえ」は短編としては、最強に「嫌」な話で、怖い事は怖いのだが、それ以上に後味の悪さというか、全体に張り付いているべったりとした生臭い情念の渦のようなものが実によく描かれている。これは傑作ホラーだと思う。

(あらすじ)というのは、この手の本にはないのだが、現代百物語としてはシリーズ8弾となっている。これもこの種の怪談集にはよくあることで、特に順列は関係ないと思い、何気なく読んでみた。構成は前者の通り文庫で見開き2Pで一話完結の体裁を取っており99話の恐怖譚が収録されている。厳密には連作になっている話も多いので、完全な短編集ではないが、区切りがはっきりしているので読みやすい。

岩井志麻子氏はメディアにも結構出演されているようだが、そちらの方には疎いのでどんな方か顔も知らない(検索すれば出てくるだろうが)。完全に文字情報だけで、著者のパーソナリティや作風を書いてみる。

基本、本書では、彼女が周辺の人物に取材して聞きだした話を元に、たぶん事実に近いネタを集めて纏めている。読んでいると分かってくるのだが、幽霊や怪奇譚よりも、メインとなっているのは、人間の悪意である。著者も作中で本当に怖いのは、そっちの方だと述べている。

例えば、第45話に「告げ口のせいではない」という短編があるのだが、これが実に後味が悪い。

詳しく書くと短編なので、転載になってしまうので、概要を語ると、まあ、友人に対して働いた悪意ある行動を、まるで武勇伝のようにあっけらかんと語る女性の告白になっている。

まず、自分に罪悪感が無いのが怖いし、語り手の女性は因果応報なのだから、自分が告げ口しなくても友人たちは破滅したはずだと確信を持っているのが、薄気味悪い。そしてさらに、その女性自身も一応不幸になるというオチもつくのだが、どこを切っても悪意しか感じない。こういった話が嫌ななのは、我々の生きている卑近な社会にも必ずこの手の「悪意」が潜んでいるということだろう。

その証拠に、ネットを開けば、理由のない恨みや嫉妬、逆恨みや言葉による私刑などが満ち溢れている。Twitterも結構利用しているのだが、ほとんどは何かを「批判」していることが多い。政府の場合もあるし、個人の場合もある。それが自分を攻めている場合もある。ただ、誰かを褒めたたえるよりも批判・中傷・誹謗していることも目に付くのも事実だ。

この短編集が何となく「嫌」なのは、そういう身近な悪意が明確にされている点だろう。これは著者の作風と言えるかもしれない。

ちなみに、そこはプロの作家、凡百の怪談集とは違い、短編の中にも何重にも物語をひっくり返すネタを仕込んでいたりして、密度の濃さでは素人の編纂した「怖い話集」とは比べ物にならない。ただ、この「因果」というか「悪意」というか、人間の持つどうしようもない負の側面を読み続けられるかどうかは個人の趣味次第というところ。第8弾となっているので、結構人気はあるのだろうが、じゃあ、次の一冊をこの続編にしたいとは思わない。

空いた時間に、ちょっとだけ人間の暗部を除くつもりで開くくらいの気持ちで読むのがいいのではないだろうか。個人的には怖いとは思わなかったが、十分嫌な気分にはなった。それをホラーと呼べるのかどうかは正確には分からないが。

(きうら)

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